「対決」
和真が連れて行かれたのは、プリズンアイランドの中央部、プリズントルーパーたちの基地の中だった。
チーターを捕獲するために世界中へ向かって行くプリズントルーパーたちの基地であるその場所は、プリズンアイランドの中でももっとも広大な敷地面積を持つ施設であり、その内部の様子は、プリズンシティからはもちろん、高所にあるはずのチータープリズンからも、一般や囚人(チーター)の目には触れないように作られている。
和真は何度かその地下を通り抜けたことがあったが、今度は、和真を乗せた車はその施設内へと向かって行った。
初めて目にするその場所は、まさしく[軍事基地]であった。
世界中へプリズントルーパーたちを迅速に輸送するために大型輸送機が離着陸するための長大な滑走路があり、大型機を収容可能な格納庫や、ヘリコプターや垂直離着陸可能な攻撃機を運用するための施設が併設されている。
さらに、基地の一画には車両基地もあり、プリズントルーパーたちが普段から使用している装甲車はもちろん、もっと重装備の、八輪タイプの装甲車などもある。
それどころか、大きな大砲を備えた戦車の姿さえあった。
そして、基地にはプリズントルーパーたちを訓練するための施設や、数多くの宿舎なども併設されている。
和真はそこで初めて、プリズントルーパーたちが文字通り[軍団]であることを思い知らされた。
今まで和真は、プリズントルーパーたちはせいぜい数百人程度の組織で、一種の特殊部隊のような存在だと思っていたのだが、これだけ大きな規模の基地を活動拠点にしているとなると、数千人ものプリズントルーパーたちがいるのかもしれない。
そして、その半数がカルケルの手から離れ、ヤァスの支配下にはいっている。
同僚同士で戦いたくないという心情もあっただろうが、この反乱の規模の大きさが、カルケルに積極的な行動を躊躇(ためら)わせている理由であるようだった。
ヤァスにあやつられて反乱を起こしたプリズントルーパーたちは、チータープリズンでは管理棟の周辺を、基地では兵器庫や司令部、管制塔などを抑えている。
それに対して、カルケルの統率の下にあるプリズントルーパーたちは、チータープリズンの監獄棟、基地では宿舎や通信設備、発電・水道設備などを保持しているようだった。
長期的に見れば、基幹インフラを抑えているカルケルの側が有利なように思えた。
だが、兵器の多くをヤァスの側が抑えていることから、直接的な戦闘では、反乱した側が優位に立つかもしれない。
果たして、この状況はどこまでヤァスの思惑通りなのだろうか。
通信設備やインフラなどの基幹設備を抑えなかったのは、彼の手落ちなのか、それとも、やむを得ない判断なのか。
そんなものがなくとも、勝てるという自信を持っているのか。
いずれにしろ、それはすぐに分かるはずっだった。
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プリズントルーパーたちは、和真を基地の司令部の内部へと連行した。
どうやらそこが、ヤァスのいる場所であるようだった。
そして、和真が連れて行かれたのは、司令部の内部に作られた、基地の司令官用の執務室だった。
ヤァスはそこで、基地司令官用のイスに腰かけ、あの作り物の柔和な笑顔を浮かべながら、和真のことを待っていた。
和真が部屋の中へ入ると、ここまで和真のことを連行してきたプリズントルーパーたちは、和真の首に取りつけられていた首輪を外し、それを、ヤァスの机の前へと運んでいった。
それから、プリズントルーパーたちは退出し、部屋には和真とヤァスだけが残された。
どうやら、二人だけでの対決になるようだった。
「やァ、和真くん。ご苦労様でした。……期待していたよりは少ないようですが、囚人(チーター)たちからチートスキルをいろいろコピーできたようですね」
(なんだ、今さら! )
和真に取りつけられていた首輪を操作し、何かを確認しながら、満足そうな笑みを浮かべたヤァスを、和真は思い切り睨みつけた。
そんな和真の様子を見て、ヤァスは笑みを深くする。
「おやおや、和真くん、そんなに怖い顔をしないでくださいよ。……ボクとしては、まだ、キミをパートナーだと思っているんです」
「お前、ふざけるのもいい加減にしろよっ!? 」
ヤァスの物言いに、和真は思わず叫んでいた。
「人を散々、利用して! 千代さんにあんなことまでして! 今さら、仲間になるとでも思うのかよっ!? 」
「おやおや、ずいぶん勢いがいいですね。ボクとしては、キミに破格の条件を提示しているつもりなんですがね」
和真の激しい怒りをぶつけられても、ヤァスはニコニコとした笑みを崩さない。
その瞬間、怒りで沸騰(ふっとう)した和真の思考は、今、ここに、和真とヤァスの二人しかいないという状況の意味に気がついた。
これは、チャンスだった。
和真とヤァスの間には何も存在せず、和真は直接、ヤァスに攻撃することができる。
今の和真は丸腰で、手錠もされたままだったが、ここまでにコピーしてきた数多くのチートスキルを使うことができるのだ、。
そう理解した瞬間、和真は手錠で拘束されたままの両手をヤァスの方へ向け、チートスキルを発動しようとした。
水流を放つチートスキルとシュタルクの熱エネルギーをあやつるチートスキルを組み合わせ、ヤァスを氷漬けにしてやるつもりだった。
だが、和真が思い描いたようなことは起こらなかった。
ただ、和真の手先からは、ちょろちょろと水が流れだし、その水が少し、この時期としては冷たいかなという程度でしかなかった。
その光景を目にして、ヤァスはこらえきれなくなったように笑いだす。
そんなヤァスに向かって、和真は次々と、自分がコピーしたはずのチートスキルをくり出そうとした。
チートスキル自体が発動しているのだから、この部屋にチートスキルを抑制する機能はないはずだ。
そうであるなら、今の失敗はたまたまだったのに違いない。
和真はそう思っていたのだが、何度試してみても、結果は変わらなかった。
「なっ、なんでだよっ!? 」
和真は自身の両手を、信じられない、と言った顔で見下ろすしかできなかった。
そんな和真に、今まで笑い続けていたヤァスが、笑い声を抑えながら、言う。
「教えてあげましょうか、和真くん? 」
「な、何をだよっ!? 」
怒鳴り返した和真に、ヤァスは、今までのような作り物ではない、彼の心からの笑みを、初めて和真へと向けた。
それは、嘲(あざけ)りと、愉悦(ゆえつ)の入り混じった、不快でいびつな笑みだった。
「キミには、本当は、何のチートスキルもないんですよ! 」
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