第8話:砂漠とカエル。オタマジャクシを添えて:On the way
俺たちはバラサリア山脈を越え、グラフト王国へと入った。
「これ、密入国にならない?」
「俺もレモンも冒険者ギルドカードをもっているからな。問題ない」
「あ、でも、セオ様はランクが低いのでそれなりにお金を払う必要がありますね」
「そうなの?」
「ええ。ランクが高いと税金やら会員費やら色々免除されるのです。そのぶん、冒険者ギルドの要請に応じる必要がありますけれど」
ふぅん。
「あれ? でも、今回って隠密行動なんだよね? レモンたちの冒険者ギルドカード見せたら不味くない?」
「問題ありません。私の名は殆ど知られていませんし、アラン様も地味なので同様です」
「地味……」
仮にもロイス父さんたちと一緒にエレガント王国の危機を救った英雄なのに……
というか、見た目的には全然地味じゃないんだけどな。巨漢だし、厳ついし。
「それはセオ様だからですよ。アランさんは気配が薄いので、普通の人だと印象に残りにくいのですよ」
「え、アランもなの?」
俺も“隠者”のせいで、影が薄くなっているけど……
「俺は仙気を持っているからな。自然に同化しやすいんだ」
「仙気?」
「まぁ、特殊な魔力とでも思ってくれ」
特殊な魔力。そういえば、前にそんな話を聞いた記憶があるな。解析したんだっけ?
――全く、セオはボケボケちゃんだね。解析は頼まれてないよ。
……“
――およよ、酷い。セオ君が僕を無視しようとする。
してないよ。
っというか、本当に急にどうしてそんな流暢になったの? 前に“
――あ、そうそう。仙気のことだけど、セオ君に頼まれてないけど、解析はしたよ。
露骨に話を逸らしやがった。触れて欲しくない部分なのだろう。
……まぁ、俺に害意を為すわけでもないし、同じ体の中にいる者同士、そう疑っても仕方ないか。
――ありがとうね、セオ君。
どういたしまして。
俺は“
……………………にしても。
「……暑い」
暑いのだ。日差しが強いのだ。
なんせ、ここは。
「砂漠か……」
熱砂の上だから。
グラフト王国の国土の五割は砂漠に覆われている。
バラサリア山脈とアダド森林に住まう魔物や幻獣たち、地形や龍脈等々が複雑に影響し合った結果、雨が降らなくなり、砂漠となったらしい。
それもあって、グラフト王国とは昔からいざこざが多かったりもするのだ。
最近になってオリバー国王とカティア王妃の尽力もあって友好的な関係となっている。
ともかく、暑いのだ。
肌を焼くほどにジリジリと照り付ける太陽。それを遮るためにフード付きのローブを羽織っているせいで、熱気が籠り、酷く汗ばむ。汗はすぐに蒸発し、服の中に籠って蒸し暑くなる。
一応、服には温度調節の魔法が施されていたりするが、それでも地獄!
俺は影狐にぐでーっと寄りかかり、溶けていた。
「うぅ……暑い、暑い! もういい! 雨よ降れ!!」
「あ、セオ!」
「セオ様っ!」
ゆで上がった思考。自制は全て彼方へ。
魔力の操作やら魔術の行使自体は俺が行い、“
――お任せあれ!
俺は“
風を操る。上へ上へ風を巻き起こし、そこに水魔術で創り出した水分を混ぜこみ、強い上昇気流を創り出す。
同時に、空高いところを流れる冷たい空気を下へと落とし、空気の循環を作る。
そして最後に、創り出した上昇気流に氷魔術で熱を奪えばっ!
