第4話
地下牢から裏庭まではすぐの距離だ。王城の裏庭に処刑場があるなんて聞いたことがなかったが、行ってみるとそこには突貫で作ったであろう火炙りの準備が出来ていた。周囲には何人かの兵士が、逃走防止の為かその処刑場を囲うように円形に立っている。その中にはジェド王子もいた。
木の柱に向かって薪が組んであり、登りやすいようにする為か、木製の足場も組んである。側には金属の縄を持った処刑人が控えており、足場を使って登ってから身体を縛り、足元から火をつけるのだろう。
罪人だからと適当に下町訛りで話をした俺に嫌悪感を示さなかった上に、怪我の手当までしてくれたヘンリエッタ様に、俺は少し同情してしまった。
……そもそもの俺の怪我の原因はヘンリエッタ様が引っ叩いたせいだが。
今時火炙りで殺されるほどの大罪人であっても、人間らしい一面もあるのだろう。俺はヘンリエッタ様のことを忘れないでおこう、それが彼女の葬いになるかもしれない。
そう考えて横にいるヘンリエッタ様を見ると、彼女はガタガタと震えていた。
「お別れっスね。手当てありがとうございましたっス」
「ジャック……」
ヘンリエッタ様が、助けを求めるような視線を俺に向ける。一兵士の俺にはどうすることもできない。俺は困ったような顔で微笑んで、処刑人にヘンリエッタ様を引き渡した。
ヘンリエッタ様が処刑人に無言で促され、足場を一歩進む。ガタガタ震える身体を両手を抱きしめるその姿は、痛々しかった。
バキッ!
突然、ヘンリエッタ様が踏んだ足場の板が割れた。さらに足を踏み出しかけていたヘンリエッタ様は、勢いでもう一歩足場を踏んだ。
バキキッ!
さらに足場の踏み板が割れた。
「えっ……体重……?」「揺すっても頑丈で……」「デ……デブ……?」「俺が見た時にはそんな……」
周囲の兵士が囁き合う声が聞こえてくる。おそらくヘンリエッタ様の耳にも聞こえたのだろう。ガタガタ震える身体は変わりないが、ヘンリエッタ様のその顔は真っ赤になっていた。
その後、どうやっても足場を登ることができず、板を踏み割ってしまう状態だったため、仕方なく地面にそのまま立ってヘンリエッタ様の処刑を行うことになった。
木の柱に括り付けられたヘンリエッタ様は、恐怖というより羞恥の方が勝ったのか、震えてはいなかったが顔を真っ赤にして半泣きだった。
「最期の最期まで手間取らせやがって……俺はとんだ隠れデブと婚約していたということか。見た目まで騙すとは……」
「そ、そんなことしておりませんわ!」
「黙れ雌豚!」
ジェド王子が怒鳴った。半泣きだったヘンリエッタ様は、ついにボロボロと涙を零し始めた。
「火を放て!」
「やっ……死にたくない! 助けて! お父様! お母様!」
処刑人が火魔法でヘンリエッタ様の足元に火を放つ。下地の藁に火が回り、あっという間にヘンリエッタ様の足元が炎に包まれた。
「助けて! ジェド様! ジャック!」
俺は思わず目を背けた。助けを求められても、俺は何もできない。
「あっ、服がっ!」
俺はただ、ヘンリエッタ様の悲痛な叫び声を聞いているしかなかった。
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