第10話:街の滞在期間は短く:On the way
「ぎ、
「そうだ。ここから西。山を越えたあたりで
「わ、分かりました」
何度もハンカチで汗を拭きながら、犬人族のこぶとりのおっさんが気弱に頷く。
小声でレモンに尋ねる。
「ねぇ、この人、本当にギルド長なの? 全く強くない気がするんだけど」
魔力感知で探った限り大した魔力も持っていないし、大きな気配を感じたりもしない。“
こんな人がギルド長をできるのだろうか?
「……セオ様。そう露骨だと聞こえますよ」
「でも」
「まぁ、その気持ちはわからなくはないですが。あれですよ。いくら冒険者ギルドと言えど、色々とあるんです。直ぐに自浄作用が働くわけではありませんし」
「ふぅん」
自浄作用ね……
この人が賄賂か何かでギルド長の座を買ったというわけ? それにしては気弱というか、地位などに固執する感じではなさそうだけど。
レモンをチラリと見やる。エドガー兄さんやハティア王女について色々と調べていたし、この国の内情とかも詳しく知っていそうな気がするけど。
狐耳をピコピコとさせ、狐尻尾をフリフリとさせて可愛らしく小首をかしげている。
……まぁ、いっか。この国の内情がどうであろうと、俺には関係ないはずだし。
な、ないよね。アランとレモンもいるし、変なことに巻き込まれたりとかしないよね。
なんか心配だな~。
生誕祭や先の王都へ行ったのは旅行としてはノーカウントなので、今回がこの世界での初めての旅行なのだ。
あ、いや、もちろんエドガー兄さんとハティア王女殿下を探す旅でもあるよ。旅行とはちょっと違うのは分かっているよ。心配してる。
けど、まぁ、二人とも大丈夫だとは思うんだよね。特にエドガー兄さんは。だってロイス父さんたちには及ばなくてもかなり強いし。それにバッグ・グラウスさんが二人の協力をしているし。
ともかく、俺たちは冒険者ギルドを出て、宿をとった。二階の太陽がよく当たる部屋だ。
アランは用事があるとかで少し出掛け、レモンはベッドの上で何やらガサゴソとしていた。
俺は暇なので窓を開き、その縁に座って街を眺める。
「……南アジア系の街並みっぽいな」
海外旅行をしたことはないけど、テレビや旅行雑誌を見た限り、それっぽい街並みだった。
街を歩く人々もそれっぽい服装だ。ラクダっぽい生き物と牛を引きつれ、土の道を行き交っている。
目に魔力を込めて視力を強化してよくよく見てみれば、食文化もそれっぽい。先日の砂漠地域のものとは大違いだ。同じ国のはずなのに違う文化圏に入った気分だ。
ついさっきまでは砂漠だったんだけど、ここにはそれなりに緑も溢れているのが文化的違いを感じる大きな要因だろう。
地球の自然環境ではありえなかったような光景に思えてしまう。俺が知らないだけで、砂漠のすぐ近くが緑地で、文化もガラリと変わる場所もあるのかもしれないが。
「セオ様! ちょっと来てください!」
「ん。今行く」
窓枠から飛び降りて、俺はガサゴソとしていたレモンに駆け寄る。
「それでなに?」
「じゃじゃ~~ん!! 見てください!」
「……何それ。狐の耳と尻尾?」
レモンが狐の耳と尻尾を手に持っていた。魔力の反応があるところをみると、アーティファクトか、魔導具のようだ。
「ほら、街に入った時に言ったじゃないですか。セオ様に偽装してもらうって」
「……言われたね。ドワーフの角か狐人族の……え、マジでっ!? いや、俺はドワーフの格好がいいんだけどっ!」
「いいじゃないですか! 私とおそろいですよ! おそろい!」
「いや! 狐耳と尻尾なんて嫌だ!」
「どうしてですかっ! 私の種族がそんなに嫌いなんですか!」
「そうじゃないけど!」
レモンが追いかけてくる。部屋の中を俺は逃げ回る。
「おい、ドタバタとうるさいぞ。何してるんだ?」
香辛料や食料を抱えたアランが戻ってきた。
「アラン、助けて! レモンが俺に狐耳と尻尾をつけようとしてくる!」
「……それがどうかしたのか?」
「いや、だって、俺はアランと同じドワーフの角がいいの! 狐耳と尻尾は恥ずかしい!」
「まるで私たち狐人族が恥ずかしい種族みたいな言い方じゃないですか!」
「い、いや、そういうわけじゃないんだけど」
「じゃあ、どういうわけですか! 去年王都に言ったときは、喜んで猫耳の魔導具を買っていたのに!」
「お、落ち着いてっ」
レモンが拗ねてしまった。「ふんっだ」と言って、部屋の隅でいじけてしまった。
俺はアランを見やる。
「どうにかして」
「……お前さんで頑張れ。俺は珍味の研究を少しする」
「えぇ、勝手な!」
アランは肩を竦めて、部屋を出ていった。宿の女将にでも厨房を貸してもらうのだろう。
俺はため息を吐いて、恐る恐るレモンに近づいた。
「れ、レモン。そ、その少し言い過ぎた。レモンたちの種族が嫌なわけじゃなくて、その――」
「かくほーー!!」
「おわっ!?」
レモンに組み伏せられ、がっちりと手足を縛られた。
「ちょ、何をするのっ!」
「つべこべ文句をいうセオ様の言葉に聞く耳はありません! 私と一緒におそろい旅をしましょうよ!」
「あ、ちょっ!」
レモンに狐耳を頭に押し付けられる。同時に魔力を流されて、なんか新しい感覚が芽生えてしまう。
あ、この耳本物だ。俺の意識に合わせて、なんなら無意識に動くわ。音も聞こえる。狐耳と人間の耳が二つあるわ。
「ねぇ、これってヤバい奴じゃないのっ!? 大丈夫なのっ!?」
「大丈夫なやつですって! さっき神獣の加護を一部抽出して創り上げた特別製のアーティファクトなんです! 人体に悪影響は一切なく、一時的に狐人族になれて固有の
「さらっと凄いもん創んないでくれるっ!?」
そんなに俺に狐耳族なって欲しかったのっ!? 普段面倒くさがりなサボり魔なのに、どうしてこんなことに躍起になってるのっ!? 普段こんなキャラだったっ!? わけわからん!
