第48話048「黒幕」
「そして、もう一つが⋯⋯ここだ」
「えっ?! こ、ここって⋯⋯まさか⋯⋯」
レナが拉致されている場所として、リカ・ブリッジストーンが示したもう一つの場所。それは、
「リーチェン高家っ!!!!」
「そうだ」
リカ・ブリッジストーンが淡々と肯定の言葉を吐く。
「い、いいい、いや、いやいやいや⋯⋯ない。ないよ、それは!」
「なぜ?」
「なぜ⋯⋯て。あいつは⋯⋯ラウ・リーチェンはそんな奴じゃねーよ。これまで一ヶ月ちょっとだけど、つるむことが多かったからいろいろ話をしたことがあるけど、あいつは俺たち平民に対しても優しかったし気さくに話していた。だから、まさか⋯⋯そんなことは⋯⋯」
「なるほど。つまり、ここに名前が出てくるにはあまりにも『場違いな人物』てことか?」
「ああ、そうだ」
「なるほど。ちなみに、推理ものの映画で『名作』と感じる作品の犯人の特徴は?」
「そりゃ〜、一見仲間と思っていた奴が犯人だとか、容疑者として出てこない奴が犯人だとか⋯⋯⋯⋯っ!?」
「⋯⋯『真実は小説よりも奇なり』といったところだな」
「マ、マジ⋯⋯かよ?」
「リーチェン高家。そいつらが今回のレナ・リンデンバーグの誘拐もアリス殺害も企てている組織の本丸だ」
「そ、そん⋯⋯な⋯⋯っ!!!!!!!!!!」
俺はリカ・ブリッジストーンのその言葉に強いショックを受けた。
「な、なんで⋯⋯なんで、あのラウ・リーチェンが⋯⋯」
この学校に来てオーウェン以外で同性の友人と思っていたのがラウ・リーチェンだった。
他の貴族連中とは違って俺以外の平民の生徒にも気さくに話しかけていた、あの⋯⋯あのラウ・リーチェンが⋯⋯リーチェン高家が⋯⋯まさかレナの誘拐もアリス殺害も企てていたんだなんて。
「トーヤ。いいか? 今はレナ・リンデンバーグの救出が最優先だ。二人で手分けして向かうぞ。お前はどっちに行きたい?」
「⋯⋯お、俺は」
「わかった。私はマクラクラン高家に向かう。リーチェン高家はお前に任せるぞ」
リカ・ブリッジストーンは一度俺の顔を見て、そう指示を出した。そして、もう一つ、
「トーヤ。一つだけ言うなら⋯⋯ラウ・リーチェンはこの計画に関わっているかどうかは今のところグレーだ。私たちが調べた範囲でもラウ・リーチェンだけは謎の部分が多くてな⋯⋯だから、あとは⋯⋯自分で確かめてみろ」
「⋯⋯え?」
「じゃあな」
そんな助言を残して、リカ・ブリッジストーンはすぐに校長室から出てマクラクラン高家へと向かった。
「⋯⋯ラウ」
俺は教室に行ってラウ・リーチェンにいますぐ話を聞きたかったが、
「ラウは後だ。まずはレナを助けるっ!」
俺はレナの救出を優先するべく、リーチェン高家の寮へと向かった。
*********************
——リーチェン高家 専用寮
「急げ! ここから脱出するぞ!」
リーチェン高家の専用寮では執事や使用人が慌ただしく動いていた。
「タオ様! この人質はどうしましょう!」
「うぐっ!? むぐぅぅぅうぅうぅぅぅっ!!!!!!!!」
ある程度のランカーの魔力を封印する特殊な縄の魔道具で腕を縛られ猿ぐつわをされたレナが使用人に無造作に引っ張られる。
「人質を最優先で移動しろ! あのトーヤ・リンデンバーグという奴は想像以上の化け物だがこの人質がいれば何とでもなる! 急げっ!」
「「「「「はっ!」」」」」
数十人の執事や使用人に指揮をする男はタオ・リーチェン。リーチェン高家当主の弟にあたる男でガルデニア神聖国の一般貴族の重要人物を取りまとめている男である。
「⋯⋯タオおじさん。まさかおじさんがアリス王女殺害やレナちゃんを誘拐していたとはさすがの僕も気づきませんでしたよ」
「っ!? お、お前は⋯⋯⋯⋯ラウ!」
「「「「「ラ、ラウ様っ!!!!!!」」」」」
