第12話:偽造とモフモフ:On the way
「なんばいいよっとかっ、このクソガキ!! 舐めとんのかっ!!」
「そんなに怒鳴らなくても聞こえるって。あ、ごめん。貴方の耳が悪いんだね」
「ッッ!! いい度胸じゃねぇか! この俺様が手を出さないと思ったら大間違いだぞ!!」
「や、やめようよぉ……」
「いますぐ、ごめんなさいしよ! ね!」
俺の目の前には悪漢たちがいた。後ろには俺より背の高い男の子と女の子。歳は八歳くらいだろう。ライン兄さんと同じ年だ。
なんのことはない。
俺はアランとレモンと別れ、調査をしていた。分身体にも情報収集を頼んでいたが、俺も動いておこうと思ったのだ。ちょっと働き者の日なのだ。
で、調査をしている最中たまたま裏路地に入ったら、後ろの二人が目の前の悪漢たちに詐欺られそうになっていたところに遭遇したので、割り込んで鼻で笑ってやっただけだ。後悔はしていない。
っというか。
「あのさ、それ、俺の商品なんだけど。何、詐欺ろうとしてるの?」
彼らが手に持っているのは火種を熾す魔導具を作るキットだ。ドルック商会として配布している月刊誌の付録として、先月つけたものだったりする。
つまり、俺の商品だ。無料で手に入るものでもある。
なのに彼らはそれをぼったくり価格で子供たちに売りつけようとしたのだ。その怖い見た目と暴力性を脅しにして。
悪漢たちが大笑いする。
「は? これがお前のだぁ? アハハハハハ!! これは傑作だぜ!!」
「これは俺たちが作った魔導具ですぅ! お子ちゃまは引っ込んでろ!」
「ブハハアハハハハ!!」
下品な笑い声。腕をまくり、無駄に太い筋肉を見せつけてくる。
「はぁ」
ため息一つ。無属性魔法を一つ。
ピュ~~と俺の手から打ちあがった魔力の玉は上空でパァ~~ンと大きく弾け、花火のように輝いた。
「な、なんだ!?」
「なにしたんじゃ、クソガキッッ!!」
「勝手な真似するんじゃねぇぞ!!」
「ひぃぃっ!」
「きゃぁあ!」
詰め寄ってくる悪漢たちに悲鳴をあげる子供たち。
だが、同時に少し離れたところから。
「こっちで子供を攫おうとするやつらが!」
「お前たち! 我が君の地を汚す輩を絶対に逃がすなぁ!!」
「「「「「「ハッッッ!!」」」」」
大人に変装した分身体の声と、裂帛の怒鳴り声とカツカツと響く軍靴の足音が押し寄せてきた。
悪漢たちは顔色を変える。今、この王都は子供に対しての犯罪行為もろもろに敏感なのだ。
「じゃあ、もう悪い大人に騙されちゃだめだよ」
「え」
「あんた、ちょっと――」
「えい」
先ほどの魔法の威力を小さくして、俺は辺り一帯に閃光を走らせた。
「な、なんだこれはっ!」
「ぎゃあああ!!」
「がはっ!!」
同時に悪漢たちを魔術の鎖で縛り上げて地面にはりつけにし、気配を消して屋根の上へ移動してその場を離れる。
「セオ様」
「あ、レモン。それにアランも」
レモンとアランがそこにいた。
「二人ともどうしたの? 調査は?」
「坊主が危ないことに顔を突っ込んだから、飛んできたんだ」
「まったくもう。危ないことはしないでくださいよ」
「すぐに逃げられたし大丈夫だって。それに、これも情報収集の一環だよ」
俺は内心ドヤ顔しながら懐から小金貨を二枚取り出した。二人は首を傾げた。
「それがどうかしたのか?」
「まぁ、セオ様の尻尾を見る限り自慢したいのは分かるんですけど」
「え、尻尾?」
俺は振り返って尻尾の方を見る。俺の尾てい骨辺りから生えている狐尻尾がめちゃくちゃブンブンと振り回されていた。
……
「ち、違うから! 自慢したいとかじゃなくてさ!」
「否定しなくていいですから。可愛いですよ、セオ様。恥ずかしがってペタンと垂れているお耳も素晴らしいですよ。ここまで感情が出やすい狐人族はいません」
「俺は狐人族じゃないっての!!」
クソっ! 狐耳も尻尾も新しい部位だから制御が上手くきかない! これじゃあ、俺の内心がバレバレじゃないか!!
