百合の蕾

しーら

第1話

彼女と出会ったのは高校の入学式の日だった。

夢野希美ゆめののぞみさん…だよね?私、宮園有彩みやぞのありさ!有彩って読んで!」

そう話しかけて来たのは宮園有彩。

自己紹介で誰とでも仲良くなれると自分で言っていた、私よりも背が高い明るい女の子。

「えっと、私は夢野希美、よろしくね」

私は話しかけられると思っていなかったため少し困惑してしまった。

そんな私を見て彼女は申し訳なさそうに

「いきなり話しかけてごめんなさい。私どうしてもあなたと友達になりたくって」

友達になりたい、それは意外な言葉だった。

新学期で馴染めるか不安だった私を救ってくれるかのように話しかけてくれた彼女に私は内心ホッとした。

そして彼女はこう続けた。

「希美って読んでもいい かな?名前で読んだ方が仲良くなれると思うんだ」

少し強引な彼女の提案を断る理由はなかった。

「うん。私も有彩ちゃんって呼ばせてもらうね。よろしくね、有彩ちゃん」

そう言うと有彩ちゃんは嬉しそうな顔をして

「やった!さっそくなんだけど今日一緒に帰ろうよ」

と嬉しそうに言ってきた。

もちろん断る理由はない。私は

「もちろん!一緒に帰ろ~」

と自然と口にしていた。

自分でも驚くほどに有彩ちゃんといるときは喋ることができるな、そう感じながら放課後私は有彩ちゃんと一緒に帰った。

一緒に帰っているときもいろんな話をした。

部活をどうするだとか、好きな物の話だとか、とても楽しい時間だったと思う。

有彩ちゃんとは家がそこまで離れていないこともわかった。私達は

「じゃあね!また明日」

「うん。また明日ね、有彩ちゃん」

と言って別れた。これほどまでに自然に話せる相手は今まであったことがない…そう感じさせるぐらい有彩ちゃんの魅力は凄まじいものだった。

私達は毎日毎日学校に来るたびに話をし、一緒にお弁当を食べて、一緒に帰った。まだ出会ってすぐだが私達は親友と呼べるくらいには仲良くなっていた。

そんなある日、授業が午前中に終わる日があり、私はこれをチャンスだと思い、有彩ちゃんを一緒に午後に出かけるように誘った。

有彩ちゃんは少し驚いたあとに

「もちろん!希美と一緒に行けるならどこだって大歓迎だよ」

いつも有彩ちゃんは明るくて私を楽しませてくれる。少し大袈裟かもしれないが、そこに私は惹かれていた。

約束をとりつけ、ついに約束の日。私はおしゃれをし、近所にあるショピングモールの滝のオブジェクトがあるフロアで待つ。ここは待ち合わせによく使われる場所で人も多い。

…なかなか待っても来ない、

(どうなっているのかな?)

そう思い手元のスマホを確認する。

「!!しまった…予定より30分も早い…」

思わず声に出してしまった。しかしこれくらいなら誤差の範囲、余裕で待っている人もいるだろう。

私は自分に言い聞かせそう思い待っていた。

「おーい、希美!ごめん!待たせちゃった?」

後ろから聞きなれた声が聞こえてくる。私は早く来すぎたこともあり、嬉しくなり手を振り有彩ちゃんを迎える。

「時間は…うん。ピッタリだ」

息切れしている有彩ちゃんは安心したような表情を見せる。

「じゃあいこうよ。私もうお腹ペコペコだよ~」

到着してからまず昼食を食べる約束をしていたので有彩ちゃんは腹ペコのまま走ってきてくれたらしい。そういうところも可愛いところなんだから…

ふと私の中で感情が湧いてくる。

何だろう…この感情は、この感じはどこかで感じたことのある感情…

「希美どうしたの?食べたい物でも考えてるの?ボーっとして」

有彩ちゃんの言葉で我に返る。そうだ、今はお店を探さないと。

「ねえあそこにしない?」

そう言って有彩ちゃんが指を指す方向をみる。そこにはファミレスがあった。

正直探すのも面倒なので私はうなずき、ファミレスに入っていった。

「注文何にする?私はカルボナーラが食べたいな、好きなんだよねカルボナーラ。」

「そうなんだ。んーじゃあ私はこのピザにしようかな。」

店員呼びたしのボタンを押して店員さんを呼び注文を伝える。会話をしているとあっという間に料理が運ばれてくる。

「美味しそう!いただきます」

「いただきます」

そう言うと私達は料理を楽しんだ。美味しそうに食べる有彩ちゃんを見ているだけでこっちもなんだか笑顔になってくる。

ふと有彩ちゃんと目が合う。

有彩ちゃんは私の目を見て微笑んだ。その瞬間顔が赤くなり思わず顔をそらす。

「あれ?希美照れてるのかな?可愛い~」

有彩ちゃんに茶化される。私の心臓の鼓動が早くなるのが実感できた。

思い出した。あのときと同じ感情だ。

それは中学二年のときだった。当時とても仲が良かった女の子がいた。親友と呼べる仲だっただろう。その子と接していくうちにある感情が芽生えていった。それがこの感情…「恋」。

私はついにその子を放課後、学校の屋上に呼び出した。勇気を振り絞りハッキリと伝えた。好きだって。

…でも、受け入れてはもらえなかった。それから私は色物扱いされて友達も出来なかった。その子とも話さなくなってしまった。思い出したくないために蓋をしていた記憶がよみがえってしまったことで私はそのことで頭が一杯だった。そのあと洋服を見に行ってお揃いの服を買ったけど、私は有彩ちゃんに恋してる…そのことしか覚えていない。

その後買い物を終わらせて人気のない公園のベンチに座り休むことになった。

「今日は楽しかったよ。誘ってくれてありがとう。希美」

「私も楽しかったよ。」

そう返事をすると有彩ちゃんが

「何か飲み物でも飲まない?すぐそこに自販機あるしさ」

と提案してくれた。私はうなずくと

「何が飲みたい?リクエストある?」

と聞いてきたので

「コーヒーがいいな」

と返す。有彩ちゃんからコーヒーを受けとると有彩ちゃんは優しい口調で話し始めた。

「希美、なんだか変だよ。上の空みたいな感じでさ、何かあったの?相談できることなら相談して」

真剣な表情で私のほうを向く有彩ちゃん…

言ってしまったらこの関係が崩れてしまいそうで怖かった。昔みたいに。

それでもこの気持ち、伝えたい。

…私は覚悟を決め真剣な表情で有彩ちゃんを見つめ、こう言った。

「驚かせてしまうかもしれないけど聞いてほしい」

有彩ちゃんは無言でうなずく。

「あのね…私、有彩ちゃんのことが…」

緊張して手が震えるのを必死にコーヒーの缶を握り落ち着かせる。

そして

「有彩ちゃんのことが好きなの!!」

私は告白してしまった。

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