第13話:三時間くらい泣き止みませんでした:gift of magic

「作戦と準備時間は一分ね」


 アテナ母さんは空中に砂時計を放り投げた。砂時計は地面に落ちることなく、フワフワと空中に浮いた。


 俺もレモンとブラウと共に作戦会議を行う。


「まずはユリシア姉さん狙いだよね」

「アテナ様の相手はセオ様がお願いします。私はブラウ様に魔法を教えながら、ライン様を狙います」

「向こうもそれを対策するから上手くいかないだろうけど、分かったよ。ブラウもそれでいい?」

「う?」


 ブラウはコテンと首を傾げる。


 そういえば、雪合戦自体を理解していない可能性があるのか。


「ブラウ見ててね」


 俺は魔術で足元の雪を持ち上げて雪玉を十個作る。それを〝念動〟を応用してレモンに向かって射出した。


「何するんですかっ!?」


 レモンは慌てて障壁を張って、雪玉を防ぐ。


 抗議するレモンに肩を竦めながら、俺はブラウを見た。


「こうやって、あそこの三人を攻撃するの」

「まほうえ?」

「そう、魔法で。雪をビューンと投げつけるんだよ」

「びゅーん!!」


 ブラウは楽しそうに笑いました。


「セオ様! あと十秒で時間です!」

「分かった。じゃあ、ブラウ。沢山攻撃しようね」

「ん!」


 そして宙に浮いた砂時計の砂が全て下に落ちた瞬間。


「じゃあ、始めるわよ」

「先手必勝!」


 俺はユリシア姉さんに向かって沢山の雪玉を魔法で投げつける。しかし、アテナ母さんが魔法で一瞬で沢山の雪玉を作って放ち、俺の雪玉を全て落とした。


 ちっ。やっぱり、互角か。しかも、アテナ母さんはレモンがユリシア姉さんとライン兄さんを攻撃するために放った雪玉を防ぐ余裕すらある。


「あーう! すおい!」


 ブラウがキャッキャと喜び、俺の真似をするように魔力をうねらせて周囲の雪を包む。


 雪玉を二十個ほど作り上げて、アテナ母さんたちに向かって投げつけた。


「甘いわね」

 

