第28話028「トーヤの秘策(ランチトラブルイベント編)」



——お昼休み


 ガルデニア神聖国立高等学校では基本、お昼は一階の大ホールに設けられたビッフェ形式のランチを利用している。


 ちなみに朝、ルイス・ヴェルモンテ先生が生徒内での身分による差別は禁止という、いわゆる『身分無礼講』の話をしいたが、それはやはり『形式的たてまえ』のようで大ホールを見ると、豪華な席を王族や四高家、有名貴族が利用していた。


 つまり、ランチのテーブルでさえも身分ごとにグレードが分けられていたことだ。


 そういうところを見ると、朝の『身分無礼講』という言葉がいかに『形』だけかということがわかる。


「オーウェンも大変だな⋯⋯」


 オーウェンは、村の初等学校とは違って、高等学校では『マクスウェル家の人間』という身分で見られるのが普通なので現状、村にいた頃みたいに気軽にトーヤたちとベッタリと話すことができないようだ。


 オーウェンもまた『名門マクスウェル家』という有名貴族なので、そのテーブルで周囲の貴族の生徒たちと食事をしていた。


「こ、高等学校って⋯⋯怖い」

「ミーシャ⋯⋯」


 ミーシャが青い顔をして俯いていた。


「ダメだよ、ミーシャちゃん弱気になっちゃ! 生徒同士は『身分無礼講』なんだから、こっちだって抗う権利はあるんだよ!」

「う、うん⋯⋯ありがと、レナちゃん」

「それにしても、あの一般貴族⋯⋯本当、ムカつくわねー」


 レナはお昼前からずっとイライラしっ放しだった。


 それもそのはず⋯⋯お昼前の授業では一般貴族の生徒から「もっと大きな声で発言しろ」だの「平民の生徒ではやはりついてこれないのかな〜」などとチョッカイを出されていた。


 その時、レナが「何よ! 別に声が小さくてもいいじゃない! ちゃんと勉強にはついていけてるわよ!」と激怒し一時騒然となった。


 とりあえず先生が止めたものの、見た感じ明らかに「平民があまり貴族と揉めるな」という表情をしており、いかにも『俺たちが悪い』という意味合いで注意をしていた。


 そんな『激おこレナ』のところに『案の定イベント』が発生した。


「よう? 平民ヤローども」


 授業のとき、レナと揉めていた貴族連中がワラワラとレナの席にやってきた。


「何よ? やる気?」


 レナはすでに沸点が『K点超え』していたようで、立ち上がってその貴族を睨みつけていた。


「おいおい⋯⋯お前、俺が貴族だとわかってそんなこと言ってんのか?」

「フン! ここは身分無礼講でしょ? それなら対等じゃない」

「いやいやいやいやいや〜⋯⋯本当に平民は勘違いしてるね〜」

「何がよ!?」

「確かに高等学校ここでは別に身分無礼講となってはいるがあくまで高等学校ここだけの話だぞ?」

「わかってるわよ! あんただってわかってるんでしょうね? 学校外でも身分無礼講は適用されるのよ」

「無論だ。ところで⋯⋯お前こそわかってるんだろうな? 身分無礼講が適用されるのは生徒・・だけということを」

「⋯⋯え?」

「君たちのご両親は別ってことだ。その意味が⋯⋯わかるか?」

「⋯⋯あ」


 レナが貴族の言葉を聞いて真っ青になる。


「君はたしか⋯⋯サイハテ村の⋯⋯辺鄙な最南端の国境付近の村出身だったかな? あと父親は農夫で野菜などを王都に出荷しているそうだな」

「な、何が言いたいの⋯⋯よ⋯⋯」


 レナは真っ青になりながらも必死に強がって見せる。しかし、


「お前次第で、もしかしたらサイハテ村の今後の農作物の出荷量が落ち込むことになるかもな⋯⋯て話だ」

「なっ!? あ、あんた⋯⋯」

「あんた? おい、口の聞き方に気をつけろよ、平民。誰に向かってそんな口を聞いていると思ってるんだ? 私はガーランド家嫡男のザクト・ガーランド。四高家マクラクラン高家に通ずる家の者であるぞ!」

「くっ⋯⋯! ひ、卑怯よ!!!!!」


 レナが目の前の貴族ザクト・ガーランドを睨みつける⋯⋯が、


「卑怯? 私はただ、王都の出荷量の話をしただけだが? それに私はお前に対して同級生とはいえ初対面の相手に向かってその言葉遣いはどうか、と注意したまでだぞ? なあ、みんな?」

「クスクス⋯⋯はい、全くです、ザクト様」

「女性のくせに男性に向かってそのような乱暴な言葉はどうかと思いますね?」

「身分がどうこう以前の話かと⋯⋯クスクス」


 ザクトの取り巻き貴族が一人、また一人とレナを吊し上げていく。


「ほら? どうした? 皆も君の言葉遣いは同級生といえど初対面の相手には少々乱暴らしいぞ? 一言、謝る必要があると思うが?」

「⋯⋯さ、さっきの授業の⋯⋯ミーシャの件はどうだってのよ!」

「さっきの授業? ああ⋯⋯あれは単に声が小さいということは授業についていけてないのではないかと、むしろ心配しての言葉だ、そうだろ?」

「ええ、その通りですね、ザクト様のおっしゃる通りです」

「むしろ、ザクト様のお心遣いを感じました。クスクス⋯⋯」

「くっ!?」


 周囲の取り巻き貴族は、まあ、予想通りの反応を示す。


「ということだ。さあ、初対面の相手に対してのその無礼な言葉に対して謝罪しろ。それとも⋯⋯お前の両親に報告する必要があるかな?」

「っ!?」


 レナがザクトの言葉に再び真っ青になる。


 レナは両親⋯⋯ウォルターとリリーに「お兄ちゃんがちゃんと卒業できるように、私がいっぱい頑張って支えるから心配しないでね。お父さん、お母さん!」と言っていた。


 そんな両親想い、お兄ちゃん想いのレナにとって両親に心配をかけることは何よりも苦痛なのだろう。


 レナは怒りのあまり体を震わせながらも、膝をついて目の前のザクトに謝罪の言葉を告げようとする。


「し⋯⋯失礼しま⋯⋯し⋯⋯」

「待て!」

「ん? なんだ、お前は?」

「っ!? お、お兄ちゃん!」


 俺はレナの前に立ち、ザクトに目を向ける。


「お兄ちゃん? なるほど、身内か」


 ザクトは俺を見ると、ニチャァと笑う。


 まあ「さらにカモが来た」くらいに思っているんだろう。


 すると、ザクトが口を開く。


「まさか⋯⋯とは思うが、私に歯向かうなどと考えているのではないよな?」

「⋯⋯」


 俺は多少狂気を孕んでるとはいえ『お兄ちゃん愛』に溢れたレナに対し、そんなふざけたことを抜かす輩を見過ごすなど微塵も思っていない。


 そして、こうなることは俺の中ではすでに予測済みだ。


 その為に俺はすでに『秘策』を用意してある。


 俺には神様クソじじいから授かった特殊能力スキルがある。


 それを今から存分に見せてやろうではないか⋯⋯⋯⋯刮目せよ!


「申し訳ありませんでしたーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!」

「「「「「なっ⋯⋯!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」


 助走をつけた俺はザウトの前に出るや否や『JSDジャンピング・スライディング・土下座』を敢行。


 すると、周囲の空気が一瞬にして固まる。


 そりゃ、そうだろう。


 身分が違うとはいえ同級生に対して、こうまで見事に綺麗に土下座を行ったのだから。


 そして、周囲が唖然とする間に、


「はい、謝りましたーーーーっ!!!!!!! さあ、行くぞぉーレナー!!!!!!!」

「え?!⋯⋯ちょ、ちょっと、お、お兄ちゃん!!!!!」


 そう言って俺は、レナを『お姫様抱っこ』して一目散にその場からドロンした。


「っ!? き、貴様⋯⋯待てぇぇーーーーーーー!!!!!!!!!!!」


 冷静さを取り戻したザクトや周囲の取り巻き貴族はすぐに俺を追ってきた⋯⋯が、


 ドン!


「「「「「なっ⋯⋯?!」」」」」


 俺は自分の特殊能力スキル『××××』で一気に加速してザクトたちを軽く千切った。


 これぞ、俺が用意していた⋯⋯必殺『盛大な勢いでDOGEZA敢行してバックれるの術』だ。


 完全に決まったな。



*********************



「う、嘘だろ? なんだ、今の⋯⋯」

「し、信じられない⋯⋯なんだ、あの男の加速力は⋯⋯」


 取り巻き貴族がトーヤの足の速さに度肝を抜かれていた。


「なるほど。あいつがレナ・リンデンバーグの兄⋯⋯トーヤ・リンデンバーグ。レオ・マクラクラン様が言っていた魔力量が急激に増大したという奴か。フフ⋯⋯面白い、面白いじゃないか、リンデンバーグ兄妹」


 ザクトは不敵な笑みを浮かべながらその場を後にした。

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