「ああ、雨よ! 雨よ! 恵みの雨よ! ひゃっはーー!! 冷たい! いや、冷たい!!」
ザーザーと雨が降りだす。俺はフードを脱ぎ去り、めいっぱいに雨を浴びる。
テンションが高いせいか、大量の魔力を使った疲労感すらも気持ちよく感じ、自然と大きな笑いが込み上げる。走り回る。
「「「ワンワンワン」」」
影狐たちも嬉しそうに飛び跳ねていた。
「……まったく、セオ様は」
「あとで説教だぞ」
「でも、気持ちいでしょ。砂漠で雨を浴びるっていう背徳感が最高!」
「……まぁな」
「……否定はしません」
レモンたちも呆れながら、少し嬉しそうに頬を緩めていた。
Φ
「……寒い」
「そりゃあ、あれだけずぶ濡れになりましたから当り前ですよ」
くちゅんっと俺のくしゃみが満天の星空の下に響いた。
夜の砂漠は寒かった。
寒暖差が激しすぎる。
「っというか、屋根付けない?」
「危ないので駄目です」
天を見上げれば、数えきれないほど輝く星々に真ん丸のお月様。とても綺麗に見える。
空気中の水分が少ないから光の散乱の影響が小さくなり、見えやすくなっているのだろう。……たぶん。勝手な想像だけど。
ともかく、星空が見えているのだ。つまり、天井がない。魔術で砂を固めて作った壁で風は遮っているが、乾燥した冷たい外気は遮れないのだ。一応、結界で温度調節はしているが、限界がある。
鳥肌が立つほどには寒い。
「危ないって何が?」
「魔物ですよ。夜になると飛行型の魔物が地中からでてきて、獲物を探し始めるのです。だから、すぐに迎撃できるよう上は開けとかないといけないのです」
「地中の中にいるなら、普通地中から襲ってくるでしょ」
どういう生態だよ、ツッコミたくなる。
「何言っているのですか、セオ様? 昼間に地上にいたら、まして空を飛んでいたらあまりの暑さにやられてしまうじゃないですか。だから比較的温度の低い地中に潜っているのですよ。他の魔物もほとんどそうですね。砂漠は夜行性の巣窟です」
「……確かにそうだね。昼間と違って沢山の魔物がいる」
俺は分身体から送られている視界情報や“魔力感知”の反応を確認して、夜行性が多いことを理解した。
「いいものが獲れたぞ!」
しばらくして、アランが俺の分身体と影狐と共に帰ってきた。夕食を狩りにいっていたのだ。
昨夜の巨大猪があるのに、アランが砂漠ならではの食材があると狩りにいったのだ。俺も分身体で同行した。
レモンはアランに呆れていたが、肩を竦めるだけだった。
「……何度も聞くけどそれ、本当に美味しいの?」
「当たり前だろう」
アランが担いでいるのはカエルだった。一メートルほどあるカエルだ。唐揚げにするらしい。
いや、カエルの唐揚げは聞いたことあるよ。淡白で美味しいって話も。
でも、それ、どうみても毒カエルじゃん。赤錆色に黒の縞模様が入っている体色じゃん。絶対に警戒色だって。
「確かに毒ガエルだが、毒腺を除けば食える。あ、皮膚の三センチ下までは毒が溜まっているから食えないぞ」
「食いたくない」
レモンをチラリと見やる。尻尾がフリフリと上機嫌に揺れていた。
「レモン。カエル、好きなの?」
「幼い頃によく獲って食べてましたので。栄養が豊富なのですよ。美味しいですよ」
「そう」
……まぁ、レモンが文句を言っていないなら大丈夫か。というか、アランは
で、カエルの唐揚げを食った。美味しかった。寒空の下でアツアツのカエルの唐揚げを頬張るのが、何より気分が高揚した。
満足した俺はカエルの唐揚げもいいなと思って寝た。
翌日。
「うげー」
砂漠に足を踏み入れて初めて見たオアシス。
そこには黒い生き物が水底が見えないほど埋め尽くしていた。三十センチほどのオタマジャクシだ。集合恐怖症を発症しそうな光景だ。
オアシスの街の代表が頭をさげてくる。
「冒険者の方ですか! 助かりました! オタマジャクシが異常発生して困っていたんです! 間引きしようにも親ガエルが邪魔してきまして! 討伐してください!」
「おう、分かった。レモン、セオ。やるぞ!」
「はい」
「……えぇ」
アランとレモンはやる気だった。俺は暑いし嫌だった。
「セオ様。今回の旅では私たちの指示に従ってもらう約束では?」
「……分かったよ」
魔術陣を隠しながら氷魔術でオアシスを凍らせて、オタマジャクシたちを氷漬けにして倒した。カエルはアランたちが倒していた。
その日の晩、街ではパーティーが開かれた。
「坊主、お前ちっこくてぬぼっとしてるのに凄い第魔法使いだな!! 将来は賢者様、いやだい賢者様だな! さぁさぁ、皆の衆! 未来の大賢者様に一番の料理を持ってこい!」
「あ、アハハハ……」
カエルとオタマジャクシを食材とした料理がズラリと並び、大人たちにグイグイと勧められる。
子供たちと話ができて嬉しかったけど。
「……やっぱカエルはいいや」
あまりのカエルとオタマジャクシ料理に辟易してしまった。
食用のカエルを育てるのはやめにしよう。
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新作の『ドワーフの魔術師』を投稿しています。
ドワーフの魔術師とエルフの戦士がのんびりスローでちょっぴり波乱な旅をする話です。今作と雰囲気が似ていると思いますのでぜひ、読んでください! どうかお願いします!
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