第3話

 それは待ち望んでいた声だった。

 大好きな有彩ちゃんの声。

 そしてあの時の返事をしたいという言葉。

 私は期待と不安が混ざりつつも振り返る。

 そこには息切れしていた有彩ちゃんがいた。

 有彩ちゃんはきっと急いで来たのだろう。私の元へ来ると膝に手をつき息を整えている。

「大丈夫?有彩ちゃん」

 私は声をかける。

「はぁはぁ、ちょっと待って大丈夫。問題ない」

 息を整えると有彩ちゃんは真剣な顔でこちらを見つめる。正面から見つめ会うとなんだか恥ずかしくなってくる。

「希美、告白の返事なんだけど…」

 ごくりと唾を飲み込む…

「私も希美のこと大好き!だから付き合って!」

「ほ、ほんとに?」

 正直、最近話もせずにお互いに避けあっていたせいでフラれるとばかり思っていたので少し驚きがあった。

「もちろん!ほんとだよ」

 思わず嬉しくなって私は抱きついてしまった。

 有彩ちゃんも優しく私のことを抱き締めてくれる。

 あぁ、なんて幸せなんだろう。人の温もりを感じる。暖かい。私は今、世界で一番の幸せ者だと言える自身があるくらい幸せだ。

「有彩ちゃん。大好きだよ。」

 幸せのあまり思わず言ってしまう。

「私もだよ。希美」

 有彩ちゃんは笑ってそう言うと、優しく私の頭を撫でてきた。

「希美、そろそろ帰ろう。日が暮れてる」

 無言で頷く。

 もっと触れあっていたいけれど夜になるのは困るので帰ることにした。

 私は有彩ちゃんを眺める。私の恋人は上履きのまま走ってきたみたいだ。思わずクスッと笑ってしまった。

「希美。私を見てなに笑ってるの?」

 有彩ちゃんは腰に手をあて、頬を膨らませながら言う。

「ごめんね。有彩ちゃんが上履きのままだったから思わず」

 有彩ちゃんはハッとした表情になると。

「荷物!忘れてた!あ~あ、取りに行かなきゃな~」

 と肩を落とす。そこで私は

「私も取りに行くよ。一緒の方が楽しいでしょ?」

 と言った。

 有彩ちゃんは嬉しそうな顔をして。

「やった!それじゃ、早く取りに行かなくちゃね」

 そう言うとダッシュで取りに行ってしまった。私もついていくのに置いていくなんて!そう思い私は急いで走ってついていく。


「はぁ、はぁ、疲れた」

 私が下駄箱についた頃には有彩ちゃんはもう荷物を取ってきていた。

「もう!置いていくなんて酷いよ!」

「ごめんごめん。早く取りに行きたくてつい。さ、一緒に帰ろう」

 そう言って私の頭を撫でてくる。

「もう!そんなことしても次からは許してあげないからね!」

 と言いつつも、頭を撫でられたら嬉しくて毎回許してしまいそうで自分でもチョロいなと思う。

 二人で並んで帰る。

 一人だったのは一週間程度なのにすごく久しぶりに感じる。

 ある程度進んだところでふと聞いてみた。

「私、最近話せなかったから、とっても寂しかった。有彩ちゃんは?」

「私もとっても寂しかった。希美と話せないことが、これほどまでに辛いことだと思ってなかった。私も希美こと、最初から好きだったんだって思ったよ」

 私と同じ気持ちでほっとした。有彩ちゃんも私のこと想ってくれてたんだな、と感じて嬉しくなってくる。

「もう、離さないでね。有彩ちゃん」

 私は腕に抱きついて言った。

「何があっても離さないよ。絶対に」

 私達はまた、抱き合った。


 それから家に帰ることになったけど、有彩ちゃんがこんな提案をしてきた。

「そうだ。ねぇ希美、私の家泊まっていかない?」

 突然の申し出に驚いてしまった。

 今家に両親は居ないから大丈夫だろうけど有彩ちゃんの両親は大丈夫なんだろうか?

「いいけど、有彩ちゃんの家族は大丈夫なの?」

 私は聞いてみた。

 すると有彩ちゃん笑って

「大丈夫。今家族家に居ないから二人っきりだよ。それとも二人っきりじゃ恥ずかしい?」

「そ、そんなことないよ!むしろ二人っきりの方が私は嬉しいもん」

 有彩ちゃんは思わぬ返答だったのか少し顔を赤らめてそっぽを向く。

 ここぞとばかりに私は

「あれ~有彩ちゃん、もしかして恥ずかしいのかな?」

 と茶化してみる。すると

「恥ずかしくないけど、希美が可愛すぎるから…」

「えっ」

 私の顔は真っ赤に染まっていた。

 なんだその返事は!逆に私の方が照れちゃうだろ!やめろ!

 と心のなかでツッコミを入れる。とりあえず、話を戻さないと私は照れで死んでしまう。

「えっと、じゃあ、泊まりに行ってもいいんだよね?」

「うん」

「じゃあ決まりだね。私、家から着替え持ってくるから、一回帰るね」

「わかった。準備しておくね」

 そう言って私は一旦有彩ちゃんと、別れる。


 有彩ちゃんの家に行くのははじめてでドキドキする。

 どんな感じなんだろうとつい想像してしまう。

 期待に心踊らせながら急いで家に帰る。

「ただいま。まあ、誰もいないけどね」

 つい癖で行ってしまう。

 家に誰もいないのは寂しいだけだが、今日に限っては話が別だ。私一人なことに感謝するのは今日がはじめてだろう。

 階段を上がり二階の私の部屋の扉をあけ、タンスの中から着替えを取り出す。

 タオル、歯ブラシ、クシ…いろんなものをリュックに詰め込んでいく。

 人の家に泊まりに行ったのは何年ぶりだろう。そもそも泊まりに行ったことはあったっけ?そんなことはどうでもいい。

 今は早く有彩ちゃんの所へ行くのが先だ。

 私は階段を下り、玄関から外に出る。

 もう辺りはすっかり暗くなっていた。

 懐中電灯を取り出し明かりをつけ、走り出した。

 大好きな人の所へ行くために。

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