ホタテ戦争における敗北

 唐突に理解した。

 これは、ホタテを手に入れる戦争だったのだ。

 そうとも知らず、夕方にのんびりと魚屋を訪れて、大きな貝殻のホタテが残っているわけもない。何を置いても、ホタテを買いに行くべきだった。

 魚屋の店員さんの話では、午前中にはホタテは売り切れたという。

 ホタテ。バター醤油焼きにしてもよし、刺身で食べてもよし、などと想像を膨らませ、完全にホタテ一色の夕食を食べるつもりでいた私には、刺身盛り合わせにちょこんと存在するホタテを買う以外の選択肢はなかった。

 午前中に、好きな漫画の最新刊を手に入れて喜んでいる場合ではなかったのだ。その足でホタテも迎えに行くべきだったのだ。


 私は、食材を手に入れる戦争とはいかなるものか、何一つ理解していなかった。魚屋のSNSにアップされた写真を見れば、誰だって、大きくておいしいホタテが食べたくなる。

 アジやホタテの刺身盛り合わせを夕食にしながら、次からは、魚屋のSNSのチェック及び、早めの行動を怠らずにいようと決意を固めた。


 私の料理の技量で、どうやって、ホタテのバター醤油焼きなんか作るのかは全然わからないけれど。まあ、家にバターも醤油もあるからできるだろう。

 できるか不安になってきた。大人しく刺身にするのがいいかな。


 魚屋の店員の方々は本当に優しくて、一人暮らしで料理のできない私にも魚料理が味わえるようにいろいろアドバイスをくれる。これなら、私でもできそう、と思えるようなものばかりで、魚を食べる生活を取り戻したいと強く思った。

 魚を捌くのは無理だけれど、まあ、何とか少しずつね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る