第12話:魔法人形と恒人形、どちらもゴーレム。ややこしい:gift of magic

「寒いよぉ」

「どうして外なんかに……」

「朝稽古したじゃん!」


 朝稽古で冷えた体をホットショコガリテと暖炉で温めたというのに、また外に連れ出されてしまった。


 俺とライン兄さんは、ブラウを抱きかかえたアテナ母さんにブーブーと文句を言う。お付きとしてついてきたレモンも口にこそ出さないものの、その尻尾でアテナ母さんに文句を言っていた。


「雪も降ってないのだし、文句を言わない。というか、ラインはまだしもセオ。貴方はもうちょっと外で遊びなさい」

「面倒」


 寒い外で遊ぶなんて、アホがする所業だ。


「セオ、こっち向きなさい!」

「うおっ」


 ユリシア姉さんは雪玉を投げつけてきた。しかもかなりの豪速だ。慌ててかわす。


「何するんだよ!」

「遊んであげてるのよ!」

「要らないって!」


 ユリシア姉さんは楽しそうに俺に雪玉を投げつけてくる。逃げ惑う俺を見て楽しいのだろう。


「こら。雪合戦ならあとでできるから早くついてきなさい」

「あとで?」

「はーい!」


 アテナ母さんの言葉に首を傾げたが、ユリシア姉さんが元気いっぱいに返事をして早足でアテナ母さんたちを追いかけたので、俺も追いかけた。


 そうして屋敷からしばらく歩き、屋敷が建っている丘の麓まで降りてきた。位置は北側だ。


 反対の南側には道があるのだが、こっち側には道がなく、人が通らないために雪が高く積もっていた。俺の膝まで積もっている。


 なので、俺は自分の足元の雪を固め、雪の上に立てるようにする。こうすれば雪に膝が埋もれることはない。


「さて、貴方たちには魔法で雪合戦をしてもらうわ」

「えぇ! なんで急に!」

「どうして!」


 俺とライン兄さんはもちろん文句を言う。ユリシア姉さんは首を傾げた。


「母さん。雪合戦するなら街の公園がいいと思うんだけど。ニートおっさんたちがいるし、こんな少ない人数でやってもつまらないわ」


 そういえば、ほぼ毎日町の森林公園的なところではおっさんと子供たちが雪合戦をしているんだったか。


 一昨年くらいに一度だけ参加したことがある。


 というか、口ぶりからして、ユリシア姉さんはよく街の雪合戦に参加しているのか。


「ユリシア。今回は遊びで雪合戦をするのではないの。魔法でって言ったでしょう?」

「……つまり魔法の訓練ってこと? だけど、それなら朝稽古の時に」

「朝はブラウがお眠でしょ」

「う?」


 魔法の訓練と聞いて少し嫌な顔をしたユリシア姉さんに、アテナ母さんが抱きかかえていたブラウを撫でた。


 ブラウは首を傾げたあと、地面の雪に手を伸ばす。


「た~つ! おいる!」

「そうね。ちょっと待ってなさい」


 アテナ母さんはブラウに魔法をかけ、そして雪の上に降ろす。モコモコフワフワの服を着たブラウは雪に沈むことなく、雪の上に立っていた。


「あれ? 足場を固めてない?」


 ブラウの足元の雪は俺みたいに固くなっていない。なのに雪の上に立てている。


 俺はアテナ母さんが使った魔法を観察した。


「……浮遊魔法の応用ってとこ?」

「浮遊よりも、水上歩行に近いわね」

「ああ、なるほど」


 ブラウにかかった魔法を解析し、魔術として再現して見せる。


「おお。できた」

「ズルい! アタシにもかけて!」

「僕にも!」


 二人にも水上歩行ならぬ、雪上歩行をかける。レモンは自分で雪上歩行をかけていた。


「ジャンプしても沈まないわ!」

「面白い、これ」


 ライン兄さんもだが、特にユリシア姉さんの体重は重いので、氷のように固い雪でない限り沈んでしまう。


 だから、新鮮で面白いのだろう。ユリシア姉さんとライン兄さんは雪の上で何度も飛び跳ねる。


「セオ? アタシが重いって言わなかった?」

「い、言ってない! 一言も言ってない!」

「……まぁ、いいわ」


 ほっ。


 どうして心の中まで読めるのか。というか、重いとは思ったけど、それは俺やライン兄さんと比べての話だし。


 まぁ身長が高くて筋肉がある分、ユリシア姉さんは同年代の女の子と比べても重いのは確か――


「セオ!!」

「痛い痛い痛い痛い! ギブ、ギブっ!」


 ユリシア姉さんにこめかみをぐりぐりされてた。


「もう、貴方たち。何やってるのよ」

「今のはセオ様が悪いと思います」

「僕も」


 アテナ母さんは溜息を吐く。ライン兄さんとレモンは呆れた目で俺を見ていた。