あとで“
「と、ともかく。この二つの小金貨を比べてみて!!」
俺はレモンとアランに小金貨を渡す。二人は首を傾げながら、二つの金貨を見比べる。
最初は何が違うのか分からなず、眉を八の字にして首を傾げていた二人も、十分近く経てば俺のいわんとすることが分かってきたようで、だんだんと目を見開き最後には仰天した表情を浮かべた。
「せ、セオ様。これ、え、セオ様!」
「ね、凄いでしょ。そっちの一枚はさっきの悪漢たちが持っていたんだ」
あの悪漢たちに絡んだのは、もちろん子供たちのためであるけどそれだけが理由じゃない。
彼らは持っていたからだ。偽造硬貨を。
この大陸の通貨は、かなり厳格に管理されている。
冒険者ギルドなどを束ねる自由ギルド、信仰のよりどころである七星教会、人類の隣人である精霊との仲介を行う精霊議会、そして多くの国々。
前世の地球にすら負けないほど高度な理論と、魔法や
まぁ、それでも信用創造には至っていないが。
いや、信用創造がこの世界の経済論理の上にあるわけでもなく、世界そのものの成り立ちが違うため比較できない。
閑話休題。
ともかくだ。偽造硬貨を作ることは相当難しい。作れてもすぐにバレるようなチャチなやつばかり。
しかし、今、俺たちの前にあるのは違う。レモンとアランが十分以上注意深く観察してようやく偽造硬貨だと分かるほど、高度な偽造技術が使われている。
そしてまた、俺よりも情報収集をしていたレモンたちがその情報を掴んでいなかった。
つまり、かなり巨大で練度の高い組織が硬貨の偽造に関わっていることは間違いない。
「セオ様はどうしてこれにっ!?」
「いやね。二人と別れた後、ちょっと魔導具とか色々買い物してたんだよ」
「おい、情報収集してたんじゃなかったのかよ」
「か、買い物も情報収取の一環だよ!!」
流石は異国の王都で、面白い魔導具や書物、鉱物や食材などが沢山売っていて、それに夢中になっていたが、情報収集の一環なのは確かだ。結果的に硬貨の偽造も見つけたし。
「まぁ、お金を沢山使ったときに、気が付いてね。分身体に探らせていた情報も加味するともしかして偽造されているかもと思って、調べてみたら案の定。で、その出所はどこかって探っているところに、さっきの悪漢に会った」
今、俺の分身体の一体が“隠者”で悪漢たちを捕らえた騎士団に忍び込んでいる。これから彼らの尋問を盗み聞くのだ。
そして俺はその情報をアラン達に渡せばいい。簡単なお仕事である。
「ねぇ、俺たちは解決に動かなくていいんだよね?」
「ああ。動くのはロイス達だ。俺たちは事前の情報収集が目的。あの悪漢たちの裏を探ったら、すぐにヒネ王国へと向かう予定だ」
「じゃあ、明後日くらいだね」
「まぁ、順調にいけばな」
フラグめいたことは言わないでよ。アランにジト目を向けた。
だが、そんなフラグは普通にへし折られ、翌日。
「あ、面白い情報がでてきたよ。彼ら、『魔の救済』と取引してたんだって」
「ここで『魔の救済』がでてくるか」
「というと、あそこに乗り込んで調べるのが手っ取り早いですかね。早速行ってきます」
「じゃあ、俺も」
「セオ様はアランさんと一緒に残っていてください。これは私の仕事なので」
レモンが真剣な声でそう言ってきた。案にお前の出る幕はないと言われているようなものだったけど、嫌な気はしなかった。
「分かったよ。でも、気を付けてよ」
「はい。最短で仕事を終わらせて、今夜はゆっくり休みます。セオ様の尻尾をモフモフさせてもらいます」
「えぇ……」
「そんな嫌そうな顔しないでください。ちょっとだけですから」
「……まぁ、ちょっとなら」
渋々頷いた。レモンがにんまりと笑った。頷いちゃダメだったかも、これ。
「アランさん、セオ様をよろしくお願いします」
「おう、任せとけ。セオと一緒に夕飯でも作っとく」
「美味しいのをお願いします。あ、それと例の猪の処理、しておいてくださいね?」
「お、おう。それもやる」
そしてレモンは「じゃあ、行ってきます」と言って、調査に向かっていった。
一時間後、戻ってきた。
「ただいま戻ったです」
「早っ。まだ、夕食はできてないよ」
「分かってますよ。アランさんは?」
「買い物」
「そうですか……」
ベッドの上でごろんとしていたら、レモンがじわじわと近づいてきた。
「え、なに。どうしたの?」
「どうしたのって、当然先ほどの約束を」
「え、まさか本当にするのっ?」
「そのために、一時間で終わらせてきたんですっ!」
レモンが俺に手を伸ばしてきた。狐耳と尻尾に触れてきた。
「あ、ちょっと、やめてよ!」
「約束を破るんですか! セオ様はそんな悪い子なんですか!」
「……一分だけだからね!」
一分間、耳と尻尾をモフモフされた。
……悪くはなかった。
======================================
いつも読んで下さりありがとうございます。
面白い、また読みたいなど少しでも何か思いましたら応援や★、感想やレビューなどをお願いします。モチベーションや投稿継続に繋がります。よろしくお願いいたします。
新作の『ドワーフの魔術師』を投稿しています。
ドワーフの魔術師とエルフの戦士がのんびりスローでちょっぴり波乱な旅をする話です。今作と雰囲気が似ていると思いますのでぜひ、読んでください! どうかお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます