第8話008「魔術の授業(レナ、ミーシャ、オーウェンの場合)」



 授業で魔力を完全に使い切ってぶっ倒れ、目を覚ますや否や先生にメチャクチャ怒られた後、皆より少し早めの昼食を取って体を休ませるよう言われた。


「そうだ。ちょっとレナたちの魔術訓練を見に行こ」


 三人の魔術訓練は俺たち平民の授業とは違い、実戦形式で教えている。自分にはない魔力を持った三人の訓練は見るだけでファンタジー映画を観ているみたく楽しいので俺は時間を見つけては三人の魔術訓練をよく覗いていた。


「はっ!」

「何の!」

「え、えいっ!」

「いいわよ、三人とも。その調子!」


 俺たち平民の魔術授業より少し奥にある訓練場に行くと、オーウェン、レナ、ミーシャの三人が先生相手に魔術による組手をやっていた。


火射手ファイヤーアロー!」


 ボウッ!


 オーウェンの右手から『火の矢』が飛ぶ。


水射手ウォーターアロー! 火射手ファイヤーアロー!」


 先生がオーウェンの『火の矢』を『水の矢』で打ち消すと同時に『火の矢』を放つ。


「うあっ!?」


 オーウェンは先生の火の矢に対応できずに直撃する。


「はぁぁぁぁーーーーーーーー炎拳ブレアフィストっ!!!!!!」


 すると、先生の背後から物凄い加速でレナが火魔術を纏った拳で追撃。


「ウ、風射手ウィンドアローーーっ!!」


 さらに先生の左側面からはミーシャが周囲の風を圧縮させて形作ったような『風の矢』を放つ同時攻撃!


「はぁーーーっ!!!!!!」


 ドカッ!


「うぐっ!?」

「きゃぁぁぁーーーーーーーーーっ!!!!」


 先生はレナの拳を避けたと同時にガラ空きの右脇腹を蹴り飛ばす。そして、蹴り飛ばされたレナは魔術を放ち無防備となったミーシャに激突する。


「す、すげぇ〜」


 何がすごいって三人の魔術も去ることながら、先生の圧倒的な強さに俺は驚愕した。


——アリアナ・イーサン


 この第11初等学校で生徒に魔術を教える教師でありながら現役の『冒険者』という肩書きも持つ。この世界には個人の強さを示す『ランク』というものが存在し、アリアナ先生は『Cランカー』とかなりの実力者である。ちなみに『Cランカー』のアリアナ先生は、トーヤの知る限りこの村では辺境伯の次に強いくらいの実力者になるらしい。金髪ロングで巨乳で美人で強いとはまさにファンタジー。


「ふむ。いいぞ、三人とも。今の連携は素晴らしかった。ランク的にはオーウェンは『D(+)ランカー』、レナは『Dランカー』、ミーシャが『Eランカー』といったところだな」

「ふぅ⋯⋯もう少しは善戦できると思ったんですけどね」

「本当だよ! 先生の動きが早過ぎて蹴りを躱すヒマなんてなかったよー」

「ふぇ〜!!! 私にはレベルが高過ぎますぅ〜〜!!!」


 三人各々がアリアナ先生の強さにただただ圧巻した感想を述べる。ちなみに『アリアナ先生』と名前で呼んでいるのは『苗字のイーサン先生だと何か語呂が悪いから嫌だ』という本人の希望である。


「オーウェンはまあ貴族だからこの先もっと魔力量は増えるだろう。レナは平民でありながら10歳という年齢で『Dランカー』はかなり特殊な例だ。高等学校でさらなる成長が期待できるぞ! しかし、ミーシャは平民の中では魔力量は高いほうではあるが高等学校では今のままでは苦労するだろう。卒業までに少しでも魔力量を上げることと魔術以外で実戦に使える『武器』を見つけなさい。そうすれば高等学校でも成長は見込めるはず。がんばるんだよ!」

「「「はい!!!!!」」」

「よろしい! では、次に武器に魔術付与した状態での組手だ! 気合い入れないとケガするよ!」

「「「はい!!!!!」」」


 そして、三人はすぐに組手を始める。なんで、あれだけ動いて魔術も使ってすぐに動けるんだよ。


「やっぱりいいな〜⋯⋯魔術」


 俺は彼らの訓練する光景を見ながら、一人寂しさを感じた。



*********************



「「トーヤ!」」

「お兄ちゃん!」

「よっ!」


 三人が休憩となり、俺の所へ駆けつける。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「あ、いや、さっき授業で魔力切れでぶっ倒れて休憩を取らされてるんだ」

「ま、魔力切れ!? ダメだよ、お兄ちゃん!!」

「そうだよ、トーヤ! 魔力切れは危ないんだよ!」

「そうだぞ、トーヤ」

「め、面目ない⋯⋯」


 三人に先生と同じように説教される。


「特に、お兄ちゃんは病み上がりなんだし体力もあまりないんだから無理しちゃダメ! 私がお兄ちゃんを守るんだからお兄ちゃんは勉強して学者に専念してよ!」

「お、おう⋯⋯」


 トーヤは体力がないが勉強ができるので『魔術や魔道具の学者』を目指していた。学者を目指すには高等学校に行く必要があり、それにも学校の推薦が必要となる。ただし、学者での推薦の場合、魔力量があるということでの推薦とは違い、かなりの学業の優秀さが求められる為『学者推薦テスト』で合格しないと推薦をもらえない。ちなみにこの村でそのテストで合格した者は一人もいない。


「わ、私も! トーヤを守る為にもっともーーっと頑張るから!」


 ミーシャがレナに対抗するように俺に訴えかける。


「ちょっとミーシャちゃん! お兄ちゃんを守るのは私の役目なんだからね!」

「わ、わわ、私もレナちゃんに負けないくらい強くなってトーヤを守るもん!」

「よーし⋯⋯それじゃあ二年後に私が高等学校に入学したら競争ね!」

「うん! レナちゃんが入学するまでに私、少しでもレナちゃんに追いつくよう頑張るっ!」


 二人は俺をほっといて何やら勝手に盛り上がっていた。相変わらず仲良しである。ていうか年齢逆じゃね?


「トーヤ、ところでどうなの? 勉強の方は?」

「え? あ、うん⋯⋯まあ、やれるだけのことはやってるよ」


 俺は生前のトーヤの意志もあるが、俺自身、できれば高等学校へ入学したい。理由は学生生活なんて本来これからが本番だからだ。なのに転生してすぐに仕事に付くなんてそんなの嫌すぎる。だから、俺は今『学者推薦テスト』に向けて猛勉強中なのだ。


「そうか。一緒に高等学校に行こうよ、トーヤ!」

「もちろん!」


 特に魔術が使えない俺としては、この『学者』という道でしかこの三人と同じ道は歩めない。それに俺の目指す『恋愛映画の主人公』になるためにも学校生活は必須である。ならば、俺にできることは勉強あるのみ! うぉーーー! 絶対、合格してやるぅぅぅぅーーーーーーっ!!!!!


 俺は三人を見て改めて決意した。

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