第42話042「告白/その3」



「わ、わたしは⋯⋯はあ、はあ⋯⋯あんたを絶対に許さないっ! お兄ちゃんのフリして⋯⋯はあ、はあ⋯⋯みんなを騙したこと⋯⋯私は絶対に⋯⋯⋯⋯許さないからっ!!!!!!!」


「こないでっ!!!!!!!!!」


*********************


 レナが部屋を出ていった。


 こうなることは予想していたが、実際そうなってみると想像以上に⋯⋯キツイ。


 流石に今回ばかりはショックだった。ショックのあまり、俺はその場にあった椅子に力無く腰を落とす。


 アリスやウルシャさん、あのヴィアンでさえ、俺がショックを受け落ち込んでる姿に動揺しているのか、その場に固まり動けないでいた。


「あ、あの⋯⋯カラスマトウヤさん⋯⋯」

「⋯⋯はい」


 ミーシャが俺に声をかけた。『烏丸当夜』の名で。


「そ、その⋯⋯あの⋯⋯あなたが⋯⋯トーヤじゃないってこと⋯⋯違和感はずっとありましたが、真相を聞いて正直⋯⋯驚いています」

「⋯⋯ああ、そう⋯⋯だ⋯⋯よね」

「⋯⋯はい」


 ミーシャがそれだけ言うと沈黙した。


 俺は⋯⋯俺からは何も言えず、ただただ力無くそこに座っているだけだった。


「⋯⋯で、でも!」

「?? ミーシャ?」

「で、でも⋯⋯わ、私は⋯⋯⋯⋯あなたに騙されたとは思っていませんっ!」

「え⋯⋯?」


 ミーシャが意外な言葉を口にして俺は驚く。


「だ、だって⋯⋯あなたの話が本当なら⋯⋯この世界はこれまでいた世界とは全く違うのでしょう! しかもあなたの話ではトーヤは⋯⋯トーヤ・リンデンバーグは⋯⋯あの病気で⋯⋯瘴気病ミアスマで死ぬ運命だったんですよね?」

「あ、ああ」

「確かに中身は別人なのかもしれない。でも⋯⋯私は⋯⋯トーヤの治った姿を見た時⋯⋯とっても嬉しかった⋯⋯神様に感謝した!」

「⋯⋯ミーシャ」

「確かにあなたはトーヤ・リンデンバーグを演じて私たちを騙しました。でも⋯⋯でも⋯⋯それからのあなたに私は⋯⋯少なくとも私は⋯⋯嫌な思いはありませんっ!」

「っ!?」

「今、あなたが『自分はトーヤ・リンデンバーグではない』と最初にそのことを打ち明けました。でも、それってとても勇気のいることだ思います! だって⋯⋯レナちゃんみたいなことになるのは予想できるはずですから! でも、あなたは⋯⋯一番にそのことを告げた。私には⋯⋯それはあなたの誠意だと感じました」

「い、いや⋯⋯俺は⋯⋯」

「私には⋯⋯『真実を伝えるべきか悩み苦しんだ末の覚悟』だと感じました! じゃないと!⋯⋯最初に『トーヤ・リンデンバーグではない』なんて言えないはず⋯⋯っ!」

「⋯⋯」

「それに⋯⋯何より辛いのは⋯⋯このままトーヤ・リンデンバーグとして演じられることが⋯⋯そっちのほうが⋯⋯私には辛いです」

「ミーシャ⋯⋯」


 そう言うとミーシャの目から涙がこぼれた。


「トーヤ」

「⋯⋯オーウェン」

「⋯⋯いや、カラスマトウヤさん⋯⋯というべきか。そうですね⋯⋯僕もどちらかというとミーシャと同じ意見です。本当のトーヤはもうこの世にはいない⋯⋯目の前の姿形そのままのトーヤ・リンデンバーグはいるのに」

「オーウェン⋯⋯」

「今でも信じられませんが⋯⋯真実を知らないままだったらと考えると正直そっちのほうがよほど辛い」

「⋯⋯ああ」

「でも、やっぱり⋯⋯できれば最初のうちに話してほしかったです」

「⋯⋯すまない」

「レナちゃんが怒るのも無理ないです。僕だって⋯⋯正直⋯⋯騙されたという感覚に近い⋯⋯レナちゃんの気持ちに近いです。だから⋯⋯」

「??」

「一発⋯⋯思いっきり殴らせてください」

「⋯⋯わかった」


 オーウェンは静かに⋯⋯力を貯め腕を振りかぶった。


 バキッ!


 俺はオーウェンの拳をそのまま受けた。


「なるほど。まるでビクともしないですね」

「⋯⋯すまない」

「ステータスを元に戻して殴らせろ⋯⋯とも思いましたが、僕が全力で殴ったらあなたを殺してしまいますからね。私は思いっきり殴りたかったのであなたにステータスを元に戻させるのはやめました」

「⋯⋯すまない」

「ふー⋯⋯わかりました。もう大丈夫です。これで私も区切りをつけました」

「⋯⋯オーウェン」

「一つ思ったのですが⋯⋯今後、僕たちはあなたとどう接するか、なのですが⋯⋯僕としてはこのままトーヤ・リンデンバーグとして付き合うほうがいいのかと思いました。理由は⋯⋯外見がトーヤ・リンデンバーグだからです」

「うん、私もそう思う。別に中身が違うのは私たちだけが知っていればいいことだし。それに見た目がトーヤだもん。そのほうが喋りやすいよ」

「オーウェン⋯⋯ミーシャ⋯⋯いいのか? 俺⋯⋯本当に⋯⋯このまま⋯⋯一緒にいて⋯⋯いいのか?」


 俺はオーウェンとミーシャの言葉に思わず涙を流し、素直な気持ちを口にする。


「⋯⋯ああ、構わない。僕は生まれ変わったトーヤ・リンデンバーグとして付き合うつもりだ」

「私もよ、トーヤ」

「⋯⋯ありがとう。本当にありがとう、二人とも」


 俺は二人の手を取り、目の前で泣き崩れた。

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