第29話029「様々な思惑(1)」



——放課後


 授業を終えた俺たちは寮へと戻った。


 ガルデニア神聖国立高等学校に入学すると三年間は寮で過ごすこととなる。


 入学式が終わるとそのまま授業が開始されたが、今日はランチを終えると授業は休みとなっていた。理由は寮への移動準備の為。


 ということで、今、俺はオーウェンと一緒に男子寮の前に来ている。


「ランチは大変だったね、トーヤ」

「ん? ああ。まあ、何とか逃げたから問題ないよ」

「すまない。本当なら助けに入りたかったのだが、あの時四高家のマクラクラン高家のレオに止められて動けなかった」

「え? なんで、そのマクラクラン高家の奴が関わってくるんだ?」

「ザクト・ガーランドとレオ・マクラクランは家同士の関係もあるが二人は主従関係にある。だから、レオが僕を止めた」

「なるほど。ということは、そのレオ・マクラクランという奴も『平民の身分向上反対』側の人間てことか」

「ああ。現国王が掲げる『平民の身分向上』を真っ向から反対している四高家だ」

「え? 国王の命令は絶対じゃないの?」


 話によると、形式上は皆同意しているものの反対の声はまだ根強く残っているとのこと。


 特に貴族の反対が多いらしく、その反対派の貴族をまとめているのがマクラクラン高家らしい。


 そして、その手足となって動いているのがさっきのザクトの家であるガーランド家らしい。


「立場的に僕はザクトには強く言えるが、そこにレオが入ってくると少々やっかいなんだ」

「レオが四高家の人間だからってこと?」

「それもあるけど、レオは⋯⋯というよりマクラクラン高家が少しやっかいな家でね」

「やっかい?」

「マクラクラン高家は謀略、策略に長けた一族なんだ。そして、その嫡男であるレオ・マクラクランが今回ミーシャやレナちゃんにちょっかいを出したことにどうも関わっているみたいなんだ」

「え? なんで? たかが平民なのに? それとも平民いじめが好きってこと?」

「いや、レオ・マクラクランはそんな『安い人間』じゃない。良くも悪くも彼は貴族らしい貴族だ。まー多少歪んでいるけど⋯⋯」

「オーウェン?」


 オーウェンが少し悲しい表情を浮かべた気がした。


「と、とにかく現状はまだ情報が少なすぎてわからないけど、僕が言いたかったのはザクトの件に関してトーヤたちに助けを入れるのが難しくなるってことなんだ」

「ああ。まあ、そうだな」


 オーウェンは俺たち平民と貴族の仲介みたいな立場にある⋯⋯いわゆる中間管理職みたいなもんだ。


「あと、個人的に感じていることなんだけど、ザクトがミーシャやレナにちょっかいを出したのはフェイクのような気がしてて⋯⋯」

「フェイク? ミーシャやレナにちょっかいを出していることが?」

「ああ。ザクト⋯⋯というよりレオ・マクラクランが狙っているのはミーシャやレナではなく⋯⋯トーヤなんじゃないかって」

「お、俺! な、なんで?!」

「実は、貴族の間でトーヤが短期間で急激に魔力量を上げたということが話題になっていてね」

「⋯⋯え?」

「それと⋯⋯村にエビルドラゴンが現れたことがあったじゃない?」

「うん」

「実際は僕とアリアナ先生とレナで倒した⋯⋯てことになっているけど、あれも本当はそのトーヤ・リンデンバーグがやっつけたんじゃないかっていう噂になっている」

「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!!!!!!!!!!」


 寝耳に水!


 青天の霹靂!


 どうしてこうなった?!


「ど、どどどど、どうして! どうしてそんな話になってんの!?」


 俺は全力でオーウェンに詰め寄る。


「し、知らないよ?! 僕もどうしてそんな話になっているのか! 一応、僕に聞いてくる人たちにはちゃんと僕らが倒したて話をしているけど⋯⋯」

「うそぉぉぉぉぉぉぉぉん〜〜〜!!!!!!!!」


 なぜだ!?


 どうして、噂がそんな風になってんだ?


 結果的に『真実』になってるじゃないか!?


 た、確かに、オーウェンの話を聞いたらザクト・ガーランドがランチでレナへちょっかいを出したのも、元はミーシャにちょっかいを出したのが原因だ。


 そして、よくよく思い出してみればザクトがミーシャに『無理矢理』ちょっかいを出したようにも思える。


 俺が一人悶々と考え込んでいる横で、オーウェンが何かを探るような視線を向けていたのだがこの時の俺は気づけずにいた。



*********************



「なるほど⋯⋯そうですか」

「はい。レオ様の仰るとおり中々⋯⋯面白い男でした」


——ガルデニア神聖国立高等学校 マクラクラン高家専用寮


 学生は王族、貴族例外なく寮生活となる。さらに『平民の身分向上』という政策もあるので表向きには部屋に違いはないことになっている⋯⋯が実際は王族、高位貴族(四高家)、貴族、平民と身分によって部屋のグレードは分かれている。


