ぐうたら中村君

午後のカフェオレ

柚子先生

「皆さん、今日も一日頑張りましょう」


 ここは東京のとある高校。今は朝のSTの時間。このように教壇から声を掛けているのはこの高校の先生である河内柚子だ。彼女は2年4組の担任である。


 2年生が始まって2週間が過ぎた。柚子先生もこのクラスに馴染んできており、授業の合間や放課後などにはよく生徒と談笑している。彼女の容姿は綺麗な黒髪のストレート、スッとした鼻にパッチリとした目、豊かな胸。生徒からの人気が無いわけがない。


「柚子せんせーい!今日の数学の授業難しかったよー!これじゃ今度のテスト不安で。助けてー!」


「分かった分かった、早川さん。どこが分からないの?」


「ええっとねー、あ!ここ、ここ!この因数定理?ってやつなんだけど…」


 今、彼女に質問をしている生徒は、早川千歳、2年4組の生徒だ。校則違反ギリギリの化粧が少し目立つ派手な生徒だ。いつもクラスの中心におり、場を盛り上げている。しかし、なんだかんだ根は真面目なようで、こうしていつも柚子先生に質問に来ている。


「あー。ここねー。例えばf(x)が x-2で割り切れるとするでしょ」


「うんうん」


「そうするとf(x)をx-2で割った時の商をg(x)とするとf(x)=g(x)×(x-2)と表せるのは分かる?」


「ええっと…、g(x)=f(x)÷(x-2)ってこと?」


「そうそう!そうするとf(x)のxに2を代入すると、x-2=0ってなるから0×g(x)=0ってなる。だから、f(x)=0になるの。これが因数定理。分かった?」


「うん!めっちゃ分かった!先生ありがとー!やっぱ小城より柚子先生の方が分かりやすいね!」


 小城というのはこの学年を教えている数学の先生の1人だ。ただ、教え方は雑で、成績が芳しくない生徒のことを嫌うようなことを多々言っており、生徒からの人気はあまり高くはない。


「ありがとう。でも、あんまり言いふらしちゃダメよ。小城先生に嫌われて職員室で気まずくなっちゃうから」


 こんな風に軽口を叩けるのも、彼女を人気にしている理由の一つだ。


「分かってるって!先生ありがとーねー!」


「また分からないところがあったら聞きにきてね」


「うん!」


「せんせーい!次は俺の分からないところ教えてー!」


「私も私も」


 千歳はいつも1番に柚子先生の元を訪れており、彼女の質問が終わった後はこのように沢山の人が柚子先生の元に来て教えを求めている。


「ごめんね。今から先生仕事があって。また今度教えてあげるから」


 いつも通り、柚子はそのように言って教室を出る。周りには沢山の生徒がおり


「そっかー。がんばってねー先生」


「また今度数学教えてね」


だというように彼女に声をかけている。


 そんな生徒達に手を振って教室を出る。その瞬間、柚子先生は自分の机の上に伏せて気持ちよさそうにしている生徒にちらっと目を向けた。

 


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