 アテナ母さんがフィンガースナップをすれば、目の前の雪が壁となって盛り上がり雪玉を防いだ。


「レモン! ブラウを頼む! これからはかなり動くよ!」

「はい!」

「あうっ」


 レモンはブラウをおんぶし、光の鎖で自分とブラウを縛り付ける。俺は雪を操って、いくつもの壁や障害物を作り上げた。


 アテナ母さんがレモンとブラウに向かって魔法で雪玉を投げつけ、レモンは俺が作り上げた障害物を盾に移動しながら、アテナ母さんに雪玉を投げる。ブラウもだ。


 同時に。


「ハァア!!!」

「魔法使ってよっ!」


 氷かと思うほどガッチガチに固められた雪玉が俺に向かって飛んできた。投げたのはもちろんユリシア姉さん。


 魔法での雪合戦と言われたのに、握力だけでガチガチに雪玉を握り、野球選手も真っ青な威力で投げてきたのだ。


 身体強化魔法を使っているとかいう屁理屈はやめて欲しい。


 そう思いながら魔術で雪を操って壁を作り、雪玉を防ごうとした時。


「使うわよ!」

「うおっ!?」


 雪玉がボンッと燃え上がり、爆散した。ユリシア姉さんの火炎魔法だ。雪が一気に熱されたことにより、白い煙が俺の視界を覆い隠す。


 同時に。


「〝風障〟」


 風魔法で加速して俺の背後に回ったライン兄さんが、雪玉を持った手のひらに風の渦を作り出して、雪玉を射出してきた。


 かなりの速度を持った雪玉だ。


 いい連携だ。


「けど、もっと魔力を消さないと」


 ユリシア姉さんの魔法は読めなかったけど、ライン兄さんの攻撃は事前に読んでいた。


 だから、余裕で反応できる。


 自分の足元の雪を操り、数メートルまで一気に盛り上がらせる。


 そしてライン兄さんが放った雪玉は、俺の足元、つまり数メートル盛り上がった雪の山にぶつかった。


 そのまま俺はフィンガースナップをして、雪の山から十本の雪の手を生やす。その手のひらを、それぞれ五本ずつ、ライン兄さんとユリシア姉さんに向ける。


「防いでみなよ!」

「ッ!?」

「〝風障〟ッ!?」


 雪の手のひらから雪玉を生み出し、射出した。ユリシア姉さんとライン兄さんは慌ててそれをかわすが、まだまだ追撃だ。


「さぁさぁ! 出ておいで! 俺の使い魔たち!」


 もちろん、俺に使い魔はいない。今から、作るだけだ。


 雪の山から飛び降りた俺は、アテナ母さんが放ってきた雪玉を走ってよけながら、周囲の雪に魔力を浸透させる。


 ブラウのように、命ある魔法人形ゴーレムを作る事はできないけど、それに似た物なら創ることができる。


「まずは、狼!」

『『『アオォォォン!!』』』


 雪で形作られた狼が三体、雪の中から現れる。風魔法を応用して遠吠えを再現している。


「次に、鷹!」

『『『キイィーーー!!』』』


 雪で形作られた鷹が三体、雪の中から現れ空を飛び始める。


「最後に熊!」

『ガァアア!!』


 雪で形作られた熊が一帯、雪の中から現れる。


 そして、ユリシア姉さんとライン兄さんを襲いかかる。


「ちょっ、雪合戦でしょっ!? 流石にこれじゃあ趣旨が変わると思うんだけど!」

「大丈夫大丈夫。攻撃手段は雪玉だけだから」


 雪の狼が疾駆し、ライン兄さんに接近。口を開き、そこから雪玉を射出する。


 また、雪の鷹が飛翔し、ユリシア姉さんの上空へと移動。そこから雪玉を沢山に落とす。


 その他にも多種多様な方法で雪玉を射出し、二人を翻弄させる。


 雪の熊はアテナ母さんに向かって走り出した。


「フンッ」


 アテナ母さんが放った一発の雪玉で霧散した。流石にアテナ母さん相手には無理だったか。


 と。


「れもん! ぶらうも! ぶらうもする!!」

「ブラウ様っ!?」


 自分とレモンを括りつけていた光の鎖を魔力で切り裂いたブラウは、背中から雪に落下した。


 レモンが慌てるが、ブラウは痛がる様子もなく立ち上がり、グッと両手を握って万歳をした。


「うばばばーん!!」


 ゴゴゴゴゴッという音と共に、ブラウの背後に雪の大樹が生えた。……『夢だけど夢じゃなかった』みたいな感じだ。


 俺は少し驚くが、アテナ母さんが静観している以上問題ないのだろう。というか、アテナ母さんは凄く楽しそうだ。


「ゆきのえう! いっぱい出て!」


 そして大樹から、エウによく似た美しい女性が沢山現れた。体は雪で創られている。


「あ、アテナ母さんッ!? あれっ!」

「大丈夫よ。魔法人形ゴーレム創造の魔法は封印してある。あれは単にエウを模しただけね。セオと同じよ。たぶん、以前に会ったときにエウを一番強い存在と認識したからこそ、作ったのね」


 綺麗で強い存在が沢山いたら心強いものね、とアテナ母さんはニコニコと微笑んで言う。


 そしてブラウはアテナ母さんの前に立ち、ビシッと指を向ける。


「ちょうぶ!!」

「いいわよ。来なさい」


 アテナ母さんは楽しそうに微笑み、指を振るって沢山の雪玉を自分の背後に生み出した。


「みんな、いっけー!!」


 エウを模した雪の人形が、アテナ母さんに向かって突っ込んでいく。アテナ母さんは雪玉で一人一人を撃ち落とす。


 それでもブラウは愚直にエウを模した雪の人形を次々と生み出し、アテナ母さんに向かって突っ込ませる。


「ブラウ! それじゃあ、駄目よ! 魔法はもっと自由に使いなさい! こういう風に!」


 アテナ母さんは楽しそうに微笑み、フィンガースナップ。すると、まるで沢山の魚が集まって作り上げるベイト・ボールのように、雪玉がアテナ母さんの上空に集まり始める。


 そして、雪玉の集合体が大きな蛇となった。


 それは縦横無尽に空を這い、エウを模した雪の人形たちを喰らいつくしていく。


 もう雪合戦と関係ない気がする。というか、もう、俺たち要らないよね。


「向こうで観戦してましょう。母さん、楽しそうだし」

「ブラウと魔法で遊べて楽しいんだよ」

「セオ様も含めて、アテナ様とは魔法で遊んだりしませんからね」


 レモンがジッと俺たちを見た。俺たちはそっぽを向く。アテナ母さんと魔法合戦なんて、負けるにきまってるのであまりやりたくないのだ。


「うぅぅぅ……エウもいっぱい!! がんば!!」


 次々にエウを模した雪の人形が雪玉の集合体の蛇に食われていく様をみて、ブラウは悲しそうに、悔しそうに顔を歪めた。


 けれど、キッとアテナ母さんを睨み、同じようにエウを模した雪の人形を集め、集合体の鹿を作り上げる。


 そしてエウを模した雪の人形の集合体の鹿は空を駆け、空を這う雪玉の集合体の蛇を蹴り上げようとする。


 雪玉の集合体の蛇はそれを避けるために、雪の地面を切り裂き、その断裂に身をひそめた。


「げーして!」

「あ、ブラウ。汚いわよ! やめなさいって!」


 ブラウはエウを模した雪の人形の集合体の鹿のお腹の中を雪で満たし、雪玉の集合体の蛇が逃げ込んだ断裂に向かって雪を吐いた。雪の滝みたいだが、ゲーしているみたいでちょっと絵面が汚い。


 ともかく、断裂に雪が満たされたことによって、蛇は空中へと這い出るしかなくなり、そこを鹿が強く踏みつぶした。雪玉の集合体の蛇が霧散した。


 ……アテナ母さん、手心を加えたな。


「やった! たおした! たおしたお!」


 ブラウがピョンピョンと喜び、俺たちに手を振ったその時。


「甘いわよ」


 巨大な雪の蛇が地面から現れて、大樹を飲みこんだ。エウを模した雪の人形の集合体の鹿も一緒に飲みこんだ。


 そしてアテナ母さんは呆然としていいるブラウを抱き上げて、手に持った小さな雪玉をブラウに当てた。


「はい、私の勝ち」


 ……手心加えてなかったわ。大人げないわ。ここは娘に花を持たせてあげなよ。ひどすぎる。


 案の定。


「び、びぇええええええええええええ!!!」


 ブラウが大泣きした。






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