「さぁ、次は尻尾ですよ! お尻出してください!」
「わ、分かったから! 自分でつけるから、ズボン引っ張らないで!」
「もう、暴れないでくださ――」
ズボンを半分降ろされて、尾てい骨がある辺りに尻尾をくっつけられそうになった。
その時。
「すまぬ! 少しかくまって貰えぬだろう……か……」
「「あ」」
なんか、めっちゃカッコいい褐色イケメンが窓から飛び込んできた。そして俺たちと目が合う。
「……まさかこの私が姦悪な者に助けを求めようとするなど。追われている身であるが、流石に見過ごせぬぞ!」
彼は宝飾の施されたレイピアを抜き去った。レモンに突きつける。
「子供を拐かす者め! 覚悟しろ!」
「あ、ちょっとタンマタンマ!」
「っ!?」
俺はスポッとレモンから狐の尻尾を尾てい骨らへんに付けて、レモンと彼の間に割って入る。
彼は慌ててレイピアを上に跳ねあげ、横へと跳ぶ。
「幼子よ! 私は味方だ! 今、その悪を祓う! だから、どいてくれ!」
「いや、だから違うから! 誤解だって!」
「誤解だと?」
「そうそう。今のはただじゃれていたというか。ね、レモン」
俺はレモンの方を振り返って。
「動かないでください」
「え、レモンっ?」
何故かレモンに持ち上げられて、首に短剣を突きつけられていた。その行為には明確な殺意と悪意があるのがありありと感じ取れた。
俺は驚きのあまり呆然としてしまう。
「え、どういう――」
極めて冷静さを務めながら、レモンに尋ねようとして。
「仙魂波ッ!!」
「カハッ」
「あ、アランっ!」
アランが天井を突き破って現れた。そのままレモンに頭に掌底打ちを決め込む。レモンは床にめり込み、下へと落ちていった。
俺は空中に放り出され、アランにキャッチされた。
「あ、アラン。どういうことっ!? というか、レモンはっ!?」
「大丈夫だ。アイツは魔法で魂を攻撃されていたんだ。さっき妙に興奮していたのはそのせいだな。で、さっき心を乗っ取られた」
「えっ!?」
はぁっ!? あまりの急展開に理解が追い付かない。
「……つててて。すみません、アランさん」
「あ、レモン!」
床に空いた穴からレモンが這い上がってきた。さっきとは全く違って、いつものレモンの雰囲気だ。
「気にするな。俺もさっきまで攻撃されているのに気が付かなかったほどだ。かなりの手練れだ。それよりちょっと派手に暴れすぎた。この街から離れるぞ」
「分かりました。セオ様、ごめんなさい。あとで、この責任はとりますので」
「え、いや、そんなのはいいから。え、大丈夫なの?」
「はい。何とか。アランさん、修繕費はここに置いておきましょう」
「そうだな」
そして俺はレモンに抱きかかえられながら、天井に空いた大きな穴から宿を出ようとして。
「待て待て待て! 一体全体これはどういうことだっ!」
褐色のイケメンに呼び止められた。アランは面倒くさそうに頬をポリポリとかき。
「ああ、そうだな……。まぁ、お前さんはそのまま西を目指すといい。追手に関しては俺が誤射で倒してしまったしな」
「では、失礼します」
「はっ!?」
屋根の上へと出た俺たちは影の狐に飛び乗って、街を出ていった。
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いつも読んで下さりありがとうございます。
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新作の『ドワーフの魔術師』を投稿しています。
ドワーフの魔術師とエルフの戦士がのんびりスローでちょっぴり波乱な旅をする話です。今作と雰囲気が似ていると思いますのでぜひ、読んでください! どうかお願いします!
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