第2話
それは突然の出来事だった。
震えた声だったが確かにハッキリと
「有彩ちゃんのことが好きなの!」
そう言っていた。私は一瞬自分の耳を疑ったが聞き間違いではないことは確かだった。
「…えっと」
私は驚きで言葉が出ない。入学式の日に初めて出会った可愛らしい、まさに美少女といった感じの女の子。その女の子に私は今、告白されている。
「…ごめん。やっぱり迷惑だよね」
困っている表情の私を気遣うように希美は言った。
「ち、違うの、そんな訳じゃ…」
必死に言い訳することしか今の私は出来なかった。
気まずくなって
「ごめん、早く帰れって言われてるんだった。もう帰らないと。」
そう言って私は逃げるように公園を後にしてしまった。
希美の何か言いたそうな、悲しそうな顔が私には辛かった。
「ごめんなさい。ごめんなさい…」
私は無意識のうちに謝っていた。
今思い返せば希美には不思議な魅力があった。一目見ただけで友達になりたいと思わせる不思議な魅力が。私はもしかしたら希美に一目惚れしていたのかもしれない…
毎日一緒に帰った日々。部活は希美と帰るのが楽しくて、入る気にはならなかったな、希美も何故か入っていなかったけど、もしかしたら私と帰りたかったからなのかな…
もしそうだったら私は酷いことをした気がする。でも、私はどう受け止めればいい?物語でしか読んだことのない女の子同士の恋愛。
人を好きになったことがない私に恋愛なんてできるのだろうか…
結局、結論が出ないまま家に着いてしまった。
いや、出したくなかったのほうが正しいかもしれない。
あれから二日間が過ぎたが希美とは一切連絡をとっていない。メッセージを送る勇気は無かった。
それでも学校に行かなければならない。恐る恐る教室に入る。いつもなら希美と笑顔で挨拶をするが、今日は無し。無言で席に座る。
「今日は元気がないね。何かあった?」
様子がおかしいと思ったのか話しかけてきたのは隣の席の
「何でもないよ。ちょっと調子が悪いだけだから」
と誤魔化した。彼は何か疑っているようだったが適当にあしらった。
今まで二人で食べていたお弁当も一人。楽しかった思い出が嘘のように感じるくらいに寂しい。希美に会いたい。でも告白に答える勇気はない。どうしたらいいんだろう。
そう悩んでいる間も時間は過ぎていく。今まで二人だったのが全部一人。下校するのも一人で無言で帰らなければならない。
いつまで続ければいいの?私が覚悟を決めればいい、自分の気持ちに正直になればいい。そんなことはわかっていた。
けど、怖かった。正直になったとして、希美を受け入れたとして、私は、私はどうなるの。幸せなの?踏み出すのが怖かった。
「…」
私は現実から目を背けるように眠りについた。
希美と話さなくなってから一週間以上が経過した。お互いに不自然なくらい避けているのがわかってしまう。
このままでは良くない。そうわかってるのに行動に移せない臆病な自分が嫌になってくる。
そんなときだった。
今日の放課後、4時10分。美術室で会えますか?
そう書かれた手紙が私の机の中に入っているのに気づく。
「なんだろう、これ」
私は思わず口に出す。するとその声に気がついたのか隣の輝樹が
「なにそれ、ラブレター?もしかして告白かもよ」
と茶化してくる。告白ならもう受けたよ。なんならそれで悩んでるよ!とツッコミを心の中でいれていた。
希美のことで頭が一杯の私を輝樹は気にして毎日話しかけてくれていた。
「ありがとね。私を励まそうとしてくれて。気を使わせて悪かったね」
とお礼を言うと
「何かあったんじゃないかって思ってたからね。少しでも気持ちが晴れれば嬉しいよ。君は明るい方が似合うからね」
と輝樹は笑った。
授業を乗り越え、放課後。私は誰もいない美術室へと向かう。美術部は今日は休みみたいだ。内心、希美がいることを期待していたが希美ではなく
「輝樹…、どうしてここに?」
「どうしてって、僕が手紙の差出人だからね」
予想外の人物に驚きを隠せない。
…よく考えたら分かることじゃないか。彼は美術部で、呼び出し場所は美術室、そんなこともわからないなんて私はどうかしてた。
「驚いてるようだけど単刀直入に言う。好きだ。付き合ってほしい」
付き合ってほしい。その言葉を受けるのは二回目だ。希美が最初で輝樹が二番目。
「それとも他に好きな人がいるの?」
他に好きな人がと言われて真っ先に希美が浮かんでくる。輝樹は確かにいい人だ。
でも私は、私が好きな人は…
「ごめんなさい。私、好きな人がいるの。」
「…夢野さんのこと?」
え?なんで希美のことを?私は固まった。
「ごめんね。夢野さんと同じ中学だった奴から色々聞いてね。仲が良かったからもしかしたらと思ったらやっぱりそうだったみたいだね。」
「勘が鋭いね」
「洞察力だけは鍛えてるつもりだからね。自分の気持ちに正直になってみてよ。目を背けずに。向き合ってみて」
自分でもわかってることを言われるとなんだか悔しい。
「夢野さんと一緒に居たい。一緒にいると楽しい。そうでしょ?後先を考えてたら何も出来ない。きっとここで逃げたら後悔する」
その通りだ。なんだか気持ちが見透かされているような感覚だ。
そう、私は希美と一緒に居たい。
改めて過ごした日々を思い返す。そんなに長くはない、それでも最高の日々だった。
一緒に居られれば、話せればそれで幸せなんだ。そんなことにも気づけないなんて、気づこうしないだなんて私はバカだった。私は深呼吸して、覚悟を決めると美術室を出て走り出していた。
この気持ちがきっと恋なんだろう。これが私の「初恋」。大好きな希美に気持ちを伝えるために夢中で走った。
校門を出て、二人で通った帰り道をひたすら走る。
見つけた。希美だ!私は大きな声で
「希美!あの時の返事!してもいいかな!」
と必死に叫んでいた。
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