第44話044「トーヤ、キレる」



「アリサ様っ! レナちゃんが⋯⋯レナちゃんがいないんですっ!!!!!」

「なに⋯⋯っ?!」


 朝のホームルーム前。いつものように俺とアリスが一緒に教室に入るや否や、血相を変えたミーシャがアリスに駆け寄った。


「今朝、レナちゃんと一緒に学校に行こうと声をかけに行ったんですけど反応が無くて⋯⋯それで嫌な予感がしたので寮長さんにお願いして部屋の鍵を開けてもらったんです。そしたら⋯⋯部屋に誰もいなくて⋯⋯」


 本来であれば朝のホームルームの時間だが、レナがいなくなったことで教室では先生も交えて生徒全員でミーシャの話を聞いていた。


「ミーシャ君、それは本当ですか? 実家に帰ったということはないのですか?」

「わ、わからないです。でも⋯⋯そうだとしても⋯⋯それだったら私に一言あるはずです。なので、sそんなことはないと思いますっ!」


 代表して担任のルイス・ヴェルモンテがミーシャに事情を聞いている。


「なるほど⋯⋯わかりました。とりあえず私はこの事を校長にお話ししてきます。アリス様、申し訳ないですが私が戻るまではここをお願いしますね」

「わかりました」


 そう言って、ルイスは教室を後にした。



*********************



「⋯⋯何があったんですか、アリス様?」

「⋯⋯ラウ」


 リーチェン高家のラウ・リーチェンがアリスに事情を聞きにきた。


「⋯⋯トーヤ君の妹⋯⋯レナ君が⋯⋯いなくなった?」

「え? それって⋯⋯まさか⋯⋯」


 そう言うと、ラウが考え込む仕草をする。


「皆の者っ! 昨夜から今朝にかけてレナ君を見かけた者はいるか?!」


 アリスが怒りの混じった顔で声を荒げる。


「い、いえ⋯⋯」

「み、見てない⋯⋯です⋯⋯」


 周囲の生徒がアリスの言葉に少し怯えながら答える。


 その時だった。


「何やってんだ、お前ら? もう⋯⋯ホームルーム始まるぞ? あれ? 先生は?」

「「「「「っ?!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」


 トーヤが突然『場違い』な言葉を発した。


「ト、トーヤ?」

「あれ、ミーシャ、おはよう。ところでレナは?」

「⋯⋯え?」

「あいつ、昨日めちゃめちゃ怒ってただろ? だから、ホームルーム前にちょっと話しようかと思ってたんだけど⋯⋯」

「ト、トーヤ⋯⋯」


 ミーシャがトーヤの変化に絶句する。そして、それは周囲も同様だった⋯⋯一人を除いては。


「トーヤ!⋯⋯先生は今、レナ君のことで校長先生に報告に行っている」

「アリス?」


 アリスだけはすぐにトーヤに手を差し延べる。


「レナのことで報告? 何で? 何の報告?」

「レナ君が昨夜からいなくなったからだ!」

「⋯⋯っ!?」


 アリスはトーヤの両肩を掴み、目を見て、ゆっくりと、しっかりと、現実を伝えた。


「レ、レナが? や、やめろよ、アリス。そ、そそそ、それじゃあ、まるで⋯⋯レ、レナが誰かに⋯⋯誘拐されたみたいな言い方⋯⋯」

「その通りだ、トーヤっ! たぶん⋯⋯いや、間違いなく⋯⋯アリス君は誘拐されたっ!」

「っ!?」


 普段のアリスならまだ確定された情報でないものをここまではっきり言う事はしない。しかし、今はトーヤにしっかりと現実を受け止めて欲しいということと、自分じゃなくトーヤの妹に被害が及んだことによる悔しさから、見た目以上にアリスも冷静ではいなかった。


「アリスが⋯⋯いない⋯⋯?」

「ト、トーヤ⋯⋯」


 トーヤが虚な目をしながらふと上を見上げる。


 そんなトーヤを励まそうと肩に手を触れようとした⋯⋯⋯⋯瞬間、


 ドンっ!!!!!!!!!!!


 ガシャァァーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!


「「「「「きゃぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」」」」」

「「「「「うぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」」」」」


 突如、トーヤが青白い魔力の光を全身から放つ。その魔力の放出は教室の窓ガラスすべてを破壊し、また、トーヤの周囲にあるものすべてを教室の壁へと吹き飛ばした。


「痛っ!? ト⋯⋯トーヤ⋯⋯っ!!!!!!!!!!」


 トーヤの魔力放出で壁に吹き飛ばされたアリスはトーヤに何とか話しかけようと立ち上がる⋯⋯が、トーヤの魔力放出による威圧が働き、普通に話しかけることさえもままならない。


「⋯⋯いいかげんにしろよ、お前ら、あぁ?」


 そこには殺気だった無表情のトーヤが立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る