第11話011「先手必勝」



——南方鎮守城塞スザク


「ヴァーズ!」

「おお! ウォルター! リリー! ローランド、お前も来てくれたか!」

「お久しぶり、ヴァーズ。声の大きさは相変わらずね」

「お、お久しぶりでございます、ヴァーズ司令!」


 ウォルターたち三人は南方鎮守城塞スザクに着くや否や、すぐにヴァースの所へ向かった。


「どうだ? 魔獣は?」

「ああ。真っ直ぐこっちへ向かっている。俺たちを襲撃する気満々だ。接触まで残り1時間を切った⋯⋯というところだ」

「なるほど。確かに地響きもどんどん大きくなっているな」


 魔獣の群れはすでに『南方鎮守城塞スザク』の5km圏内に入っており、目視できる距離まで迫っていた。同時に地響きも増していく。


「ところでヴァーズよ。お前らここで何やってんだ?」

「は? 何をって⋯⋯魔獣の襲撃に備えて城塞の守りを固めているんだろうが!」


 ヴァーズは「何を言ってるんだ?」とばかりにウォルターに返事する。すると、


「失礼だぞ、貴様っ!」

「あ⋯⋯コラ! アデル!」


 ヴァーズの横にいた10代であろう兵士がウォルターに向かって声を荒げる。


「こちらにおわすはヴァーズ・デミトリ司令官⋯⋯この南方鎮守城塞スザクの統括責任者だぞ! 貴様ごとき平民が気軽に声をかけられるようなお方ではない! まして、そのような軽口や舐めた態度など⋯⋯」


 アデル・バーナンキ。14歳。王都の貴族内で一定の影響力を持つ『バーナンキ家』の長男。


 彼は今年、王都の高等学校を卒業後、騎士団や術士団に入団することなく自らの希望でこの『南方鎮守城塞スザク』の兵士になった。具体的に言うとずっと憧れていたヴァーズ・デミトリ司令の下で働きたかったのだ。


