怒っていたんだと思う

 正しさを押しつけてくる人達に、私はずっと殺意を抱いてきた。


 友達を作りなさい。

 友達を大事にしなさい。

 お行儀よくしなさい。

 頑張りなさい。

 正しくありなさい。

 人と向き合え。

 真面目にやりなさい。


 特に、「気持ちをこめた分だけ結果が出る」と思っている人間が、気持ち悪かった。そういう人間を、嘘で騙してしまうのが、楽しかった。私の必死なふりに騙される程度にしか、他人を見ていないのだって、内心で嘲笑った。

 他人の、「真面目でありさえすれば」、「正しくありさえすれば」報われるという幻想を、真面目でも正しくもなく、不誠実な私が、さらっと飛び越えていくことに愉悦を感じた。

 それは、抑圧への復讐じみていた。子どもじみている? いや、子どもだったんだし、いいじゃない。


 ずっと、ずっと、怒っていた。

 正しさを押しつけられる度、その正しさを踏み潰して、跡形もなく、ぐちゃぐちゃにしてやりたくなった。何度かは、きっとそうしてきた。


 人と向き合わないことも、ずいぶん責められた。

 もう何が起こったのかすら、覚えていないほどではあるのだけど。


 だから、まあ、そんなことはどうでもいいのだ。

 怒っていたけど、もうどうでもよくなった。

 私が大人になって、誰の庇護下でもなくなったから。

 ふわっと手放せて、よかった。

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