第49話049「絶望と希望と」
ラウはレナの所へ行き、猿ぐつわと魔道具の魔力封印の縄を外した。
「ラウさんっ!」
「レナちゃん、もう大丈夫だよ。ごめんね⋯⋯俺の身内がこんなことを仕出かして。巻き込んじゃって⋯⋯」
「い、いえ、大丈夫です。助けに来てくれてありがとうございますっ!」
「すぐに終わらせるからね」
「はいっ!」
そう言ってラウが再びゴウリキに対峙する。
「フン。あの程度のことで俺様に勝ったつもりか?」
「まあ、そんなところだ」
「⋯⋯なるほど。では、少し本気を出してあげようかな?」
「ふっ。無理すんなよ、おっさん」
「さて⋯⋯それはどう、かなっ!」
ドン!
ゴウリキが地面を一蹴りしただけでラウの直前まで接近し掴まえにきた。しかし、
「甘いっ!」
ラウはさらに早い動きで横に身をかわすと、地面を蹴ってその勢いでゴウリキの手が伸びきりガラ空きの横腹に膝を入れた。
「ぐっ!」
「オラ、もう一丁ぉぉぉぉぉ!」
ドゴッ!
横腹の膝蹴りで動きの止まったゴウリキに対し、ラウはさらに背中に肘を入れる。
ズズ⋯⋯ン⋯⋯っ!
背中に肘を入れられたゴウリキがその勢いで地面にうつ伏せで倒された。
「なっ?! そ、そそそ、そんな⋯⋯馬鹿⋯⋯な⋯⋯っ?!」
タオが力ない言葉を発しながらヨロヨロと膝をつく。
「タオおじさん。あんたのさっきの証言、法廷で発言してもらうぞ⋯⋯ライオット王子の策略だったと」
「お、終わりだ⋯⋯おしまいだ⋯⋯」
タオが絶望色を浮かべた顔で沈む。
「さ、帰ろうか⋯⋯レナちゃん」
「はい!」
そういってラウがレナの手を取ろうとした⋯⋯その時だった。
ガシっ!
「え?」
倒されたはずのゴウリキの手がラウの足を掴まえた。
「は、離せっ! 離せっ! 離せぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!!!!!!!!」
ラウは倒れているゴウリキの体に何度も蹴りを入れ、その手を離させようとした⋯⋯⋯⋯が、ゴウリキは全く微動だにしない。すると、
「よいしょっと⋯⋯」
「な⋯⋯っ?!」
グググググ⋯⋯。
ゴウリキがラウの足を掴んだまま、ゆっくりと立ち上がる。そして、
「て、てめえ⋯⋯」
「ほいっと!」
ズガーーーーン!!!!
ゴウリキが片手でラウを反対側の壁に投げ飛ばす。その瞬間——執事や使用人の何人かが巻き込まれた。
「ごはっ!!!!!」
ラウは奇しくも巻き込まれた執事や使用人のおかげで致命傷は免れたが、今の一発で意識が掠め取られるほどの衝撃を受けてしまう。
「ん〜? まだ意識は飛んでいないようだね? 人間クッションで助かったのかな?」
そう言いながら、ゆっくりとゴウリキがラウに近づいてくる。
「な、なんで⋯⋯さっき⋯⋯気絶してたんじゃ⋯⋯」
「んなわけあるか、バーーーーーーーーーーーーカっ!」
「っ!?」
「演技だよ、え・ん・ぎ! わかる?」
「え⋯⋯演技⋯⋯だと⋯⋯っ?!」
「いや〜、俺、好きなんだよね〜。相手が余裕ぶっこいて「倒した〜!」⋯⋯と思わせてからの大どんでん返しが!」
「なっ⋯⋯?!」
「ねえ、ねえ、勝ったと思った? 思ったよね? でもね、でもね、あの攻撃⋯⋯⋯⋯まったく効いてましぇ〜〜〜〜〜〜〜ん!」
ゴン!
「か⋯⋯っ!?」
ゴウリキが無造作にラウの頭を殴る。
「ちなみにな? 一応言っとくが俺は⋯⋯A(+)ランカーの冒険者だぞ?」
「っ?! え⋯⋯A(+)⋯⋯ランカー⋯⋯」
ゴウリキのランクを聞いて、ラウの顔に絶望の色が走る。
「だからよ、ぶっちゃけC(+)ランカーの攻撃なんてよ⋯⋯⋯⋯ちっとも効かね〜んだよっと!」
ゴン!
「ぐ⋯⋯っ?!」
ゴウリキがまたラウの頭を殴る。
「や、やめてーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!」
「ああん?」
ゴウリキがその声の方向に振り向く。その声を上げたのはレナだった。
「ラウさんから離れて! わ、私が相手よっ!」
「は? お前が? 本気か? わははは、こいつは面白い!」
「や⋯⋯やめ⋯⋯ろ⋯⋯レナ⋯⋯ちゃ⋯⋯」
「ラウさん! わ、私が今、助けるから!」
「助ける? お前が? このラウより弱そうなお前が? わはははは!」
ゴウリキがレナを見て大笑いをする。
「わ、笑うなぁぁぁぁぁぁぁっ! 私は本気だっ!」
「ほう? 本気? そうか? ちなみに⋯⋯」
フッ!