 しかし、この部屋のグレードの違いに関しては王族も貴族も『許可があれば自費で部屋を拡張することは問題ない』ということで一致している。


 ちなみに王族と四高家の者達は部屋の拡張どころか、寮の敷地内に各家ごとの建物を設けている。


 並びだと、男子寮の横に公園があり、その公園を隔てて女子寮がある。


 そして、その男子寮側に四高家の『リーチェン高家』『ステファノ高家』専用の寮があり、女子寮側に『マクラクラン高家』『ゼストリア高家』専用の寮が置かれている。


 ちなみに王族はその男子寮と女子寮を隔てている公園に一際豪華な寮を設置している。


 そして今、レオ・マクラクランとザクト・ガーランドはマクラクラン高家の専用寮にあるレオの書斎でトーヤのことを報告していた。


「それで? トーヤ・リンデンバーグの能力はどうだった?」

「報告ではEランカーとのことでしたが、お昼の時に見たあの加速力はEランカーよりももっと⋯⋯」

「ほう?」

「おそらくDランカーに近いレベルかと思われます」

「なるほど。同世代でDランカーなど中々いないからな。お前と同じくらいか、ザクト」

「はい。ただ実際に戦わないことには正確な魔力量は測れませんので何とも。あと、妹のレナ・リンデンバーグもまたDランカーです。しかも話ではサイハテ村のBランカーのエビルドラゴンを撃退したうちの一人です。確かにお昼に対峙したところ、かなりの威圧を出してました」

「ふむ。私も見てたが確かにあのレナ・リンデンバーグは相当やる感じはしたな。現状はDランカーだがまだもっと伸びることは間違いないだろう。いやはや、それにしても⋯⋯」

「レオ様?」

「今年の平民は当たり年じゃないか、なあ、ザクト?」


 レオ・マクラクランがニッと嬉しそうに笑みを浮かべる。



*********************



——ガルデニア神聖国立高等学校 王族専用寮


「早速、接触してきたわね⋯⋯レオ・マクラクラン」

「はい。リーチェン高家のラウ・リーチェンだけでなく、マクラクラン高家もトーヤ・リンデンバーグに接触してまいりました」

「まったく⋯⋯何なのよ、この黄金世代ゴールデン・エイジて! なんで私の世代にこんな同い年で四高家の嫡男が乱立してんのよ!?」


 豪華な自室で愚痴をこぼすのはガルデニア神聖国第二王女アリス・グレイス・ガルデニア。


「しかも、なんかいろいろと噂もあるから余計に近づきづらいじゃない?!」


 トーヤの噂はもちろん、王族であるアリスの耳にも届いていた。


「それにしても噂ではBランカーのエビルドラゴンを倒したのはトーヤ以外の人間によるものとなっているみたいだけど⋯⋯私はそうは思わないわ」

「アリス様?」

「だって、あいつの特殊能力スキルがあればエビルドラゴンなんてどうとでもなるはずだもの。周囲は皆『尾ひれのついた噂』程度にしか思ってないだろうけど、おそらく、その『尾ひれのついた噂』こそ真実よ」


 アリスは高級な茶葉を使用しているであろう香りのする紅茶をクイと優雅に一口飲み込む。


「とりあえず、その真実がバレていない今の内にトーヤに接触したいのだけれど⋯⋯」

「あ、あのア、アリス様⋯⋯」

「な〜に、ヴィアン?」


——ヴィアン・ヘルドライト


 王族に仕える貴族ヘルドライト家の者でアリスとは幼なじみ。


 元々、ヘルドライト家は王族に仕える家なので代々国王や王妃、子息に仕えている。


 小さい頃は身分など気にせずアリスと仲良く遊んでいたが、成長した今はアリスとヴィアンは主従関係となっている。


「お、お言葉ではありますが、平民で多少能力が貴族レベルであったとしてもBランカー魔獣のエビルドラゴンを倒すというのはさすがに非現実的では⋯⋯」

「フフ⋯⋯まあ、そうよね。その反応が普通よね」

「アリス様?」

「ヴィアンに今、教えてやってもいいけどそれは後にとっておきましょう。ちなみに彼が『本気』で戦ったら私ですら敵わない可能性があるわ」

「ええっ!!!! ア、アリス様が⋯⋯ですか?!」

「フフ⋯⋯まあ、私も負ける気はないけど。でも、それぐらいの実力はあるわよ⋯⋯このトーヤ・リンデンバーグは」

「っ?! ま、まさか⋯⋯っ!!!!」


 ヴィアンは普段相手を認めるような発言など滅多にしないアリスが、諸手を上げてその平民を高く評価したことに驚愕した。


「こちらも⋯⋯接触は急いだほうがいいわね」


 アリスがギラリと目の奥を光らせる。



*********************



 トーヤ獲得に動き出そうとしている第二王女アリス・グレイス・ガルデニア。


 あくまで興味ということでトーヤに近づくが内心は何を考えているのかよくわからないリーチェン高家のラウ・リーチェン。


 従僕のザクト・ガーランドを利用してトーヤに接触してきたマクラクラン高家のレオ・マクラクラン。


 様々な思惑がトーヤを中心に蠢く中、そんなことなど本人はまるで知る由もない。


 トーヤの高校生活はまだ始まったばかりである。

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