授業
「キーンコーンカーンコーン」
授業の始まりを知らせるチャイムがなっている。黒板の前に立っているのは柚子先生。今から数学の授業だ。
「じゃあ今から授業を始めます。じゃあ前回の続きで三角関数の加法定理のところからやっていこうと思ってるけど、みんな予習はしてきたかな?」
「あっ、やべっ!忘れてた」
「俺はやってきたもんねー」
「普通やってくるわよね」
教室がざわめき出した。授業の予習をやっていない人がかなりいるようだ。
「はい、静かに。授業の予習をやってくるかやってこないかは自分で決めればいいと思うけど、予習をするということは、自分で考えるということ。これはみんなの数学の力をつけるのにとても役に立つと先生は思っています。だから先生としてはみんなにやってきてほしいと思っています」
「はーい」「わかりました」
やっぱり先生は人気なのだろう。こういう真面目な話を生徒はしっかりと聞いてくれる。
「はい、じゃあ授業を始めます。皆さんは教科書の138ページを開いてください」
こうして授業が始まった。
◇
(また寝てる)
授業が進んで今は自習の時間。柚子先生は生徒達の自習の様子を眺めている。他の生徒のほとんどが自習をしている中、1人全く別のことをしている人がいる。中村君だ。
今日も今日とて彼はスヤスヤと眠っている。
(彼はしっかりしているのかしていないのか、よく分からないな)
ぐっすりと眠っているわけではあるが、彼の机の上にはしっかりと数学の教科書、ノート、問題集、参考書が乗っているわけで、授業を受ける気がないというわけではなさそうだ。
(普通に起こしても起きないんだよね。問題を答える時に当てちゃおうかな)
何回かあった授業で寝ている彼が全然起きないことは流石の柚子先生も確認済みだ。
(それにしても彼はいっつも寝てる。家では寝れてないのかな?)
そんなことを一瞬考えるが、自分で考えていてもどうにもならないと思い、柚子先生一旦そのことを棚に上げた。
「じゃあ10分経ったけど、まだ問題が解けていない人は居るかな?」
そう聞いたが生徒からの反応はない。
「じゃあ問題の答え合わせをしていくね。今から名前を呼ぶから呼ばれた生徒は前に答えを書きにきて。大問1の⑴、⑵を水原君、大問2を中村君、お願いします」
水原は起きていて、しっかり問題を解いていたので、柚子先生に言われてすぐに立ち上がり、黒板に解答を書き始めた。一方の中村君、いつも通り一回呼ばれただけでは全く起きる気配を見せない。
「中村くーん、問題当たりましたよ。起きてください!」
そう声を出しながら、机の上に伏せている彼の体を揺する。何度か揺するとビクッとして彼が体を起こした。
「やっと起きましたね、中村君!黒板に問題の解答を書いて下さい。問題は分かりますか?」
「ええっと、分かりません」
中村君は寝起きで眠いのか、目をパチパチさせている。
「このページの大問2ですよ」
「分かりました」
そう言って彼は黒板の前に行く。いっつも寝ている彼だが、頼まれたことを断ることは少ない。今回もこのようにほとんど口答えせずに黒板に向かっていく。カツカツ、彼が黒板にチョークで書く音が教室に響く。
◇
「じゃあ大問1の⑵に行くね。水原君が書いてくれた解答を見てみましょう」
そう言って水原が書いた解答を眺めていく。
「うん。大体は合ってるね。でも、ここの半角の公式を利用したところはちょっと書き方が分かりにくいね。"半角の公式を利用して"とか、一言加えるともっと分かりやすくなると思うよ」
柚子先生の解説はとても分かりやすく生徒に評判で、みんな熱心に聞いている。ノートもしっかりとっている生徒が多い。
「じゃあ次に大問2に行くね。中村君の解答を見てみましょう」
そう言って柚子先生は中村君の解答をチェックしていく。最後まで見た柚子先生の表情は驚愕という言葉がふさわしいというような顔をしていた。
「中村君!完璧よ!この問題少し難しいのにすごいよ!」
「マジか」
「いっつも寝てるのに」
「中村すご!」
どうやら彼の解答は完璧だったようだ。教室がざわざわとしている。しかし、そのざわめきの中心人物である中村君は何事もなかったかのように、いつも通り眠っている。
ぐうたら中村君 午後のカフェオレ @kafeoreoishii
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