第14話:ブラウの一日。前篇:gift of magic
マキーナルト家の次女、ブラウローゼ・マキーナルト。
青みがかった薄緑色の髪に、少しだけ灰色がかった蒼い瞳を持つ、マキーナルト家の天使だ。
齢は一歳と半年ほどで、三十分程度であれば歩き続けることができるほど、体の強い子でもある。
朝。
ガタガタドタドタバタンバタン、と家が起き始める音を聞いて、目を覚ましたブラウは背の低い子供用のベッドから降りて床に立つ。
「あ~う」と言いながら扉を叩けば、モフモフのお姉さんが扉を開けてくれる。
「おはようございます、ブラウ様」
「はよう、れもん!」
ニコっと笑って、お日様みたいにふかふかな尻尾に抱きつく。うっすら頬を緩めて、尻尾にスリスリした。
「んば! おこいてうる!」
「はい、よろしくお願いしますね」
バッとレモンの尻尾から顔を離したブラウは、ふすんと鼻息を荒くしながら敬礼をする。
レモンもにこやかに微笑んで敬礼をした。
「あうおぅ! あうおぉ! わたいはえんき! あうくのたいすき! とんとんいおう!」
お気に入りの歌を歌いながら、よたよたと廊下を歩く。
廊下の端には梯子のような階段があった。
「んしょ! よんしょ!」
ブラウはその階段を這い上がり、魔法でドアを開ける。
「アルル!」
「リュネ!」
「ケン!」
部屋に入ると、アル、リュネ、ケンがブラウに頭の葉っぱを振って挨拶する。
「はよう! あう! るね! けん!」
ブラウは元気いっぱいに挨拶を返す。
そしてある一点を見定めると、きゅっと口元を結んでダダダダダダと走り出して。
「せお! お~~き!!」
「ぐふっ」
身体強化の魔法を併用して、高くジャンプ。ベッドでぬくぬくと寝ていたセオに向かってダイブした。
「せお! あさ! あさ! お~~き!」
セオの腹の上に乗ったブラウはペチペチと顔を叩く。
「お、起きるから、降りて。重い」
「むぅ! おもない! ぶらう、おもない!」
「ああ、ごめんごめん。重くないよね」
女の子に重いは禁句である。
「あう!」
「はいはい。最近もっと重く――」
「おもない!」
「こほん。大きくなったから大変なんだけどね」
眠たそうに目をこすったセオに肩車されたブラウはキャッキャと笑う。天井に張り巡らされた枝葉に手を伸ばす。
「そういえば、冬になったのに枯れてなかったんだよね……広葉樹のはずなんだけどなぁ」
セオが何かぼやいているが、ブラウには知ったこっちゃない。
天井に張り巡らされた枝葉をピョンピョンと飛び移るアルたちと一緒にキャッキャと笑い合う。
「ブラウ、下に降りるよ」
「あい!」
ドアを開けたセオは浮遊の魔法を併用して、梯子の様な階段を使わずにピョンっと床に飛び降りる。
〝念動〟で扉をしめて、食堂へと向かう。
ブラウは窓から朝陽が煌めく晴れ渡った外を指さす。
「せお! きょうはれ! やくおく! こうえんいう!」
「あ~はいはい。そうだね。みんなにあいにいこうね」
今日はラート町にある公園に行く約束をしていたのだ。
マキーナルト子爵や町の議会の承認を得た保母や保父がついていれば、五歳以下の子供でも外を出歩くことが可能となっている。
最近は積もっていた雪の殆どが解けた事もあり、ブラウはよく町の公園に連れてってもらっているのだ。
一階に降りて食堂に入れば、レモンやマリーなどが配膳をしていた。ユリシアやラインもその手伝いをしている。
「はよう!」
「今日も元気いっぱいね、ブラウ!」
「おはよう、ブラウ」
「今日もセオを起こしてくれてありがとうございます、ブラウ様」
ユリシア、ライン、レモンがブラウに微笑む。
マリーは「おはようございます、ブラウ様」と頭をさげた後、目元の皺をさらに深めてセオを睨む。
「いいですか、セオ様。いい加減、自分で起きてください。妹様に――」
「ああああああああ、聞こえない」
ユリシアが耳を塞ぐセオの肩に乗っていたブラウを回収する。
「アホは放っておきましょう、ね?」
「う?」
ユリシアに抱きかかえられたラインが持つバケットが入った籠に手を伸ばすブラウ。
「あう! きょうおそぶらうもやう! はんはこう!」
「ごめんね、まだブラウには早いかな」
流石に危ないのでラインは苦笑して、籠をブラウから離す。
「いいじゃない! 私が見ているし、一緒に運べばいいのよ」
「う~ん。まぁ、それでいいかな」
ユリシアはラインに近づく。
「ブラウ。ラインと一緒に運びましょう。手を伸ばして」
「う」
ブラウはラインが手に持った籠に両手で触れる。
「あっち~! はこう!」
ユリシアとラインは目を合わせて頷きあう。ブラウの気分に合わせて動き、ブラウがまるで自分で運んだかのように籠を動かす。
そしてテーブルに置いた。
「う!! たた!」
キラキラと興奮した様子でユリシアとラインを見た。
二人は優しくブラウの頭を撫でた。
「おはよう」
アテナが食堂に入ってきた。
「せおは……まぁ、いつも通りね。あら、ユリシアに、ライン。ブラウ、どうしたの?」
「おはよう」と言いながら、興奮しているブラウや優しく微笑むユリシアたちに歩み寄るアテナ。
しかし、次の瞬間。
「ふん! あっちいって! やー!」
「くっ」
プクーと頬を膨らませたブラウにそっぽを向かれた。アテナが崩れ落ちる。
先の魔法雪合戦から一週間。アテナに
とはいえ、それが長続きするわけではなく。
「本当にごめんなさい。おはよう、ブラウ」
「……むぅ」
アテナが頭を撫でれば、ブラウはすぐに陥落する。ユリシアの手からアテナの手に自分から移り、ぎゅっと抱きしめる。
不服そうだけど、甘えたい気持ちが顔に現れていた。
「ここ最近はずっとこうよね」
「母さんがいつも以上に甘やかすから、ワザとやーしてるんだよ」
ユリシアとラインが肩を竦めた。
「ですから、セオ様! 作法の勉強も――」
「はいはい! 分かってますって!」
「はいは一回だけです!」
「はい! 分かっています!」
マリーのセオへの説教も終わり。
「アルたちの食事で最後だな」
「はい」
厨房にいたアランとユナが最後の配膳を運んできて、またアルたちやユキ、ミズチも自分たちの席についた。
「じゃあ、食事にしようか」
朝の仕事を終えたロイスがバトラと共に食堂に入ってきたので、食事となった。
皆が一斉に席について。
「いたたいあす!」
『いただきます』
「アルル」
「リュネ」
「ケン」
「シュー」
「ヌヌヌ」
ブラウの号令につづいて、食事の挨拶をした。
いっぱいの美味しそうな匂い。
眠たそうなセオは頬にジャムをつけていて面白いし、
あ、少し顔をしかめた。
『いやりんぐ』は魅力的な言葉な気がする。後で聞きたい!
また、
朝は目まぐるしい。
そして。
「おちおうさま!」
『ごちそうさまでした』
「アルル」
「リュネ」
「ケン」
「シュー」
「ヌヌヌ」
ブラウの号令のもと、食事を終えた。
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いつも読んで下さりありがとうございます。
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また、新作『ドワーフの魔術師』を投稿しています。
ドワーフの魔術師がエルフと一緒に世界を旅するお話です。ぜひ、読んでいってください。よろしくお願いします。
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