第39話039「懸念と対策と本音と」



「急にすまない」

「いや別に大丈夫だけど⋯⋯どうした?」


 放課後、アリスに呼び出された俺は王族専用寮にある『アリスの部屋』に来ていた。


 メンツはいつものロマンスグレー執事のウルシャ・バーレーンさんと、何かと敵対心剥き出しのアリスの従者ヴィアン・ヘルドライト、そしてアリスの三人だ。


「うむ、実はな⋯⋯レナやミーシャ、オーウェンのことだが⋯⋯」

「ん? ああ⋯⋯なるほど」

「ふむ。お前も察してたか?」

「まあな」


 アリスの話だと、最近レナたちが自分たちのことを『疑い』を持って見ているという話だった。


「トーヤ、どう思う?」

「ああ、俺もそう思う」

「そこで、だ。これをどう処理すればいいのか私にも判断が難しくてな⋯⋯」

「そう⋯⋯だな」

 そう⋯⋯アリスの出現以来、レナ、ミーシャ、オーウェンの三人の様子は少しおかしかった。


 当然、勘ぐられないようアリスや従者のヴィアンとうまいこと話を合わせていたので、そこに関しては問題なかったと思う。ただ、


「もしかして⋯⋯だが、レナたちは俺の『力』のことを⋯⋯知っているのかも」

「何?」

「あくまで勘ではあるが⋯⋯そう思えるのは、実はミーシャがな⋯⋯」

「ミーシャ? ああ、あのおとなしい子か?」

「ああ。そのミーシャがエビルドラゴンの事件以降、どうも余所余所しいんだ。だから、もしかしたらミーシャはエビルドラゴンを倒したのを見た、もしくは何か俺の『力』のことを知っているかも⋯⋯てね」

「ふーむ⋯⋯しかし、それはだいぶ薄い可能性だな」

「まあな。だから言っただろ、勘だって」

「うむ。でも、まあ、仮にミーシャがトーヤの『力』を知っていたとしたら⋯⋯その場合、すでにレナ君とオーウェンに話しているだろうか?」

「さあ、どうだろうな。誰にもしゃべらず一人で抱えている可能性もあるな。ていうか、そもそも俺の勘違いの可能性が高いけどな」

「まあ、そうだな。でも、仮に三人が『力』のことを知っていた場合、おそらくトーヤに真相を聞きに来ると思うぞ?」

「⋯⋯そうだな」

「その場合、トーヤはどうするんだ?」

「全部話そうと思う」

「何?!」

「おい、トーヤ・リンデンバーグ! これはトップシークレットだぞ! 口外厳禁だっ!」


 ここで、ヴィアンが鬼の首を取ったかのように威勢よくしゃしゃり出てきた。


 ただまあ、ヴィアンの言っていることは正しい。


「⋯⋯トーヤ。三人に話すということ、それは⋯⋯三人を戦闘に巻き込むということと同義だぞ。わかってるのか?」


 アリスが鬼気迫る面持ちで俺に静かに訴えかける。


「そうだな。それだけは何とでも避けたい」

「では⋯⋯」

「ただもう⋯⋯それは遅いんじゃないかと俺は思っている」

「何?」

「俺がアリスと表に対し、つながりがあることをアピールした。そして、それは後にアリスを狙っている奴らにもしっかりと伝わっているだろう。だからこの一ヶ月特に何も起こっていない」

「そうだな」

「すると、だ。そうなると、奴らが何かを仕掛けるなら⋯⋯『何でも利用する』ということだ」

「あっ?!」


 アリスが俺の言葉にハッと驚愕の顔を浮かべる。


「そうだ。平民を奴隷くらいのレベルで扱う奴らなら、俺を誘い出す、またはアリスを誘い出すためにレナたちを利用するのはまず間違いないだろう」

「た、確かに⋯⋯」

「俺もすぐには気づかなかったがな。ただ、もう少し冷静に考えることが最初のうちにできていたら、いろいろとやりようもあったと思う⋯⋯まあ、もう過ぎた話だが」

「トーヤ⋯⋯」


 俺は、アリスと約束した後、しばらくしてそのことに気づいた。


 その時は、まさに後悔の念で中々へこんだ。


 そして、それに気づいた後、どうすればいいかすぐにはわからなかったので、答えが出るまでは三人には隠していたし、アリスにもそのことは黙っていた。だが、


「だから俺は⋯⋯あいつらが俺に『力』について聞いてきたらそれに答えようと思う。正直、三人はすでに巻き込まれているといっても過言ではないからな」

「いや、しかし! だからといってこの話をするのはあまりに危険だ! もしかしたら三人のうち誰かがこの事を漏らすかもしれないじゃないか!」


 ヴィアンが食ってかかる。


「ああ、そうかもしれない。だがそれは見方を変えれば⋯⋯今、何も知らない三人を拉致する危険もあるということだ。わからないか?」

「あ⋯⋯」


 ヴィアンが俺の言葉に絶句する。


「⋯⋯なるほど。確かにトーヤの言う通りだな」

「アリス様!?」

「わかった。であれば、三人がトーヤに『力』について聞いてきたら話す⋯⋯といった受け身ではダメだな」

「⋯⋯アリス」

「ちょうどいい。今、この場に三人を連れてきて全てを話そう。トーヤ⋯⋯お前もそれでいいんだな?」

「ああ」

「ただ⋯⋯この事を話せば、トーヤが三人に隠し事をしていたということがわかってしまう。もしかしたら、それで三人とは関係が前と変わってくるかもしれないぞ? それでもいいんだな?」


 アリスは俺が三人に話すことについての最悪の状態を理解した上で俺に問いかけてきた。


 いやはや⋯⋯一国のお姫様とは思えないほどの気遣いだ。


 まあ、だから俺はアリスに協力する気になったんだが。


「ああ、わかってる。それにここまで人を巻き込むことになるんだ。そこで俺の全てを話すよ」

「すべて⋯⋯だと?」

「ああ、すべてだ。詳しい話はその時に」

「⋯⋯わかった。トーヤの覚悟、しっかりと受け取った」

「ありがとう」


 アリスがすぐに俺の覚悟を理解してくれたことに改めて俺は感謝の言葉をかけた。


「⋯⋯アリスお嬢様」

「どうした、爺?」

「あれを⋯⋯」


 その時、窓際にいた『爺』⋯⋯ことウルシャさんがアリスに声をかけ、窓の外を見るよう促した。


 俺たちは促された窓の外を見た。すると、


「あいつら⋯⋯」


 窓の外に見えたのは、正門から寮へと向かう、レナ、ミーシャ、オーウェンの三人だった。


「ふむ、ちょうどいい。爺⋯⋯三人を迎えに行ってきてくれ」

「はっ。かしこまりました」

「トーヤ⋯⋯いいんだな?」

「ああ」


——数分後、レナ、ミーシャ、オーウェンの三人がアリスの部屋へやってきた。

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