「訪問」
「さぁ、セシール! あんた、何があったのか、全部すっぱりここで話しちゃいなさい! 」
和真が床の上でのたうち回る姿を勝ち誇ったような笑みで見下ろした後、アピスは捕まってしまってガックリしているセシールを問い詰める。
「大丈夫、さっき言っていたことは嘘じゃないわ! あなたが私に何があったのかを話してくれたら、私はあなたのために力を貸す! もし、何か罪になるようなことをしていたとしても、そこの小社(こやしろ)管理官が力を貸してくれるわ! ……そうですよね、管理官!? 」
「……ん? あ、ああ、微力ながら、全力を尽くさせてもらう」
「ありがとうございます、小社管理官」
唐突に話を振られた影雄がとりあえず話を合わせるためにうなずいてみせると、アピスはセシールにさらにたたみかける。
「さぁ、セシール! よく思い出しなさい! 」
耳元で厳しい口調で問い詰められたセシールは、あう、あう、と言葉にならないような声を漏(も)らしていたが、やがて、小さな声で呟いた。
「なっ、なにも……」
「なにッ!? もっと、はっきり! 」
「何も! 思い出せないんですぅぅっ! 」
アピスの厳しい言葉に、セシールは再び泣き出しながら叫んだ。
「アヴニールの氷は、わたしじゃないと作れないのに! それなのに、わたし、そんなことをした覚えがないんです! だけど、わたしがやったって言われて! だけど、わたし、それを誰に言われたのかも、分からないんです! 」
率直に言って、セシールの言葉は支離滅裂なものだった。
自分にしかできないようなことをやってしまったはずなのに、その時の記憶がまったくない。
分かっているのは、それを、自分がやったということだけ。
だが、その、自分がやったのだという事実も、セシールは自分以外の他人から教えられ、そして、彼女は自分にそう教えた相手が誰であったのかを覚えていない。
しゃくりあげながらすすり泣くセシールを羽交い絞めにしたまま、アピスはいぶかしむような顔をしていたが、やがて、何かを思いついたらしく、アピスの頭部に魔法の杖の先端を向ける。
「あ、アピス? な、なにを? 」
「変なことはしないから、動かないで」
怖がるセシールに短くそう言ってなだめたアピスは、それから、魔法の呪文を唱えた。
すると、魔法の杖の先端から柔らかな光が生まれ、セシールの頭部を覆いつくし、そしてすぐに消える。
光が消えると、アピスはセシールに呆れたような視線を向ける。
「セシール、アンタ、チートスキルを使われてるわよ? 」
その言葉を聞き、数秒かけてその意味を理解したセシールは、呆けたような顔で口を半開きにする。
「へェっ!? チートスキルが使われてるって、わ、わたしにっ!? 」
「そうよ。……ったく、私たちエルフが、どうしてチータープリズンに大勢呼ばれているか、分かってるの? チーターのチートスキルを使われても、魔法の力でそれに気づいたり、対抗したりできるからでしょうが? 」
戸惑うばかりのセシールの様子に、アピスは呆れと、それと、(この子が本心からヤァスについて働いているんじゃなくて、良かった)という安心とが入り混じったような表情を浮かべた。
「おおかた、チートスキルを使って催眠なり、洗脳なりをされて、アンタ、無意識のうちにヤァスに使われていたのよ」
その言葉を聞きながら、ようやくアピスの無慈悲な攻撃から立ち直ってきていた和真は、ヤァスと協力関係にあるチーターがいて、そのチーターが、[絶対催眠]のチートスキルを持っているということを思い出していた。
つまり、セシールはそのチートスキルを行使され、催眠され、洗脳され、無意識のうちに[自ら]ヤァスのために働くようにされていた、ということらしかった。
「アピス。セシールにかけられているというそのチートスキル、解除できるか? 解除できれば、アヴニールという女性を救助する手がかりになるかもしれん。……ヤァスが何を企んでいるかについても、大きく近づけるだろう」
「……無理、ですね、それは」
少し期待しているような口調の影雄に、アピスは首を左右に振る。
「チートスキルは、まだよく分かっていないことが多いんです。魔法を使えばある程度、チートスキルが使われているかどうかや、そのチートスキルに対抗することは可能ですが、セシールに使われているのはかなり強力な部類でして。……それに、無理やり何かして、この子に何かあったら困ります」
「そうか。なら、しかたがないな」
影雄は肩をすくめてみせると、それから、セシールに視線を向け、彼女に微笑みかける。
「セシール。俺はこのチータープリズンの管理官として、できるだけのことをしよう。キミや、アヴニールという人のために。だが、まずは、ヤァスが何をしようとしているかを知ることが先決だ。今、思い出せる範囲でいい。協力してくれ」
セシールは、自分が知らない間に洗脳されていたという事実を突きつけられてまだ呆然としているようだったが、影雄に向かってうなずき返した。
どうやら、和真たちがチータープリズンに戻って来た成果が得られそうだった。
そう思ってほっとした和真だったが、しかし、その直後、取調室に設置されているスピーカーから流れてきた呼びかけの声に、恐怖のあまりに背筋を凍りつかせることとなった。
〈かァ~ずゥ~まァ~くゥ~ん。カルケルおじさんだよォ~。チータープリズンで起こった囚人(チーター)どもの暴動、和真くんが関わってるって、おじさん知ってるんだァ~。根掘り葉掘り、知ってること全部、徹底的に聞き出してやるから、そこで大人しく待ァっていなさァい〉
それは、猫なで声の、チータープリズンの獄長、カルケルその人からの呼びかけだった。
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