第28話 部活見学

 放課後、俺たちは玲愛の提案により、部活を見学しようという話になった。


「それはいいけど、誰も部活入る予定ないよね?」


 滝沢北高校は公立のため、部活動にそこまで力を入れている高校というわけではない。

 だからといって適当にやっているわけもなく、先輩たちも一生懸命なところに冷やかしに行くのはどうだろうか。


「いいじゃない別に。ある意味一生に一度しか経験出来ないことなんだし、見学くらいなら邪魔にもならないでしょ」

「私も、ちょっと気になるかな……」

「俺も異論はないぞ。生徒会に入るつもりだから、高校の部活がどんなものか知っておくのも悪くはない」

 

 ただそう思っているのは俺だけらしく、他の三人はあまり気にしていないらしい。

 

 まあたしかに、高校生活で部活動見学を出来るのは今だけだろう。


 とりあえず、ゴールデンウィークに入るまでは見学や勧誘も結構頻繁に行われるらしいので、今ならまだそこまで迷惑にもならないそうなので、俺も同意することにした。


 この時期を逃したら、部内はコミュニティが完成している状態となり、新しく部活に入るというのも中々難しいと思う。そういう意味ではたしかに、一生に一度だけのイベントなのかもしれない。


「おい田中、今日はどの部活見に行くよ?」

「昨日は女子バレー部だったからね、今日は女子テニス部とかどう?」

「お、いいな。それじゃあ行こうぜ」


 鈴木と田中が俺たちの横を通り過ぎる。

 明らかに不純な目的で見学するようなのもいることだし、邪な気持ちがない分だけ冷やかしの方がマシだろう。


「あいつら、また締めてやろうかしら」

「あ、はは……」


 女子からすればああいうのはやはり気分が良くないのか、瑠璃たち以外の目も厳しかった。


 優しくしてあげようとかと思ったけど、あんまり近づくとこっちに火種が飛んできそうなのでやめておこう。


「さてと、それじゃあ私たちも行きましょうか」

「まずは生徒会見学とかどうだ?」

「それはそれで興味あるけど、そもそも生徒会は見学を許可してないでしょ」


 猛の自然に差し込まれた願望を、間髪入れずに否定出来る玲愛は中々強いと思う。

 普通の人ならじゃあまずそこからと言ってもおかしくない。


「会長に頼めば見学させてくれそうな気もするが……」

「雨水君も私も入ることは決めてるんだから、あとで個人的に行ったらいいでしょ?」

「ああ、そういえば黒崎も生徒会志望だったか」

「ええ。私、トップじゃないと気が済まない性格だから」

「そうか。だがしかし、会長の後は俺が継ぐからな」


 文武両道、質実剛健を地で行く滝沢西中学が誇る鬼の生徒会長と、全国からお嬢様が集まる白泉女学院で生徒会長をしていた玲愛の二人が入る生徒会というと、中々豪華な気がするのは俺だけだろうか。


 お互い生徒会長の座を狙っているらしく、ライバル的な関係になることが時々ある。


 ところで猛の中では会長がすでに生徒会長になることは確定事項らしい。たしかにあの先輩はなると俺も思うが、この信頼が凄いなと思う。


「どっちが会長なっても凄そうだよね」

「瑠璃はどっちになって欲しい?」

「ええ! そんなの……決められないよぉ」


 バチバチと火花を散らす二人の横で、俺は瑠璃をからかうと、思った通りの可愛いリアクションをしてくれる。


 なんでそんな意地悪な質問するの? と視線で訴えかけてくるので、そんな瑠璃が見たいからと答えると顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「草薙くんさ、そういうところよ?」

「ああ、そういうところだぞ陽翔」


 とりあえず、いつの間にか舌戦が終わっていた二人に軽く睨まれながら、俺は謝るのであった。




 部活動と言えば、と聞いて最初に思い浮かべるのは、多分人によってそれぞれ違うと思う。


 ただやはりみんなの定番的な考えというのもあって、中学も部活をやっていなかった俺は人気的に野球とサッカーを最初に思い浮かべた。


 スパンッ、と鋭い音と共に白球がミットを揺らす。


「おおー、やっぱり高校生の投げる球は速いねぇ」

「ああ、中学とは違うな」


 滝沢北高校は公立の割に土地が広いおかげか、グラウンドではそれぞれの部活が活発に活動を行っていた。


 その中で俺たちが今見ているのは野球部。

 すでに新入生の中には最初から野球部に決めていた人も多くいるらしく、見た顔も何人かいるし、見学も多い。


「ところで、よく漫画とかで廃部寸前の野球部とかって話があるけど、ああいうのって本当にあるのかな?」

「様々な条件が揃えばあるだろうが、単純に一番メジャーな部活の一つであることを考えれば、早々ないだろうな」


 漫画やドラマと現実は違うよね、と夢のない話をしながら野球部を見ていると、どうにも彼らの様子がどこかおかしい気がする。


 練習だというのにやたら派手に飛んだり、大声を上げたり、時折ちらちらとこちらを見ていて……そう思ったところで視線が俺たちの隣、瑠璃と玲愛に向いているのがわかった。


「単純ねぇ……」

「玲愛ちゃん、なにが?」

「瑠璃が可愛いってことよ」


 そんな友人の言葉一つで笑顔になるのだから、瑠璃は本当に可愛いと思う。

 しかしこのままでは、瑠璃に近づいてくる輩がいるかもしれない。

 

「とりあえず次行こっか」

「草薙くんはちょっと小さいわね」

「酷い」


 俺たちの会話が理解出来ていない瑠璃は不思議そうにしているが、彼氏としては自分の彼女がジロジロ見られるのはいい気がしないのだから仕方ないじゃないか。


「おい、なんか近づいてきたぞ」

「え……?」


 坊主頭で俺たちよりも一回り大きい野球部員がフェンス越しにやってきて、瑠璃と玲愛を見ながら一言。


「そこの二人! ぜひマネージャーになってくれ!」

「悪いけど、興味ないわ」


 そうして玲愛の一言によって、撃沈するのであった。

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