「チータープリズン」:2
チーターたちを収監するための監獄、[チータープリズン]は、巨大な城塞のような施設だった。
周囲を城壁の様に高い塀といくつもの監視塔で囲まれているだけでなく、その中心部分には監獄内の全てを見おろすように巨大な塔、[運営棟]と呼ばれているらしい威圧感のある建物がそびえたっている。
城塞と異なっているのは、城塞が外敵から身を守るために作られているのに対し、この監獄では、内側から脱走者を出さないために作られている、ということだった。
監獄内は全て、運営棟、監視塔、そして無数の監視カメラによって死角なく見張られており、塀の外側と同じ様に、常にプリズントルーパーたちが巡回している。
和真を乗せた車は巡回中のプリズントルーパーたちとすれ違いながら進み、やがて地下に作られた駐車場へと入って行った。
そこにはすでに何台もの車が停車しており、何人もの人々がプリズントルーパーたちに連行されている最中だった。
どうやら、あの船には和真以外にも、[チーター]として拘束されて来た人たちが乗せられていたようだった。
反抗する態度を見せる者も少数いたが、プリズントルーパーたちはそういった者には容赦せず警棒で殴りつけた。
その他の大勢は、どこか顔をうつむかせながら、和真と同じ様に大人しくプリズントルーパーたちに従っている。
みんな、惨(みじ)めな姿に見えた。
チートスキルに目覚め、これから思う存分、今までできなかったようなことをして、無双できると思っていたのに、捕まって監獄に入れられてしまうのだ。
和真は、もっと不遇だった。
自分にはチートスキルなんて無いはずなのに、こうしてここまで連れて来られてしまったのだ。
(これは、何かの間違いだよ)
和真は内心ではそう思っていたから、少しだけ他の囚人(チーター)たちよりも心に余裕があった。
自分は間違って連行されたのだから、もしかすると、このまま解放してもらえるかもと、そういう希望があったからだ。
(俺は無実なんだから、後で、俺を蹴った奴を訴えてやる)
和真には、そんなことを思う余裕さえあった。
もちろん、今そんな考えを表に出そうものならどんな扱いをされるかはわかり切っているので、和真は黙って、プリズントルーパーたちに言われた通りに行動した。
車から降ろされた後、和真は広い部屋に連行された。
そこには質素な折り畳み式のパイプ椅子がいくつも並べられていて、つい数か月前に経験した[入学式]のことを思い出していた。
パイプ椅子が整然と並んでいる感じが、少しだけ似た雰囲気の様に思えたのだ。
「お前はここだ」
ここまで和真を連行してきたプリズントルーパーの一人がそう言い、和真は指示された通りの席に腰かけた。
そこでようやく手錠を外されたが、部屋の外周にはずらりと武装したプリズントルーパーたちが居並んでいて監視していたから、和真は緊張で身を固くし、入学式の時の様に脚をそろえ、背筋を伸ばして座って待った。
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部屋の中には、和真の他にも何人もの囚人(チーター)たちが集められていた。
実際のところ和真はまだ彼らがチーターであることも、チートスキルを持った者が連行されてきているのかということも、はっきりと根拠を持っては知らされてはいない。
だが、和真の身の回りで噂としてささやかれていたプリズントルーパーそのものの相手に連行されてきたのだから、自分も含め、ここに集められてきたのはチーターであると見なされている者たちだと考えてよいはずだった。
少なくとも、本物のチーターたちもいるようだった。
何故なら、そこには和真が捕まることになる直前、削除された動画に映っていたチーターたちの一団の姿があったからだ。
人種も、性別も様々。
本当に、いろいろな人々がいる。
人種が違っているのはもちろんそうだったが、中には、「本当に人間なのか? 」と問いかけたくなるような姿の囚人(チーター)もいた。
例えば、ファンタジーにつきもののエルフと呼ばれる種族の様に、長身で整った顔立ちを持ち、細長く尖った耳を持つ人や、動物を擬人化したような、全身を毛皮でおおわれてもふもふしている人もいる。
それどころか、和真の隣には、ゲージに入れられたシマリスさえもいた。
プリズントルーパーの一人が置いていったゲージの中には、確かにシマリスがいた。
どこからどう見ても哺乳綱ネズミ目リス科シマリス属の小動物で、栗色の毛並みに特徴的な縞々(しましま)模様がはっきりと見て取れる。
ゲージに閉じ込められたシマリスはどこか落ち着きがなく、ゲージの中をせわしなく動き回り、時折、どこかから取り出したドングリを、カリカリと音を立てながら食べたりしている。
(まさか、こいつもチーターなのか? )
和真がそういぶかしみながら横目でシマリスを観察していると、シマリスは和真の視線に気づいたのか、「キッ! 」と威嚇(いかく)するような鳴き声をあげた後、ゲージの奥の方へと引っ込んでしまった。
エルフに、獣人に、シマリスまで。
仮装パーティでも開くのかと思いたくなるような光景だったが、ここにたどり着くまでの経験から、和真はこの状況を笑う気にはとてもなれなかった。
やがて、今日運ばれて来た囚人(チーター)たちが全員集められたのか、部屋の扉が締めきられ、部屋の照明が暗くなる。
「静粛に! これより、貴様ら囚人(チーター)を、獄長殿が出迎える! 獄長殿からの歓迎のお言葉だ! つつしんで拝聴しろ! 」
やがて一人のプリズントルーパーが囚人(チーター)たちの前に進み出てそう告げた。
そして、そのプリズントルーパーが元の位置に戻るのと同時に、囚人(チーター)たちの正面にあった壁が怪しいネオンの光を放ち始める。
(いったい、何が始まるんだよっ!? )
和真は突如始まった派手な演出に驚かされるばかりだった。
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