第6話006「黒い思惑」
「首尾はどうだ?」
男が従僕に問う。
「万全です」
「うむ」
従僕の返事に満足した男は地下から上がり、屋敷内の自分の書斎へ戻っていった。
書斎に戻った男は一人、誰にともなくひとり語り出す。
「まったく⋯⋯ようやくこの村ともオサラバできる。三年かけて準備したこの計画で私はようやく自由になれる」
男はそう言って、一口ワインを口にする。
「まったく! 何が辺境伯ですか。こんな田舎でずっと終える人生なんて真っ平ごめんですよ! それにしても⋯⋯」
男は眉間に皺を寄せ怒りの表情に変化する。
「父が死んで私が辺境伯の地位を受け継いだ後しばらくしてすぐにマクスウェル家がこの村にやってきたのは恐らく偶然ではないでしょう。あのマクスウェル家が理由もなくこの地に毎年のように滞在するのはどう考えても不自然です。どこまで、いつから、私の『計画』を把握していたのかはわかりませんがやっかいなことに変わりはないですね」
男はもう一度ワインを口にし冷静さを取り戻す。
「まあいいでしょう。多少『計画』にない者が現れたとしてもこれを止めるのは不可能ですしね。あの『騎士の名門マクスウェル家』とて今ここにいるのは、あの『第一騎士団団長』ではなくその息子二人のみ。後は邸宅に常駐している二十人弱の衛兵と国境の騎士団と魔術士団⋯⋯。あー、あと少々腕の立つリンデンバーグ夫妻くらいですかね。この程度の戦力しかない村には少々『過剰火力』かもしれませんね。くっくっく⋯⋯」
男が口角を上げ、下卑た笑みを浮かべる。
「私が辺境伯になってから度々この村にやってきては事あるごとに分を弁えず、この私に説教などしおって⋯⋯あの
男はさらに下卑た笑いを爆発させる。
「まったく⋯⋯父も私の言う通りにあの
バスケルは自らの手で実の父親を殺した⋯⋯
『あら? 妙にごきげんね、バスケルちゃん?』
突然、部屋にピエロの仮面をつけた『黒フードの男』が現れ、バスケルに声を掛ける。
「あー、
『そうよ。
「笑わせないでください、
バスケルの常軌を逸する発言に
『すばらしい! 実の父親を
「それにしてもあなたとの出会いには感謝してますよ、
「いやね、バスケルちゃん。あなたの優秀さとその良い性格のおかげよ」
「ふ⋯⋯『魔族』のお前にそんなことを言われるとはな」
バスケルが
「⋯⋯明日、村人もマクスウェル家もリンデンバーグの二人も魔獣によって村ごと滅ぼされる。しかし、バスケルちゃんは魔獣を殲滅し何とか一人生き残る。そして王都に凱旋し褒賞を受け、地位と名誉と権力を手にする⋯⋯これが
「うむ、エレガントなシナリオです、
「くく⋯⋯なるほど、証人ですか。確かに必要ですね、失念してました。さすがね、バスケルちゃん。ちなみにあなたの夢はそんな王都での地位・名誉・権力を手に入れる『程度』ではないでしょう?」
「もちろんです。平民ごときがここまで身の程を知らない社会になったのは政治の失敗に他なりません。ですから私がこの国の国王となり、清く美しいエレガントな身分制度の見直しを徹底的に行います」
バスケルはこの村での平民の自由な暮らしぶりに納得いっていなかった。彼は平民はもっと貴族を敬い、命令には従僕であり続ける平民を求めていたのだ。
「なるほど。私は応援しますよ。ええ、応援しますとも。あなたとなら我が『魔族』ともうまくやっていけると思いますから」
「ふむ。まあ、魔族の生き残りがほとんどいないのはわかっている。
バスケルが一拍置く。
「あくまで『こちらが利用してやってる』ということをゆめゆめ忘れるでないぞ? 魔族の生き残りなど本来見つかれば皆殺しの対象だからな?」
そう言って、バスケルが
一瞬、わかるかわからないかのレベルで
「もちろんよ、バスケルちゃん。私はあくまであなたの協力者に過ぎないことは重々承知してるわよ」
「ふむ⋯⋯ならばよい。では、明日の用意を頼むぞ」
「はーい! それじゃあね」
そう言うと、
「⋯⋯ふむ。やはり
バスケルの『計画』がいよいよ動き出す。
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