第19話:ユリシアの助言:閑話2

 遠くから流れ込む潮風がその白銀の髪を揺らす。


 馬車から降りて車いすに乗り換えたアイラにミロが近づく。


「アイラ。まぁ、頑張れ。それと、色々と気をつけろよ。知らない土地だし」

「ミロお兄様もどうかお気を付けを。それと……」

「ん、どうした?」


 アイラがミロを手招きする。ミロは首を傾げながら、アイラの口許に耳を近づけた。


「ユリシア様にあまりご迷惑をおかけしないように。それとくれぐれもアダルヘルムお兄様のようにはしかに惑わされ、忠臣を失うことのないように」

「なっ! いや、僕はそんな失態――」

「する、とハティアお姉さまがおっしゃっていましたわ。アダルヘルムお兄様のやらかしを尻ぬぐいしたハティアお姉さまが」

「うぐ……」


 ミロは言葉をつまらせる。


 王族としての力関係は王位継承権通りではあるが、兄妹間での個人的な力関係はハティアが上だ。歳が近く、色々と恥ずかしいことを知られているミロはもちろん、王太子のアダルヘルムでさえ、ハティアにはあまり強く出れない。


 というか、アダルヘルムに至っては王立高等学園にてした婚約破棄騒動の尻ぬぐいをハティアのもあって、一生頭が上がらなくなっているくらいだ。


 普段は優秀で王族としての合理的判断ができる王子なのだが、やはりはしかの前には愚かなことをしてしまうらしい。


 まぁ、とにもかくにも、尊敬していた兄が妹に土下座する姿を見ていたため、ミロは言葉につまってしまったのだ。


 しかし、ユリシアがこちらをジッと見ていることに気が付き、両腕を組んで鼻で笑う。


「ぼ、僕はそんなことをしない! だいたい、ハティア姉さんだって今回の騒ぎを起こしたんだ。その予想も甚だ疑問だ!」

「……そうなの」


 善意で忠告したのだが……。


 ずかずかと馬車に戻ったミロにアイラは心の中で少しため息を吐きながら、ヂュエルに軽く目配せした。


 その視線に気が付いたヂュエルの表情をアイラは視ることはできなかったが、苦笑いしているのは確かだろうと思った。


「アイラ殿下。四つ話しておくことがあるわ」

「な、なんでしょう」


 ミロが馬車に戻ったのを確認したユリシアが食い気味にアイラに近づいた。アイラは少し困惑気味に眉を八の字にする。


「一つ目はそう! 何か困ったらセオをこき使いなさい! いえ、困らなくてもこき使いなさい!」

「えっ?」

「いい? セオは基本怠けものなの。好きなことしかしないの。けど、アイラ殿下のためなら嫌なこともやるわ。つまり、アイラ殿下があの子の怠け癖を治せるのよ! 嫌なことをビシバシやらせなさい!」

「え、いや、その、セオ様の嫌がることはしたくないのですけど」

「私が許可するわ!」

「えぇ……」


 アイラは困惑する。そんなアイラの困惑は無視して、ユリシアは自分の胸元に手を突っ込む。


「ゆ、ユリシア様!」

「ユリシア殿! はしたない!」

「るっさいわね!」


 バッと視線を背けて注意するヂュエルに、ガルルッと喉を鳴らして威嚇するユリシアは、驚いていたアイラに手を差し出す。


「二つ目は、ん!」

「えっ、その手の中のって」

「父さんには内緒よ。本当はこの子たちは家で留守番させておく予定だったけど、私の勘が連れて行けって言っててね。もちろん、セオにも許可はとってあるわ。向こうで合流させてあげて」

「……分かりましたわ」


 アイラはユリシアから受け取った。


 その子たち・・・・・はスルリとレースがあしらわれた裾からドレスの内側に侵入した。ちょっとくすぐったかったが、アイラは我慢した。


 そして胸元らへんに隠れたその子たちに静かに言う。


「よろしくお願いします」

「アル」

「リュネ」

「ケン」


 その子たち、つまりアルとリュネとケンは小さい声で頷いた。


「で、三つ目よ。いい。嫌なことや大変な事があったら私の名前を呼びなさい。セオより早く助けてあげるわ。絶対よ」

「えっとそれは……」


 まるで物語の騎士様のようなことを言うユリシアに、アイラは戸惑うしかない。


「セオはね。ちょっとトロいの。それ以外はなんだかんだいって全部解決してくれるけど、最初だけ遅いの。そこは私がカバーするわ」

「いや、そういうことではなく……いえ、分かりましたわ」

「それでいいわ」


 物理的な距離としてユリシアがセオより早くアイラのもとに駆けつけられるとは思えないのだが……。


 しかし、ユリシアの謎の気迫に押されてアイラはコクリと頷いた。


「そして最後ね。セオは耳が弱いわ」

「は?」

「もう一度言うわよ。セオは耳が弱いわ。これは絶対に忘れちゃダメ。いいわね」

「は、はい……」 


 今までにない真剣な声音にアイラは頷くしかなった。


「伝えるべきことは伝えたわ。じゃあ、気楽に頑張りなさい。創造神クロノスの加護があらんことを」

「……ユリシア様にも火神ウェスタの加護があらんことを」


 ユリシアが神の祈りを口にしたことに少し驚きながらも、アイラは同じように神の祈りを口にした。


 そしてしばらくしてロイスとの話し合いが終わったクラリスが、アイラ用の馬車を異空間から取り出し、アイラはその馬車に移った。


 そしてユリシア達と別れたのだった。


 




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いつも読んで下さりありがとうございます。

面白い、また読みたいなど少しでも何か思いましたら応援や★、感想やレビューなどをお願いします。モチベーションや投稿継続に繋がります。よろしくお願いいたします。

 

今週はちょっと短めでした。


また、次話の投稿ですが、一応いつも通り来週の日曜日を予定しております。しかし、私事で予定が不安定のためもしかしたら投稿できないかもしれません。その時はよろしくお願いします。

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