第5話

「あっ、やだっ! し、下着がっ!」


 ……長くない? 火炙りってそんなに時間かかるものなの?

 ヘンリエッタ様に火がつけられてから、五分かそれ以上かは経ったと思うが、ヘンリエッタ様の嫌がる声がずっと聞こえている。

 火炙りの処刑なんて見たことがないから判断ができないが、鎮火したのか? しかし、目を背ける前に見た炎の勢いは強かったはず。

 俺はそっと周囲に視線を動かした。全員が、ポカンとヘンリエッタ様の方を見ているようだ。

 俺は不思議に思って、そっとヘンリエッタ様を見た。


 そして、そこにいるヘンリエッタ様を見た。

 ヘンリエッタ様の、あられもないその姿を。


 炎により服はほとんどが燃えており、ヘンリエッタ様が手でかばっている胸元の下着だけがわずかに燃え残っている。それ以外は燃え尽きたのか、炎の中のヘンリエッタ様はほぼ全裸に近い状態だった。

 炎により大事なところが隠れているが、ヘンリエッタ様の身体の曲線は揺らぐ炎の中でもはっきりと分かった。


「な、なんで死なないんだ……?」


 ジェド様が驚愕の表情でヘンリエッタ様を見ている。

 しばらくの後、ついにヘンリエッタ様を縛り付けていた木の柱や金属の縄までもが燃え尽きたのか、ヘンリエッタ様は炎の中にうずくまって身体を抱きしめた。相変わらずぼろぼろと涙を流している。よく見るとその涙が水蒸気爆発を起こして、ヘンリエッタ様の頬でバチバチと跳ねている。怖い。

 三時間後には全てが燃え尽きたが、ヘンリエッタ様は傷一つない状態で、燃えかすの中でさめざめ泣いていた。


 いつのまにか出されていた椅子に座っていたジェド王子に、側近らしき男が近寄って何やら耳打ちをしている。そしてその後、ジェド王子は俺に「この女を牢屋に戻しておけ」とだけ言い、苛立ちを隠せない態度でその場を去っていった。

 俺は罪人とはいえ全裸のヘンリエッタ様を地下牢に戻すわけにいかないため、走って洗濯室に行き使用人用のベッドシーツを拝借して戻ってきた。洗濯室からは怒られるだろうが仕方ない。

 ヘンリエッタ様にシーツをかけると、立ち上がるように促す為ヘンリエッタ様の両肩に手を置いた。


「ギョワー!!!!!」


 あっっっつ!!!!!今度は信じられないほどヘンリエッタ様が熱い!

 慌てて自分の手のひらを見ると、真っ赤になってところどころ水膨れができていた。


「ジャ、ジャック……」


 ヘンリエッタ様が涙に濡れた顔をあげた。もう涙の水蒸気爆発は起こしていないようだ。


「ヘンリエッタ様、行くっスよ。立てるっスか?」

「え、ええ……」


 ヘンリエッタ様はシーツをキツく身体に巻き付けると、俺の指示に従って地下牢へと戻った。

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