第45話045「トーヤ、マジでキレる」
「⋯⋯いいかげんにしろよ、お前ら、あぁ?」
そこには殺気だった無表情のトーヤが立っていた。
現在、壁にぶつかった生徒たちはほぼ無傷ではあったものの全員が動けずにいた。いや、動けないどころか、床にしゃがみ込んだまま立ち上がることままならない状態であった。
「な、なんだってんだっ?! こいつの⋯⋯この強大な魔力はっ!!!!!」
「こ、これが⋯⋯トーヤの⋯⋯ほ、本当の実力っ?!」
「な、なん⋯⋯て⋯⋯魔力だ⋯⋯っ!」
「し、信じられんっ!? こ、こいつの力は⋯⋯こんなに強大なもの⋯⋯なの、か!!!!!!!」
一般貴族は勿論だが、ラウ・リーチェンをはじめとする他の四高家の生徒、さらには王族のアリスさえもトーヤの放った魔力が『Sランカーステータス』という強大な魔力放出である為、その魔力の威圧による『金縛り状態』となって容易に動けずにいた。
「何なんだよ、お前ら貴族ヤローたちはよ? なんで、そこまで平民の俺たちに酷い事できるんだよ? 身分が違うだけで同じ人間だろうがよ、あぁ? 何、俺の妹、拐ってんだ⋯⋯殺すぞ?」
「「「「「っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
トーヤの殺気立ったその言葉は周囲の者たちを一瞬にして恐怖へと突き落とす。
ちなみに、トーヤのその殺気だった口ぶりも怖いが周囲がそれ以上に恐怖したのは、そんな恫喝とは裏腹に顔が無表情であることに何よりも恐怖を覚えていたのだ。
そんな恐怖で張り詰めた状況の中、ある貴族が言葉を発する。
「お、お前⋯⋯貴族に向かって⋯⋯そんな口の聞き方をしていいとでも思ってるのかっ!」
その言葉を放ったのは、これまでトーヤたちにちょっかいを出していたザクト・ガーランド。
いつものまともなトーヤであればザクトのその言葉に反抗することはない。しかし、今はそんな状態ではないことを誰もが理解していた為、ザクトの『空気を読まない発言』に怒りを覚えつつ、トーヤの反応に最大限の警戒を張った。
「あぁ?」
トーヤがザクトに焦点を当てる。
その瞬間——
「か、かはっ?!」
ザクトは呼吸ができない状態となりもがく。
そんなザクトにゆっくりと近づく、トーヤ。
「た、助け⋯⋯い⋯⋯息が⋯⋯」
トーヤはザクトのそんな言葉には一切反応せず、ザクトに手を伸ばし片手で胸ぐらを掴むと、まるでそこに重力が存在しないかのようにザクトを軽々と持ち上げた。
「なんで妹を誘拐された男にそんなセリフが言えるんだ、お前は? お前らにとっては平民の俺の妹の命なんざ何とも思っていないということか? そうか⋯⋯そうだよな。お前ら貴族ってのはそういう人間だったな? じゃあお前ら貴族全員同じ扱いしてやるよ⋯⋯⋯⋯」
ブン⋯⋯⋯⋯ドゴっ!!!!!!!
「うごっ!?」
トーヤはザクトを反対側の黒板のほうへ軽く放り投げた。いや⋯⋯トーヤからすれば軽く放り投げたという表現となるが、ザクトからすれば『受け身も取れない速度で吹っ飛ばされた』という感じだった。
投げられたザクトはもはや気絶していた⋯⋯⋯⋯が、そんなザクトにトーヤは止めを刺そうと歩き出す。その時、
「⋯⋯や、やめろぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!」
すると、トーヤの威圧を何とか振り払い立ち上がる四高家の四人。その内の一人であり、ザクトを懇意にしているマクラクラン高家のレオ・マクラクランがトーヤに叫んだ。
「おー、お前たしか、あのザクトの兄貴分か?」
「ふ、ふざけやがってっ?!⋯⋯平民の⋯⋯平民の分際でぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!」
レオが冷や汗をダラダラ流しながらもトーヤに噛み付く。しかし、
バキッ!
「ぐは⋯⋯っ?!」
トーヤが無表情でレオを殴る。殴られたレオは少し吹き飛ばされたが何とか持ち堪えた。
「平民の分際で⋯⋯か。まだそんなこと言ってんのか? じゃあ、どうすんだ、お前は? 俺を殺すのか? どうやって? 俺の威圧だけで金縛り状態になるあんたがどうやって俺を殺すんだ、あぁ?」
「うるさい、うるさい、うるさい、うる⋯⋯⋯⋯おごぉっ?!」
「お前がうるさい」
トーヤはレオの言葉の途中で腹に拳を入れ黙らせる。
「そ、そんな⋯⋯あ、あの⋯⋯レオ様が⋯⋯何もできないなんて⋯⋯」
「う、嘘だろ⋯⋯?」
周囲の生徒たちは、普段、怖くて近寄りがたいレオのそんな姿に信じられないでいた。
ブン⋯⋯⋯⋯ドゴっ!!!!!!!
「か⋯⋯は⋯⋯っ!?」
ザクトと同様、黒板に吹き飛ばされ叩きつけられたレオはその衝撃で呆気なく気絶する。
「し、信じられん⋯⋯」
「あ、あの、レオをいとも簡単に⋯⋯」
「ほ、本当に⋯⋯何者なんですか、あの平民⋯⋯」
目の前の光景に四高家の三人⋯⋯ラウ・リーチェンすらもトーヤの強さにただただ圧倒されていた。
「で? 次は誰だ? 平民の俺に文句があるならいつものように言ってこいよ? 相手になってやる⋯⋯」
再び『場』が沈黙に包まれる。
周囲の生徒は気づいていた。今、このまともじゃないトーヤに何か言えばさっきの二人の二の舞になると。
その時だった。
「⋯⋯おい」
「あぁ?⋯⋯⋯⋯っ!!!!!!!!!!」
ドゴッ!
突然、教室の入口から声がしたのでトーヤが振り向く⋯⋯と同時に、その声をかけた者が膨大な魔力を込めた拳をトーヤに放った。
「⋯⋯くっ!!!!」
ザザザザザザザザザ⋯⋯!
トーヤはその拳をガードしたものの、体が窓際のほうまで飛ばされる。
「⋯⋯なんだ、お前?」
「私か? 私はただの通りすがりの⋯⋯⋯⋯Sランカー冒険者だ」
そこには『Sランカー冒険者』という言葉と、その背中に背負っている『大剣』が、およそ似つかわない可愛らしい幼女が立っていた。
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