第6話 魔王は剣を覚える

 俺はアインハルト。最近少しは強くなった村人だ。


 昨日、レオナとともに3 頭の狼に追われ、1 頭を討伐。残りの2 頭を撃退した。

 案の定、家に帰ると父と離れたことや狼相手に無茶をしたことについて怒られたが、レオナを守ったことで少しはお怒りも軽くなったようだ。


 次に俺が勇者となるために強化方法を模索もさくしていたのだが、その過程かていで生み出されたのが勇者模倣魔法『未完成:真実の瞳』、そして精度せいどが低い『計量計測魔法』の2 点だ。

 強くなるための問題点はいまだに残っている。

 問題点は以下の通りである。


1. 事前に解析することで副作用を抑えることができたこと。

2. あまりにも大きな副作用の場合は肉体が変質へんしつする可能性があるということ。


 この2 点の問題点なのだが、どう考えても解決する方法が見当たらない。

 そこで、本日は伝説の勇者ギルベルトの物語から、新たな勇者模倣魔法を開発する。


 今回の伝承は次の点からだ。

 曰く、「剣をふるうたびに大地に光が満ち、魔物を消し去った」。曰く、「勇者は伝説の剣に光を込め、闇を切り裂いた」。曰く「勇者と対峙した魔王軍の幹部は剣の名手だったが勇者には敵わなかった」。

 これらの伝承に基づいて開発を進めていく。

 おそらくこの伝承において語られるべき点は二点ある。『勇者は剣の達人である』という点と『勇者は光の魔法を極めていた』という点だ。


 伝承を再現するにあたりまずは剣を覚えるとこらから始める。


 とは言っても俺は剣をまともに扱ったことがないのでまずは剣を扱う方法を考えていく。

 だが、この村において剣を扱える人間は限られている。その中で最も剣の扱いがうまいのは、


「門番さん、剣の扱い方を教えてくれないか」

「唐突だな。今日は手伝いはいいのか?」

「あの程度はすぐにできる」

「流石だな。だが俺も我流だから、まともに教えられんぞ?」

「いいよ、振り方を知りたいだけだから」


 門番だ。彼は過去に王都の騎士団に所属し、若き天才としてもてはやされていた。だが、何かしらの事情があり辺境の村に左遷させんさせられたらしい。

 剣に関しては魔力の動きを見れば最適な振り方はわかるから、振ってる姿から模倣すればいいだけだ。

 瞳の色が変わった後に、『未完成:真実の瞳』を使用すると魔力の流れを視認することが可能となった。この技術を用い、相手の動きにより変化する魔力の流れを見ることで剣を振る際の魔力を認識し。魔力の流れを俺の体内で再現する。再現結果から俺の体に合うように魔力の流れを整えれば、体に無理が無く最適な振り方ができるようになる。


「よく見ておけよ。__ふんッ!」


 ゴウッ!と風を押しのけるように振るわれた剣。その流れに逆らわないように次々と剣の振り方を変えていく。

 最後に横に一閃。離れていても風が届くほどの剣戟だった。

 残心を終えた門番が話す。


「ふぅ......これが俺の剣だ。参考になったか?」

「ああ、真似して振ってみるが注意すべき点があったらいつでもしてくれ」

「わかった。が、その木の棒でいいのか?」

「俺には剣を買う金も力も無いからな。子供の遊びさ」

「ふむ、それもそうだな。とても子供と話している気分ではないな」


 小声で呟いたため、何を言っているかはわからなかったが、木の棒を構える。


「ふぅ」


 小さく息を吐き、同じ魔力の流れで再現してみる。

 最後の一閃を終える。

 しかし、そこから魔力の流れを正していく。

 徐々に加速していく剣と魔力に身を任せ、最後の一閃を放ち門番に向き直った。


「剣を教えてもらってありがとうございました。今日は帰ります」

「お、おう。気を付けて帰れよ」

「はい、さようなら」


 これで、剣の振り方に関してはマスターした。

 次は剣に光の魔法についてだ。


「あれが、天才ってやつか。はっ、俺もまだまだだな」


 後ろで門番が何かを言った気がしたが、業務に戻っていたので気のせいだったようだ。


~~~~~


「レオナ、今日は能力を作る」

「うん。前に叫んでたやつだよね。今日も危ないことをするの?」

「いや、おそらく大丈夫だ」

「ふーん、危なそうならすぐにとめるからね!」


 こうして、光の魔法の開発が始まった。

 とは言っても、使用可能な光を扱う魔法は生活魔法のプチライト(一瞬、小さな明かりをともす)程度だ。


「ふむ、この光が光の魔法にかなうとは思えないな」

「ふぇ?光の魔法?光魔法のこと?」

「何か知っているのか?」

「ふふん、私はゆうしゃだぞ~」

「レオナ、寝るな。頼むから起きてくれ」


 頭を揺らし船を漕ぐレオナの肩を揺らして起こそうとする。


「いや、一度完全に寝かせるほうが早いかもしれないな」


 レオナにプチレスト(一瞬、精神を休める)を重ね掛けし、眠りへと誘う。


「おやすみ、レオナ」


 その後、家から出て庭へ向かった。


「光の魔法は剣を振るたびに出ていたという。ならば、剣自体が発光すればいいのではないか」


 木の棒を手に持ち、数回振る。

 その動作に徐々にだが魔法を適応させていく。時間がかかる作業だが地道に行っていく。

 魔法を木の表面に展開し、振ってみるものの、木の棒の表面から2 mm先に光が展開されていた。


「何かが違う。別の要因か?」


 魔法の効果が切れると、木の棒は焦げ茶色の樹皮をさらしている。特段変わったことはない。

 木の表面に魔力を展開し、魔力の通る木の道管部分に流していく。


「ここでプチライトに変換すれば」

「何やってんのよ。今すぐやめなさい」


 背後から声を掛けられる。

 気が付き振り返ると夕焼けの中、柵に体重をかけこちらを見ている少女がいた。


「誰だ?」

「引っ越してきたミシェルよ。ミミって呼んで」


 引っ越してきた錬金術師の一家のようであった。


「それよりも、その魔法の使い方よ。危険すぎるわ」

「何か、問題があったのか」

「もちろんよ。あのまま魔法を使っていたら木の棒が爆発して、あなたは吹っ飛んでいたわ」

「ほう、この技術が何か知っているのか?」

「それこそ錬金術よ。魔力の回路を形成して物で魔法を使うの」


 錬金術。これを次にマスターすれば、振るたびに光る剣を作れるかもしれない。


「錬金術を教えてくれないか」

「工房が無いとできないわよ。それにパパじゃないと教えれないし」

「今日は遅いし明日にでも伺おう」


 俺は強くなっている。確実に。

 俺は勇者になるんだ。


__________


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