中村君

 その生徒の名前は中村悠一という。とてもマイペースな生徒で、このようなうるさい時でも1人机に突っ伏していたりする。自己紹介の時から、彼は他の人とは全然違うと分かった。


(自己紹介の時から中村君はすごかったなぁ)


 歩きながら柚子先生はその時のことを思い起こす。



 それは始業式とクラス発表があった翌日のこと。その日は1時間、先生が何をやるかを決めれる時間があった。なので、柚子先生はクラスの生徒のことを知りたいという思いもあり、生徒の自己紹介をすることにした。


「じゃあ、次は中村君。お願いします」


 生徒の自己紹介は番号順に行われ、中村君の番になった。順番になったのにもかかわらず中村君は寝ているので、柚子先生は彼に呼びかけた。


「…」


「なかむらくーん」


「…」


「先生。中村寝てますよ」


「おーい、中村ー。起きろー!」


 周りの生徒が何度も彼を呼びかけたり、揺さぶったりして起こそうとする。


 ムクッ。


(わっ。起きた)


 寝起きの中村君は、それはもう眠そうに、頭をポリポリしながら欠伸をしている。


(ふふっ。なんだか小動物みたい)


 柚子先生は彼のその仕草に対してそんなことを思った。そして、眠そうにしながら伸びをした後、また机に伏せて寝息を立て始めた。


「なっ、中村君!」


「中村また寝ちゃったよ」


「去年もこんな感じだったよねー」


 去年、柚子先生は中村君の数学を授業を持っていなかったので知らなかったが、実は中村君は去年もこんな感じだったようだ。去年同じクラスだった生徒や、噂を聞いていた生徒にとってはいつも通りの光景だったようで、笑ったりしながら見ているだけだったが、柚子先生にとっては初めてのことなのでアタフタしている。


「中村君、中村君。早く起きてください。みんな困ってますよ」


 柚子先生は何度も彼の体を揺する。何度も何度も揺すっていると、彼が体を動かした。


「んっ」


「おはようございます」


「おはようございます?」


「中村君。私何回も起こしましたよね?自己紹介して下さいって。なんで起きないんですか?」


 今回は自己紹介中だったからまだ良かったが、授業中などに毎回寝られてはみんなに迷惑をかかてしまうので、柚子先生は心を鬼にして中村君に注意する。


「すみません、眠かったので」


 そう言った彼は無表情で、反省の意があるのかは柚子先生にはよく分からなかった。


「はー。眠かったっていうのは言い訳になりません。次回からは気をつけてください。じゃあ中村君、改めて自己紹介よろしくお願いします」


「中村です。趣味はぐうたらすること、寝ることです。よろしくお願いします」


 彼は無表情でそう言った後、また机に伏せてしまった。


「なかむらくーん!」


 柚子先生の絶叫が教室に響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る