第11話:状況の理解(詰問):On the way
「で?」
夜の草原。
空気はカラっとしていて乾燥した風が低い草を僅かに揺らす。空気はどこまでも透き通っていて満天の星空が見える。
気温は少し肌寒い程度で、パチパチと燃える焚き木を前にすればちょうどよい温かさとなる。
で、俺は正座させたレモンとアランに尋ねていた。
「まずだけど、レモン。本当に大丈夫? 痛いところとか、体調が悪いとかはない?」
「それについては心配をおかけしました。体調はいたって問題ない――」
「嘘吐かないで」
レモンはポーカーフェイスが得意なようで苦手だ。そのモフモフの耳と尻尾を見ればすぐに分かる。
「……ちょっとだるいです」
「ちょっと?」
「…………かなりだるいです」
「だよね」
だって、俺がいま付けている狐耳と尻尾は神獣の加護とやらを一部抽出して創ったものなのだ。
神獣の加護について詳しくは知らないが、おいそれと抽出していいものではないのは確かだ。
やっぱりあの時のレモンは冷静な判断ができていなかったということである。
「一先ずその解消だけ行おうっか」
「できるのですか?」
「たぶん」
“
そこから、レモンが何故だるくなってしまっているのかを探ることくらいはできるし、根本的な解決にはならなくとも緩和くらいはできるだろう。たぶん。
「ということで、頭を触るよ」
「うぇ、いや、それは」
「触るよ!」
なんで今更恥ずかしがっているかは知らないが、ともかく俺はレモンの頭に手をあてた。
いけそう?
――オッケー丸々すけだよ!
……じゃあ、サポートを頼むよ。
――ちょちょいのちょいですませてあげる!
“
でも、なんでこんなフランクなの?
俺はこんなフランクじゃないし、誰を参考にしたのさ。
――そりゃあもちろんセオ君を?
いや、だから、俺はこんなフランクじゃないよ。
……まぁいいや。
「どう? 少しはだるさが和らいだ?」
「え、ええ。はい……」
レモンは少し呆然としていた。アランも驚いたように目を見開いていた。
「それはよかった。流石にこの狐耳と尻尾を解除して、神獣の加護に逆戻りさせたかったんだけど、どうにもこれって不可逆に近いものなんだね」
「加護関連に関しては、その加護の大元でないと自由な操作が……って、そうじゃなくて、どうやって私の体調をっ?」
「あれ、分からなかったの?」
アランは分かっているから今も絶句して驚いているし、レモンも分かっているかと思ったんだけど。
「今回のでレモンが失ったもの、特に神聖魔力を俺の魔力で代用したんだよ。前から神聖魔力に関しては色々と研究しててね。まぁ流石に神聖魔力自体は創り出せなかったけど、それに似た性質を持つ魔力なら案外俺の魔力を変質させて創ることができてね」
「なっ。神々が権限を与えてようやく作り出す魔力をっ」
「いや、だからそれに似せただけだって。オー爺みたいなことはできないよ。ともかく、偽の神聖魔力をレモンの重要な器官に送って馴染ませれば、まぁだるさくらいなら緩和できるんだよ。ね?」
とはいえ、だるさ以外の緩和はできていない。
今回のでレモンが失ったものは多いはずだ。体調だけでなく、その力や感覚なども。
たぶん、アテナ母さんの神業的な魔法センスがあれば、不可逆性としてその性質を固定されているこの狐耳と尻尾も、可逆性へと変換して元に戻すことができると思うんだけど……
まぁ、今の俺じゃあ無理だね。仕方ない。諦めはしないけど、受け入れよう。
「まぁ、ともかくだるさはなくなったね?」
「はい。おかげさまで」
「じゃあ、聞くよ。いつ誰がどうしてレモンたちを操ろうと攻撃してきたの? それとあの褐色イケメンさんは誰?」
俺の直感がどっちもかなりの面倒ごとだと囁いている。
見ないふりをするというのも可能だが、レモンとアランが巻き込まれるほどだ。一緒にいる俺も必然的に巻き込まれてしまうのは目に見えている。実際巻き込まれたし。
だからこそ、さきにその面倒ごとの具体的内容をしって対策を立てれば回避することができる。
……はずだ。いや、してみせるのだ!
だって、今回の俺の旅の目的はハティア王女殿下を探すこととお米を食べること、そしてバッグ・グラウスさんのサインを貰うことだ。それ以外に労力を費やしたくない!