 そんな憧れの男を一平民が軽口を叩いている⋯⋯しかも舐めた態度で。アデルが怒るのも無理はない。


「い、いいんだ、アデル! こいつらは⋯⋯っ!」

「ですが、ヴァーズ司令! このような舐めた態度はさすがに目に余ります。ここはわたくしが少し教育的指導を⋯⋯」


 アデルは腕まくりをするかのように目を血走りながらウォルターに突っかかろうとする。


「わーやめろ、アデル! こいつらは俺の昔の仲間だ!」

「いえ。いくら昔の仲間とはいえ、ヴァーズ司令の今の立場を考えたらもう少し立場を弁える言動と態度が必要かと。やはり、ここはわたくしの教育的指導で⋯⋯」


 アデルがウォルターとリリーに詰め寄ろうとしたその時、


「⋯⋯失礼」


 ローランドが鬼気迫る表情でアデルの前に身を乗り出す。


「む? 何だ貴様は?」

「私はローランド・マクスウェル。第七騎士団の者だ」

「ローランド・マクスウェル? ま、まさか、あのアルベルト・マクスウェル様のご子息?!」

「そうだ。そして、このウォルターさんとリリーさんは、かの『大陸間戦争』の時の第七騎士団の団長と第一術士団の副団長であられた方だ! 頭が高い!」


 ローランドが腹から声をあげてアデルを一喝する。


「ええっ?!『大陸間戦争』の時の⋯⋯そ、それって⋯⋯ヴァーズ司令の⋯⋯」

「⋯⋯ああ。ウォルターは俺のいた第七騎士団の団長⋯⋯つまり上司だ。リリーとは同期だが当時の立場的には上司みたいなもんだ」

「す、すすすす、すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!!!」


 アデルはヴァーズの言葉に驚愕し、慌てて膝をつき頭を下げる。同時に、周囲でアデルのやり取りを聞いていた兵士たちも慌てて膝をつき頭を下げた。


「や、やめてくれーーーーっ!!!!」

「お、お願いだから⋯⋯皆さんお顔を上げて、ね?」


 ウォルターとリリーは慌てて皆に頭を上げるよう伝える。ちなみに、その二人の横ではなぜかドヤ顔のローランドと大笑いするヴァーズがいた。



*********************



「ヴァーズ司令も人が悪いですよ。こんな大人物がサイハテ村にいるなら一言教えてくれたって⋯⋯」

「だからさっきも言ったろーがっ! この二人がサイハテ村にいることは秘密にしてるって⋯⋯」

「ですが⋯⋯ブツブツ」


 アデルは二人に対するあまりの失礼な態度をとった申し訳なさと、何も教えてくれなかったヴァーズに愚痴をこぼしている。


「本当に申し訳ありませんでした、ウォルター様、リリー様」

「『様』はやめてくれ?! 普通に『さん』でいいから」

「で、ですが⋯⋯」

「アデル君。私たちはもう引退した身なんだから」

「そうよ。私たちは今はただの一般の平民なんですから。ゆっくり暮らしたいだけなの」

「えっ?! へ、平民?! な、なぜですかっ?!」


 アデルは二人が平民であることに驚く。本来、あれだけの地位の者であれば引退したとしても最低でも貴族であるのが当たり前だし、場合によっては『高位貴族』でもあり得る話だ。アデルが驚くのも無理はない。


「はは⋯⋯貴族という身分が堅苦しくてね。性に合わないんだよ」

「そ、そんな、あの『大陸間戦争』で活躍した大人物のお二人なのに⋯⋯」

「いいんだ、アデル。この二人にとって貴族なんて飾った身分は面倒なだけしかない。これでいいんだよ⋯⋯」

「?? ヴァーズ司令?」


 ヴァーズは思い出し笑いをしながら、アデルに優しく言葉を掛ける。


「その話はあとあと! その前にサクッと魔獣を討伐しちゃおう! ヴァーズ、状況はどうなんだ?」


 ウォルターがテンションを切り替え、ヴァーズに状況を聞く。


「アデル!」

「はっ! 現在、魔獣の群れはもう目の前⋯⋯1.5km近くまで迫ってます! すでに城塞内の配置は万全です!」

「うむ。では各所でいつでも迎撃できる準備を急げ!」

「はっ!」


 ヴァーズの指示によりアデルが皆への指示出しに走る。


「なあ、ヴァーズ⋯⋯」

「なんだ?」

「魔獣がここに最接近するまで残り1.5kmだっけ?」

「あ、ああ。そうだが?」

「それって⋯⋯別に待つ必要なくね?」

「っ!? お、お前、まさか⋯⋯」

「『やるなら先手必勝』の俺が言いたいことはわかるな?」

「お、おおお、お前、ウォルター⋯⋯ちょ、ちょっ、ま⋯⋯」


 ダン! ダン!


「おっ先ーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」

「いってきまーーーーーーすっ!!!!!!!!」


 ウォルターとリリーが城塞から飛び出し、魔獣の群れへと向かった。


「だーーーーーっ!!! あの二人、全然落ち着いてねーじゃねーかよっ!」


 ヴァーズはツッコミを入れるがヴァーズもまた飛び出していた。


「ちょっ?! ヴァーズ司令っ!!!!!!」

「アデル! 城塞の守備以外の兵士は皆、俺に続けぇぇぇぇーーーー!!!! こっちから仕掛けて一気にカタをつけるぞーーーー!!!!!」

「「「「「おおおおおおおおおお〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!!」」」」」

「くっ! 私としたことが! 出遅れた!」


 ダン!


 ローランドもまた遅れて飛び出した。


「ローランドさん!」

「アデル君! 君ももし来るなら急いだほうがいいぞ! あの英雄級の三人の戦闘を間近で見れるのだからな! では先にいくっ!」

「は、はい!」


 アデルは城塞内の守備隊長に指示を出したあと、討伐隊の兵士たちと共に前線へと向かった。

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