そんなタオ・リーチェンの目の前に突然現れたのは⋯⋯ラウ・リーチェン。
「いくら父上の弟だとしても、これは絶対に許されないやつですよ?」
「うるさい! 若造が知った風な口をっ!」
「父上とジョファ国王は親交も深い間柄だ。そんな父と国王を裏切るような行為⋯⋯いえ、それどころかこの国自体を裏切る⋯⋯いわば国家反逆罪ですよ、これは」
「だまれ! 黙れ! ダマレーーーーーーーーっ!!!!!!!」
「お前らもわかってるのか! お前たちのやっていることは取り返しのつかないことだってことをっ!」
「「「「「うっ!!!!!!!!!!!」」」」」
ラウが周囲の者たちにいつもの軽口ではなく、ドスの効いた鋭い声色で一喝する。
そのラウの恫喝に周囲がシンと静まり返る。
「タオおじさん。これはあんた一人の計画じゃないだろう? 誰が後ろで手を引いているのか⋯⋯わかってはいるがあんたの口から⋯⋯言えっ!」
「フン! 若造が! 少しばかり魔力が高く腕が立つからと調子に乗りおって。いいだろう⋯⋯この計画の首謀者はお前の考えているとおり、あのお方⋯⋯ライオット・グレイス・ガルデニア様だ」
タオ・リーチェンの口から出た人物。それは、ジョファ国王の息子でアリスの兄にあたる男⋯⋯ライオット・グレイス・ガルデニア。
「へぇ? まさか本当に首謀者の名を口に出すとは。あんた、それがどういうことかわかってるのか?」
「ああ、もちろんだとも。別にお前に言ったところでお前が誰かに喋るようなことがなければいいだけだからな」
「何?」
その時だった。
ゴッ!
「ぐほっ!!!!!!!!!!」
ラウは背後から何者かに横腹を拳で殴られ、壁に吹き飛ばされた。
「ふふふ。ラウ⋯⋯お前は確かに強い。その年でC(+)ランカーなのだからな。大人の騎士や魔術士、闘拳士でも平均がCランカーと考えればお前は確かに強い。だがな、そこの男はいくらお前がC(+)ランカーでも話にならんほど強い男だ。なあ、ゴウリキ?」
タオが「ゴウリキ」と声をかけたその男は、身長が2メートルほどの筋骨隆々の巨躯を持つ大男だった。
「⋯⋯タメ口で俺の名を呼ぶな、殺すぞ?」
「ひぃっ?! し、失礼しました⋯⋯ゴウリキさん!」
「ゴウリキ様⋯⋯だ?」
「は、ははは、はひぃぃぃ〜〜〜〜〜! ゴウリキ様ぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!!!!! すみませんでしたぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!」
タオが涙目で拝むようにゴウリキの名を言い直す。
「⋯⋯ほぅ? お前、その年でC(+)ランカーなのか。なるほど、確かにそりゃあすげーな。だが、まあ⋯⋯惜しいよなぁ」
「な⋯⋯なにが⋯⋯だよ⋯⋯」
ラウがフラフラになり血ヘドを吐きながらも、何とか立ち上がってゴウリキの前に対峙する。
「そりゃお前、俺がこれから⋯⋯⋯⋯殺すからだよ!」
「っ!?」
そういうとゴウリキが2メートルもある男とは思えないような、鋭い速さでパンチを繰り出す。しかし、
「はっ!」
「なにっ?!」
ラウがその超スピードのパンチをよけると同時に足払いをした。
ズシン!
ゴウリキがラウの足払いで思いっきり床に倒れた。
「なっ?! なにぃぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!」
タオが信じられないものを見たとでも言わんばかりの驚愕の表情で絶叫する。
「へっ! たしかにさっきは不意打ちを食らったが、図体がデカイだけで別に大したことはないようだな、ゴウリキさんよ?」
「⋯⋯くっ! やるじゃねーか、若いの」
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