「ローラー作戦」:2

 全員が机の周りに集まると、影雄はノートパソコンの画面を自分以外にも見えやすいように動かし、そこに、プリズンアイランドを上空から俯瞰(ふかん)した立体地図を表示させた。

 地図の上には地形や道路網の情報だけではなく最新の建物の位置や形、大きさなどの情報も表示されており、その中には、出撃してきたヤァスに支配されているプリズントルーパーたちの大まかな配置も示されている。


「プリズントルーパーたちが身に着けている装甲服には、相互に連携を取りやすいようにデータリンクシステムが搭載(とうさい)されている。これは、反乱したプリズントルーパーたちのデータリンクシステムにハッキングして得ている情報だ」


 影雄はそう説明すると、プリズンシティをプリズンアイランドの中央側から包囲するように展開している、無数の赤い点を指し示した。

 どうやらその赤い点が、ヤァスの支配下にあるプリズントルーパーたちを示しているようだった。


(FPSゲーとかで、敵とか味方の位置が分かるマップと同じようなものか)


 それは初めて目にするものであるはずだったが、和真には見覚えのあるものだった。


 その一方で、千代やピエトロ、シュタルクなどは、いぶかしむような表情を浮かべている。

 千代もピエトロもFPSゲーなど遊ぶことはないらしく、シュタルクはこちらの世界のように電子機器は発達していない異世界からやってきたから、そもそもノートパソコンなどにも詳しくない。


 だが、さすがにその点を一から説明しているような時間はなかったので、影雄は敵の動きについての説明を続ける。


「敵はプリズンシティを一方面から包囲するように展開している。これから、我々を捜索(そうさく)するために、プリズンシティを虱潰(しらみつぶ)しにするつもりなのだろう。プリズンアイランドは言うまでもなく島だ。我々が海に逃げることができない以上、時間はかかるが、ローラー作戦をされてしまうといつかは発見されてしまうだろう」


 プリズンシティは、チータープリズンの囚人(チーター)や、プリズンガードやプリズントルーパーたちのために作られた街で、都市と聞いてイメージするような店や娯楽施設はたいてい用意されている。


 だが、その存在理由を満たせればいいだけの街であるプリズンシティは、決して大きな街ではなかった。

 端からローラー作戦を行えば、いつかは和真たちの隠れ家も発見されてしまうだろう。


 そもそもプリズンシティが存在しているのはプリズンアイランドという島であり、和真たちはその陸地から逃げ出すことは難しい。

 もし海に船なり飛行機なりで逃げ出したとしても、そんな目立つ行動をとってしまえばすぐに敵に発見されてしまうだろう。


 つまり、時間には猶予(ゆうよ)が存在するものの、和真たちは追い詰められているということだった。


「そこで、我々が取るべき方策は三つ。……一つ、このまま状況の推移を見守りながら、この場所に息を潜めるか。……二つ、多勢に無勢を承知で勝負をしかけ、敵の包囲網を食い破ってヤァスのところに向かうか。……三つ、この場所からどうにかして逃げ出し、新しく安全な隠れ家を見つけるか」

「三つ目の提案に関しては、却下ね」


 指を一本ずつ立てていく影雄に、シュタルクが断固とした口調で言った。


「長野はまだ回復していないもの。彼を落ち着いて治療できるような場所が他に見つかるというのなら、考えてみてもいいけれど」

「では、このままここに隠れているか、一か八かで勝負に出るかだな」


 影雄はシュタルクの言葉を否定しなかった。

 どうやら、彼自身、この場にいる誰か一人でも見捨てるようなことをするつもりはないようだった。


「とすると、このままここに隠れているべきなんじゃないかな」


 次にそう言ったのは、ピエトロだった。


「僕が戦闘の役に立つようなチートスキルを持っていないからって言うのもあるけれど、相手は武器を持っているんだろう? それに、訓練もされている。戦って突破するのは難しいと思う」

「私一人なら問題ないわ。だから、あなたたちはこのままここで隠れていて。私が攻撃をしかければ敵もあなたたちの捜索(そうさく)どころではなくなるはずだし、ここは安全なはずよ」


 ピエトロの意見に、シュタルクがそう提案をした。


 和真は、それはかなり成功率が高いのではないかと思った。

 シュタルクの戦闘能力の高さはこれまでに何度も目にしてきているし、相手がプリズントルーパーであろうと問題はなさそうだ。


「いいや。それではダメだ」


 しかし、影雄は首を左右に振った。

 そんな影雄に、シュタルクは不服そうな表情を浮かべ、彼を睨みつける。


「どうしてよ? 私の力は知っているでしょう? 」

「それでも、ダメだ。キミは以前、ヤァスに捕まって催眠され、洗脳されている。キミの友人のアヴニールが捕らえられたままである以上、また、同じことになりかねない。……そうなったら、我々には対抗手段がない」

「ム。……それは、そうね」


 影雄にそう指摘されると、シュタルクは悔しそうな様子だったが納得して引き下がった。


「けれども、シュタルクさんにプリズントルーパーたちを相手してもらうっていうのは、いい手だと思う」


 続いてそう言ったのは、オルソだった。


「アピスさんと連絡が取れたんだけど、セシールと接触するチャンスを作れたらしい。だから、シュタルクさんに敵の目を引きつける囮になってもらって、その間にチータープリズンに潜入してヤァスの情報をつかむ。それに、シュタルクさんが敵の目を引きつけてくれれば、長野さんや千代さん、ピエトロさんは安全に隠れていられると思う」

「なるほど。……そうだな、それが一番、ヤァスに勝つ見込みがあるだろう。なら、俺はチータープリズンに戻ってアピスと合流、セシールと接触する。シュタルクは囮、オルソは長野たちと一緒にここに留まって、支援をしてくれ」


 オルソの提案に、影雄が真っ先に賛同し、より具体的な動き方を提案した。


「私は、かまわないわよ。散々人をいいようにこき使ってくれたんだから、むしゃくしゃしているの。せいぜい、暴れてやるわ」


 続いて、一番危険な役割を任されるシュタルクも賛同の意を示す。

 さらに、オルソも、千代も、ピエトロも、無言だったがうなずいてみせ、異論はない様子だった。


 和真が話しを聞いている間に、方針は決まってしまったようだった。


 しかし、和真自身についての動きがまだ言及されていなかった。


「あの、俺は、どうすれば? 」


 少しイヤな予感がしながら和真が手をあげると、そんな和真を見て、影雄はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「和真、お前は俺と一緒に来るんだ。なんだかんだ、いろいろチートスキルを覚えていて便利そうだからな」

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