第35話035「腕試し」
「さて、では早速だが私には一つ『秘策』がある」
「秘策?」
「ちなみにこの秘策はお前にとっても都合がいいと思うぞ?」
「何?」
そう言うと、アリス様が説明を始めた。
「まず最初に、私たちと同学年にいる『中心人物の協力者』を炙り出そうと思うのだが、その前に言っておくことがある⋯⋯私はその中心人物、または協力者から命を狙われている、と思われる」
「何?」
「話は端折るが、去年あたりから私の身辺で不穏な雰囲気を感じるんだ。そして、これは私の勘ではあるが命を狙っているか、拉致を目的とした動きじゃ無いかと推測する。そこで、だ⋯⋯」
そう言うと、アリス様がニヤリと笑みを浮かべた。
「私は、
「危険です、アリス様っ!」
私はアリス様にすぐにやめるよう一言告げた。
「この件で味方として動ける者はここにいる者くらいしかいません。明らかに味方も戦力も足りません!」
「なるほど、そうだな。そして、それは⋯⋯向こうも感じているだろう。しかし、そこには一つ、奴らも知らない『切り札』が私たちにはある。それが⋯⋯お前だ、トーヤ・リンデンバーグ」
「俺っ?!」
「うむ。そこで、前に皆の前でトーヤ・リンデンバーグは私の友人である、と告げたことで今後私と一緒に行動してもらう。そうすれば奴らはまず『お前が私に選ばれた』ということで意識をし、警戒するだろう。そうすればまずお前の学校内での立場は今よりもずっとラクになり、学園生活を楽しめることになる。それはお前の希望でもあるだろ?」
「ま、まあ⋯⋯」
「ただし、奴らは最初警戒をしてもいずれ『しょせんは噂だ』という結論に達するだろう。そうなると、そこから私に対し何らかの『アクション』を起こす可能性がある。そして、その機会が訪れた時⋯⋯私たちもあえてそのアクションに⋯⋯乗っかる」
そう言ってアリス様が再び、鋭い眼光と笑みを浮かべる。
「⋯⋯アリスお嬢様、それはかなり危険ではございませんか?」
「⋯⋯爺」
すると、そこで⋯⋯アリス様から『爺』と呼ばれている⋯⋯ウルシャ様が一言告げた。
「正直、私はトーヤ・リンデンバーグ⋯⋯彼の力が未知数でございます故、そこを把握しないまま、この計画を実行するのは危険かと⋯⋯」
「そ、そうです、アリス様! 彼がどの程度の実力なのかを知ることは必要だと思います!」
私もウルシャ様の言葉に全力で乗っかった。
これはチャンスだ。この場でその実力の証明を求めればきっと
「⋯⋯なるほど、わかった。では、どうする? どうやってトーヤ・リンデンバーグの実力を測る?」
「では、私⋯⋯ウルシャ・バーレーンが一つ、お相手差し上げてもよろしいでしょうか?」
「なにっ?! 爺、お前が?」
「はい。ただし、彼の力を測るということでこの部屋で手合わせするのは部屋が大変なことになりますし、外で手合わせをすれば皆に気づかれてしまいます。なので⋯⋯」
すると、ウルシャ様が腕まくりをした。
あ⋯⋯それって、
「私と腕相撲をしましょう。トーヤ・リンデンバーグ様」
「⋯⋯へ?」
トーヤ・リンデンバーグがウルシャ様の発言を聞いて気の抜けた返事をした。
「なるほど⋯⋯それはちょうどいいな。トーヤ・リンデンバーグ、悪いが爺と腕相撲をしてくれるだろうか?」
「べ、別にいいけど⋯⋯そんなんでいいの?」
「トーヤ・リンデンバーグ様⋯⋯ちなみにこれはただの腕相撲ではありますが、ランクに差がある者がやるとすぐに実力差がわかります。ちなみにランクに差がありすぎるとランクの低いほうは腕を負傷することがあるので気をつけてください」
ウルシャ様が少しニヤリと笑いながらトーヤ・リンデンバーグに説明をした。
そう。確かに腕相撲はランクに差がありすぎると低い方の相手は腕を負傷⋯⋯というか下手したら折れることもあるのだ。
なので普通、実力差があるとわかっていたら決して腕相撲などすることはない。
ちなみにウルシャ様のランクは、
「私のランクは⋯⋯Bです」
「っ!? Bランカー⋯⋯」
そう。ウルシャ様は執事でありながら実力は相当な腕前。この国にBランカーというのはそう多くはないが、ウルシャ様はその中の一人となる。
そんなBランカーのウルシャ様と腕相撲をやるということは⋯⋯元々聞いているトーヤ・リンデンバーグのランクである『Eランカー』であれば勝負にならないどころかケガをすることは目に見えている。
そして、それはトーヤ・リンデンバーグも理解しているはず⋯⋯であれば、トーヤ・リンデンバーグはこの勝負を絶対に断る。これで、ついにこいつの正体を暴ける!
