「私刑(リンチ)の時間」:2
和真は、ただなぶりものにされるだけではいなかった。
和真は恐怖で両目を閉じながらも、鷹峰に羽交い絞めにされていることを利用して下半身を持ち上げ、両足を使って自分を私刑(りんち)しようとしている少年たちに蹴り返す。
だが、アクション映画のようにはうまくいかなかった。
両目を閉じていたせいで、和真がめちゃくちゃに振り回した両足は少年たちをうまく捉えることができず、一人には当たって転ばせることに成功したが、他の少年たちが木の棒を振り下ろすのを止めることはできなかった。
それでも、振り下ろされる木の棒は空を切った。
さすがに和真一人分の体重を支えることはできなかった鷹峰が転び、和真と一緒になって地面の上へと倒れたからだ。
倒れた衝撃と、上から和真に覆いかぶさられる形になり、息が詰まったのか鷹峰が「うッ!? 」と悲鳴を漏(も)らす。
同時に、和真を羽交い絞めにしていた鷹峰の力が緩んだ。
和真はその隙をついて、鷹峰の拘束から逃れることができた。
逃げ出すチャンスは、今しかない。
そう思った和真は、必死に這(は)いずって前に進み、立ち上がって逃げ出そうとする。
だが、相手の人数が多かった。
木の棒を持った少年たちがすぐに追いついてきて、立ち上がろうとした和真の背中を強く打ちすえた。
「がっ!? 」
衝撃と同時に息が詰まった和真は、そう悲鳴をあげながら地面の上に再び倒れこんだ。
そこを、さらに少年たちが襲う。
痛めつけることが目的だから頭などの急所は狙われなかったが、和真は手や足、胴体を容赦なく叩かれて、必死で自分の身を守ろうと身体を丸くすることしかできなかった。
叩かれる衝撃と、激しい痛みが続いた。
和真の全身は青あざだらけになり、服は泥まみれ、酷い格好になっているだろう。
それでも、和真は少年たちに木の棒で叩かれ続けるしかなかった。
多人数が相手では反撃することもできず、少しでも深手を負わされないように、うずくまり、身体を丸めて骨が無くて柔らかい腹を守り、両手で頭をかばうしかなかった。
しばらくして、少年たちは和真を木の棒で叩くことをやめた。
和真が恐る恐る閉じていた眼を開いて見上げると、そこには、鷹峰が怒りに満ちた顔で立っていた。
私刑(リンチ)が終わったのかと和真は少し期待したのだが、その期待は外れた。
「まったく。お前のせいで、僕の服が汚れたじゃないか」
鷹峰はそう吐き捨てるように言うと、近くにいた少年から木の棒を奪い取り、一歩、和真に向かって距離を詰めてくる。
実際、鷹峰の服は、和真が暴れた時に地面に倒れこんだせいで土にまみれ、汚れていた。
だが、地面にうずくまり、木の棒で叩かれまくった和真とは比較にならないほど奇麗な状態だ。
それでも、鷹峰は和真のことを強く恨んでいるようだった。
「おしおきが、必要だなァ! 」
そして、鷹峰は和真に叩きつけるべく、木の棒を高く振り上げ、和真はその光景から顔を背けて歯を食いしばった。
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だが、いつまで待っても、鷹峰が振り上げた木の棒が、和真へと振り下ろされることはなかった。
「そこまでだ! 全員、動くな! 」
異変に気づいて駆けつけたプリズンガードたちが、電撃銃の銃口を鷹峰たちに突きつけながら、そう鋭い声で制止したからだった。
和真が目を開くと、茂みをかき分け、何人ものプリズンガードたちが踏み込んでくる姿を目にすることができた。
プリズンガードたちが向ける銃口は和真にも向けられてはいたが、この時ばかりは、和真にはそれがたまらなく嬉しく思えた。
「く、くそっ! 監視カメラからは見えないようにしたのに! 」
プリズンガードの一人に取り押さえられ、地面の上に押さえつけられながら、鷹峰が悔しそうに声を漏(も)らす。
実際、この場所は周囲からも監視カメラからも死角になるようにされていたはずで、こんなに早くプリズンガードたちが駆けつけてくるとは和真も思っていなかった。
鷹峰とその取り巻きの少年たちは、さすがにプリズンガードたちに反抗することはできないようだった。
彼らは木の棒を捨て、そのままプリズンガードたちに取り押さえられ、拘束されていく。
それは、和真も同じだった。
地面にうずくまったままの和真にプリズンガードの一人が駆けより、後ろ手に手錠をかけてしまう。
状況からすればどちらが加害者で、どちらが被害者なのかは疑う余地もないはずだったが、囚人(チーター)に対する[対応]はすべて同じであるようだった。
ただ、和真を立ちあがらせる際のプリズンガードの動きは、鷹峰たちを立ちあがらせるときよりもほんの少しだけ優しいような気がした。
だが、そんなことは、和真にとっては少しも慰(なぐさ)めにならない
和真は鷹峰たちに私刑(リンチ)にされたあげく、プリズンガードたちによって拘束され、連行されることになってしまったからだ。
おそらく、これから和真たちは取調室へと連行され、そこで何があったのか、徹底的に事情聴取されることになるのだろう。
和真は木の棒で叩かれて全身が痛かったし、泥まみれで、しかも出血までしていた。
それだけでも散々なのに、これから残りの休日を楽しむことも許されないのだ。
(こんな場所、すぐに出て行ってやる! )
和真は、拘束されて、今度はなぶる側からなぶられる側になり、恐怖に顔を青ざめさせている鷹峰たちの姿を見て(いい気味だ)と思いながら、特別任務を遂行し、必ず日本に帰ってやると、そう思っていた。
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