第9話009「魔獣」



「はい! それでは前にもお話しましたが明日は『南の森国立公園』にピクニックにいきます。ちゃんとお父さん、お母さんにお話しましたかー?」

「「「「「はーーーい!」」」」」

「よろしい。あと、おやつは300リムまでです」

「先生! バナーナはおやつに入りますか?」

「⋯⋯」


——そんなこんなで次の日。


 今日はみんなが待ちに待ったピクニックの日だ。


 毎年、秋の初め頃に『全校生徒参加のピクニック』のイベントがある。まあ、全校生徒といっても小さい村なので1クラス:平均10人程度。また1学年ごとに1クラスしかないので全部で6クラスとなり、それらを合計するとだいたい50〜60人前後が全校生徒の数となる。


 そして、今日向かう『南の森国立公園』は小学校から割と近い公園なので生徒たちが普段からよく遊びに行く人気スポットだ。まあ、普段からよく通う人気スポットなだけに、


「は〜ぁ、正直公園なんてほとんど毎日遊びに来てるから新鮮味ないよね〜」

「せめて、西の湖にすればいいのに⋯⋯」

「仕方ないよ。西の湖は遠いんだから。歩いていける距離じゃないし」


 とはクラスメートの反応。まあ、他の子たちもこんな感じだ。


 しかし、俺だけは違う。


 確かにこの公園にはこれまで何度か来たことがあるが、こんな大人数でワイワイしゃべりながら向かうなんてことはなかったし、そもそも地球にいた頃の小学校時代は『ぼっち』だったので遠足にはいろいろと理由をつけて参加することはなかった。そんなこともあって、こうして皆でわいわい話しながら歩くのが新鮮で楽しかった。


「お兄ちゃん、何だか楽しそう!」

「本当だ。トーヤ、なんだか楽しそうだね」

「え? そ、そう?」

「ホントだー。トーヤ、ニコニコしてる〜。えへへ⋯⋯」

「や、やめろよ、ミーシャ! べ、べべべべ、別に、そんなことないって!!」


 からかってくるレナ、オーウェン、ミーシャに俺は照れながら否定する。


 この遠足はただ公園でピクニックをするだけでなく、ランチをした後は友達同士で班を作り『自由研究課題』に取り組む。本来、各学年ごとに班を作るのだが妹のレナが『お兄ちゃんと一緒がいい!』とかなり駄々をこね、結果、俺とオーウェン、ミーシャの班に加わった。一応、このレナの強制乱入に関してはアリアナ先生が『まあ、仲良し四人組だしいいんじゃない?』とフォローしてくれたので許可が下りた。



*********************



「はーい! それではこれから自由研究時間です。あまり遠くに行かないでくださいねー!」

「「「「「はーーーい!」」」」」


 ランチを済ませた俺たちは早速『自由研究課題』に取り掛かるべく目的地へと向かった。


 現在、公園から少し離れた森の中を歩いている。今回の『自由研究』の課題テーマは『古い遺跡の調査』とはオーウェンの弁。


「今から行くところは昔、神殿だったと言われている遺跡なんだけど、ちょっとそこでいろいろと調べ物があるんだよね。まあ、三人には付き合ってもらう形になるけど⋯⋯」


 そう⋯⋯今回、この遺跡調査の言い出しっぺはオーウェン。話によると兄のローランドに頼まれたものらしい。


 オーウェンは俺たちに自分の用事に付き合わせることになってしまい申し訳ないと何度も謝っていたが、俺たちとしても別に何かやりたい自由研究なんてないので特に問題はない。ていうか、この世界に来て三ヶ月程度の俺からすればどこに行っても楽しいのでさらに問題はない。



*********************



——ガルデニア神聖国 南方国境付近(サイハテ村50km南)『南方鎮守城塞なんぽうちんじゅじょうさいスザク』。


「伝令! 距離およそ20km!『魔獣の群れ』を確認! 到達時間およそ4時間っ!」

「で、伝令! 伝令っ! 魔獣の数はおよそ⋯⋯⋯⋯1,000っ! Cランク、Dランクからなる群れ! 繰り返すっ! 魔獣の数はおよそ⋯⋯」


 突如出現した魔獣の数に冷静さを欠いた兵士が興奮気味に伝令を叫ぶ。


「1,000⋯⋯か、Cランク・Dランクの魔獣とはいえかなりの数だな。それにしてもこんな数の魔獣がなぜいきなりこの場所に? 自然発生なのか? それとも意図的? 意図的だとしたら誰が? そして一体どこから? 隣国の仕業か? いやしかし隣国やつらではこの魔獣を制御できるわけなど⋯⋯いや、そもそも魔獣を制御できる者など聞いたことがない。ということは自然発生なのか? だがしかし、ウォルターとリリーの話では⋯⋯」


 興奮気味に伝令を飛ばす兵士とは対照的に、兵士の報告にも動じない『右目に刀傷のある男』はブツブツと『あーでもない、こーでもない』とひとり言を呟きながら首を捻る。


——『南方鎮守城塞スザク』城塞司令官ヴァーズ・デミトリ⋯⋯その人だ。


「ヴァ、ヴァーズ司令!」

「ん〜? どした〜?」


 ヌッ。


 周囲の兵士よりも一際でかいヴァーズが、声をかけた兵士のほうへゆっくりと体の向きを変える。


「バ、バスケル⋯⋯バスケル・ハイツーク辺境伯がいませんっ!」

「何ぃ〜?」

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