「⋯⋯トーヤ。わかってると思うが今のEランカーのままで腕相撲をすれば大ケガをするぞ。わかるな?」
「まあ⋯⋯」
「であれば、お前の
「ん? ああ、なるほど。この世界の人は『そう考えるのが普通』か⋯⋯」
「っ?! なに?」
「
「どういうことだ?」
「詳しくは『企業秘密』だが⋯⋯まあ、ちょっとヒントくらいは見せてやるよ」
な、なに?
ステータスを書き換えるというのはランクを上げるだけじゃない⋯⋯だと?!
どういうことだ?
「こういう⋯⋯こと!」
ドン!
「「「!!!!!!!!!!!」」」
なんだ?
何が起きた?
トーヤ・リンデンバーグから『赤色のオーラ』が吹き出した。
「おー⋯⋯なるほど。ステータスの『極振り』をするとオーラみたいなものが出るんだな〜」
トーヤ・リンデンバーグは、驚きの表情で呆気に取られている私たちを横目に一人、何事もないような表情で自分の変化に感心した。
「お、おい⋯⋯トーヤ・リンデンバーグ、お前今何をしたんだ?」
「ん? ああ⋯⋯『力に関連するステータス』だけを極振り⋯⋯えーと、部分的に上昇させたのさ」
「「「ぶ、部分的?!」」」
そ、そんなことが、できるのか?!
う、嘘だ! そんなことできるわけがない!
「ト、トーヤ・リンデンバーグ⋯⋯ちなみに今、その『力に関するステータス』の上昇はどのくらいの⋯⋯そのランクレベルなんだ?」
アリス様が皆が気になっていることを代弁してくれた。
「ああ⋯⋯とりあえず執事の人がBランクと言っていたから、それより少し上のB(+)ランク⋯⋯だな」
「「「っ!? び、B(+)ランクっ!!!!!!!!!!!!」」」
い、今の一瞬で⋯⋯一瞬で力の部分だけのステータスをB(+)ランクに上げただとっ!
あ、ありえない! そんな簡単に⋯⋯できるわけがない!!!!
「な、なんと⋯⋯そんな一瞬で⋯⋯」
「アリス様! 騙されてはなりません!!」
「っ!? ヴィアン」
「そんな一瞬で⋯⋯しかも部分的にランクを上げることなんて聞いたことがないです! あり得ません! こいつは
私はつい感極まり、思わず本音を叫んでしまった。すると、
「ヴィアン⋯⋯」
「ウルシャ様⋯⋯?」
「まー試してみれば⋯⋯わかることです」
「「っ!!!!」」
さっきまでの穏やかな表情をしていたウルシャ様の眼光が一瞬で鋭くなった。
「では、わたくしも少し本気を出させてもらいますよ、トーヤ・リンデンバーグ様?」
「⋯⋯わかった」
いよいよ、トーヤ・リンデンバーグの力が明らかになる。
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