できるだけ、のんびり旅をしたいのである。
アランとレモンは眉を八の字にして顔を見合わせて逡巡した後、口を開く。
「まぁ、坊主ならいいか」
「セオ様ですしね」
なんで俺ならいいのか分からないが、まぁ話してくれる気になったようだ。
「まず、俺たちが攻撃を受けたことについてだな。攻撃の種類は精神系。その内容は一時的な精神操作で、お前が言っている褐色イケメンの捕縛をさせることだった」
「……つまりアラン達が攻撃されたのと、あの褐色イケメンさんとやらは関係があるってこと?」
「そうですね。ただ、私たちの正体などを知って攻撃してきたわけではないようですが」
「つまり、たまたま?」
「はい。私たちが泊まった宿に泊まる人を狙っていたというわけです」
「なるほど」
……ん? つまり、宿の人がレモンたちに攻撃したってこと?
「いえ、その線は薄いでしょう。前日にでも仕掛けていたのでしょう」
「誰が?」
「……
僅かに言い淀んで、レモンはそう断言した。つまり、それだけの確かな情報があるということだ。
嫌だな~。今、政争の真っ只中かよ。さっきの褐色イケメンさんだって、王弟派に狙われるような存在ってことでしょ。面倒な臭いしかしない。
っというか、ミロ殿下とロイス父さん、ユリシア姉さんは大使としてこのグラフト王国に近日訪れる予定なんだよね。
大丈夫かな?
「大丈夫ですよ。それも込みで、いやそれもあってロイス様たちが訪れるのです」
「っというかだ。確かなことは言えないが、ハティア王女殿下はともかく、エドガーはたぶんこの国にいる。その案件に関わっていると俺たちは睨んでいる」
「何を根拠に?」
「勘だ。それと、エドガーがロイスとアテナの子供だからな。どうせ巻き込まれている」
酷い言いぐさである。が、まぁ納得できる。
「……坊主にも当てはまるからな?」
「やだなぁ。俺はそんなことにはならないよ」
「数時間前に起こった事、理解してますか?」
知らない。聞こえない。俺はさっさとヒネ王国にいくんだ。
「と言うかだ、坊主。聞きたいことがあるんだが、どうやって攻撃を防いだんだ?」
「ん? どういうこと?」
「……自覚なしか。さっきレモンが言っていただろう。宿に泊まった人間に攻撃は仕掛けられていたって。つまり坊主も対象だったはずなんだ」
「あ、確かに」
でも、そんな感じは一切なかったし。
――そりゃあ、僕が防いだからね! なくて当り前だよ!
……おい。
何で、そんな重要なことをさっさと言わないの!
――だって、僕とセオの絆の強さに比べれば大したものじゃなかったし!
いや、大したものだって! 怠け者でもレモンはとても強いんだよ! そんなレモンが防げなかったんだから、大したものでしょ!
――でも、本当に簡単に防げたんだもん。
拗ねたように返答してくる“
別に“
――ふん。もういいもん! 僕少し寝てる!
あ、おい! “
……返事がない。本当に寝てしまったようだ。
まぁ、今のは俺が悪いな。明日謝ろう。
「……で、坊主。黙り込んでどうした」
「ああ、なんかいつの間にか防いでいたっぽい」
「……マジか」
「あれをいつの間にか防ぐとか……」
アランとレモンが絶句していた。
「こ、こほん。ともかくだ。これから王都に向かうにあたって坊主にはいくつか注意しておくことがある」
「えぇ~。王都にいかなくちゃダメなの。王都は避けて、このままバキサリト王国に行っちゃわない?」
「ダメです。ロイス様たちから事前に調査を依頼されているんです」
「……そういうことは俺にもキチンと伝えておいて欲しいんだけど」
まぁ、伝えなかった理由はわかるからあまり強く言えないが。それに伝えられたとしても、たぶん俺のことだから今みたいに調査しなくてよくない? っとか冗談を抜かすだろうし。
「まぁ、分かったよ。俺も分身とか使って調査を手伝うよ」
「お願いします」
っということで、二日後。
「任せたよ、俺!」
「「「「「「「「「「任されたよ、俺!」」」」」」」」」」
グラフト王国の王都にやってきた俺は、都に分身体を百体放ち、早速調査に乗り出したのだった。
面倒なことはさっさと終わらせて、のんびり旅をしないとね!
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いつも読んで下さりありがとうございます。
面白い、また読みたいなど少しでも何か思いましたら応援や★、感想やレビューなどをお願いします。モチベーションや投稿継続に繋がります。よろしくお願いいたします。
新作の『ドワーフの魔術師』を投稿しています。
ドワーフの魔術師とエルフの戦士がのんびりスローでちょっぴり波乱な旅をする話です。今作と雰囲気が似ていると思いますのでぜひ、読んでください! どうかお願いします!
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