「こほん。話をするわよ。今回は貴方たちの魔法の訓練じゃないの。ブラウの訓練を手伝って欲しいのよ」

「ブラウの?」

「ええ。こないだ、ブラウが雪だるまを操ったのは覚えているでしょう?」

「しろすえ! しろすえ!」


 雪だるまと聞いてブラウがパァッと顔を輝かせ、『しろすけ』の名前を呼び、キャッキャと笑う。


 今現在、そのしろすけはマキーナルト領の中央の広場にいる。俺が保存の魔法をかけているので、未だに解けることはない。


 しろすけはそれなりに高さがあるので迷惑になるかと思ったが、街の人たちは受け入れており、子供たちがよくしろすけ遊んでいる。


「その雪だるま、しろすけには命があるのは話したわよね」


 そう。しろすけには命がある。自分で手足を動かしたりできる。人や精霊のような強い自我はないものの、子供たちと遊べるほどにはそれなりに自我を持っている。


 インコほどの知能があると思われる。


「僕たちが見せた魔法から、魔法人形ゴーレムを創ったんだよね」

「ええ」


 ゴーレムは無機物の生命体を指す。その中で、人や精霊の手で作られたゴーレムを魔法人形ゴーレムと呼び、自然に生まれたゴーレムを恒人形ゴーレムと呼ぶ。

 

 前者は創造者の魔力がなくなると死んでしまい、後者は星の魔力がなくなると死んでしまう。


 そのため、後者の恒人形ゴーレムは星の守護者や大地の守護者などと言われたり、また永遠の象徴して扱われることも多く、幻獣として多くの神話などに出てくる。


 うちにもアテナ母さんが契約している恒人形ゴーレムの一種、森恒人形ゴーレムがおり、トレルとハルレがそれに当たる。


 ……つまり、アテナ母さんは神話の存在と契約していることでもあるのだが。


 そのアテナ母さんは少し怖い顔でいった。

 

「これはかなり危険な事なの。事前に魔法で命令回路を組んだ機械人形ロボットはともかく、魔法人形ゴーレムを創れる存在は限られているわ。それは命を創ると同義だから」


 ブラウはそれをやってのけたのだ。


 ライン兄さんが見せた植物をちょっと成長させる魔法と、ユリシア姉さんが見せた狼や鹿のかたちをした炎を見せる魔法、あとぬいぐるみを操る魔法を見て。


 いや、正確に言うと、俺とレモンが使った雪を操る魔法や、稽古の時に怪我して使う回復魔法など。


 ともかくブラウはいくつかの魔法をもとに、魔法人形ゴーレムを創る魔法を編み出してしまったのだ。


 特にライン兄さんの植物を成長させる魔法は生命に関する魔法の根幹に少し触れており、魔法人形ゴーレム創造の起点となってしまったらしい。


「それにブラウは魔法創造に関する能力スキルを得たわ。その能力スキルを使いこなせば、原理などを気にすることなく、想ったままに魔法を創れてしまうのよ」

「……うん。かなりマズイやつだ」

「だね」

「そうかしら?」


 ユリシア姉さんだけは首を傾げていたが、俺とライン兄さんは事の重大さにちょっと深刻になる。


「だから、まだ幼いけどブラウには魔法の制御訓練が必要なのよ」

「それと雪合戦はどういう繋がりなの? 魔法制御自体なら、稽古の時にしている魔法の練習でいいじゃん。なんなら家の中でできるし。わざわざ雪合戦する意味が分からない」

「はぁ、セオ。まだまだブラウの事が分かっていないわね」


 やれやれと肩を竦めるアテナ母さんに少しイラッとする。


「稽古の魔法の練習なんてつまらないに決まってるでしょ? 好きでもない魔法を使う訓練なんて何が楽しいのよ」

「っ! 母さん! なんでそのつまらない魔法の練習を私にさせてるの!? 私も好きな魔法だけ使いたいわ!」

「ブラウは今年で二歳、貴方は十二歳なのに、同じなわけないでしょう! 大体、収穫祭の時に大やけどしたことを忘れたのかしらっ? 魔法を戦いで使うなら、好きでもない魔法でもキチンと制御方法を学びなさい。あと魔法は全て素晴らしいものよ。全部好きになりなさい」

「……最後のはちょっとわからないけど、……はい」


 ユリシア姉さんは顔の火傷の痕に触れ、少し項垂れた。


「ともかく、ブラウは雪が好きなのよ」

「それで魔法を使った雪合戦?」

「ええ。体を動かすことにもなるし、いいかなと思ったの」


 ということで、俺とブラウとレモンチーム、アテナ母さんとライン兄さんとユリシア姉さんのチームに別れて雪合戦することとなった。




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