「えっ?! き、消えっ!?」
ドコッ!
「おご⋯⋯っ?!」
レナは一瞬で迫ったゴウリキに反応できず、そのまま腹に一発をもらった。
ゴウリキの拳のあまりの重さにレナは立つことすらままならなくなりそのまま膝をつく。
「おいおい、お嬢ちゃん。今の反応できないでどうするよ? 俺が手加減してなかったら死んでるぞ?」
「あ、あああああ⋯⋯」
レナの顔にお腹の痛みと「絶対に勝てない」という絶望の表情が浮かぶ。
「は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜⋯⋯⋯⋯つまんね。もう殺すか?」
「は、早く始末をしてくださいませ、ゴウリキ様っ!!!!! 今、学校にはあのSランカー冒険者のリカ・ブリッジストーンがいます! それに、その少女の兄であるトーヤ・リンデンバーグもかなりやばい奴です! 早くしないとここに来てしまいますぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!!!!!!」
タオが慌ててゴウリキに指示を出す。
「ああんっ!? リカ・ブリッジストーンだぁ? あのちびっ子冒険者がSランカーなわけないだろうが! あんなの何かの魔道具使って力を誤魔化してるだけだ。それよりも今、お前何つった? このガキの兄貴がどうとか⋯⋯」
「は、ははは、はい! この少女の兄であるトーヤ・リンデンバーグという生徒はそこのラウと同い年でありながら、何でも単独でエビルドラゴンを倒したというもっぱらの噂でして⋯⋯」
「エビルドラゴン? あのBランカーの魔物をか? しかも生徒だと? こいつは面白ぇじゃねーか。そいつはここに来るのか?」
「お、おそらく! リカ・ブリッジストーンと合流したらしいので、ここに辿り着くのは時間の問題かと⋯⋯」
「そうか! じゃあ、ちょうどいいじゃねーか! 二人まとめて殺っちゃうわ!」
「え、えええええええ!!!!!!!! そ、そそ、それはさすがに⋯⋯ゴウリキ様でも⋯⋯かなり難しいのでは⋯⋯」
「ああん?! 俺が負けるって言いてぇのか?!」
「い、いいいいいいえ!!!! そ、そそそ、そのようなことは⋯⋯っ!」
「心配すんな、ジジイ。俺の見立てだとリカ・ブリッジストーンはSランカーじゃねーよ。よく言ってAランカー止まりだ。それにそのエビルドラゴンを倒したって奴が⋯⋯仮にその話が本当だとしても、まあ、よくてB(+)ランカー程度だ。その程度の奴らなら二人いても俺には勝てねーよ。それに、リカ・ブリッジストーンはお前らにとって邪魔な存在だったんだろ?」
「は、はい⋯⋯まあ⋯⋯」
「だったら俺が今ここで殺したら一石二鳥じゃねーか!」
「そ、それはそうですが⋯⋯」
「ああん? なんだ? お前、俺のことが信用できねーのか? あんま舐めてるとお前から殺すぞ、コラ?」
「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!!!」
そう言ってゴウリキがタオに近づこうとした、その時だった。
「おい⋯⋯」
「ああん?」
ゴッ!
ゴウリキが声のほうに振り向いた瞬間——拳がゴウリキの顔に直撃。その勢いで壁に吹き飛ばされる。
「か、かは⋯⋯っ?!」
ゴウリキは驚愕と苦悶の表情で血ヘドを吐きながら、拳を入れた相手を睨む。
「⋯⋯な、何者だ、てめえ?」
しかし、その相手はゴウリキのことを無視し、レナとラウのほうへと歩く。
「ごめん、遅くなった⋯⋯」
「っ!? お、おおお、お兄⋯⋯」
「うおっ?! ボロボロじゃねーか、ラウ。でも、よかったよ。お前が黒幕じゃなくて。後でゆっくり話聞かせろよ?」
「あ⋯⋯あああ⋯⋯ト⋯⋯トー⋯⋯」
二人に優しく声をかけたその生徒は、再びゴウリキのほうに顔を向ける。その男の名はもちろん⋯⋯トーヤ・リンデンバーグ。
「俺の妹と友達に⋯⋯何してくれてんだ、コラぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「お兄ちゃんっ!!!!!!!!!!!!!!!」
「トーヤっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ドンっ!
ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「っ?! こ、これ⋯⋯は⋯⋯!!!!」
「「「「「う、うわーーーーーーっ!!!!!!!!!」」」」」
トーヤが教室の時よりもさらに強い魔力放出による威圧を勢いよく飛ばした。
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