第2話:やらかす前に逃げられたのか?:末妹の冬
翌日。
「……洗濯物が絶対に乾きませんね。これ」
「でしょうね」
昨日作った巨大雪だるまは屋敷に大きな影を作っていた。
洗濯物を干す手伝いをしにきたのだが、洗濯物カゴをもったレモンが困っていた。
「仕方ありませんし、北側に移動させますか」
「移動できるの?」
「できますよ。……ユキ」
「ヌ」
レモンの狐尻尾の中に潜っていたユキが顔を出す。
「ユキ。この雪だるまを形を崩さないまま持ち上げてください」
「ヌ~ヌ」
ユキは鷹揚に頷き、トテトテとレモンの体を這い上がり、頭の上に立つ。
……立つだよな、ユキ。亀なのに二足で立つことができるんだよな。よくわからん。
「ヌッヌ~~!!」
ユキは両腕を下から上へと持ち上げるポーズをとる。すると、巨大雪だるまがフワフワと浮き上がる。
「おお、凄い。流石冬雪亀の子供」
魔力で全体を包み込み持ち上げる〝念動〟とは違う。巨大雪だるまを構成する雪一つ一つに干渉し、持ち上げているのだ。
結果だけ見れば同じことかもしれないが、後者の方がやっていることが高度だ。ミクロに干渉し、マクロを動かす事だ。
「はい、ユキ。その調子ですよ」
「ヌッヌ」
レモンは「オーライ、オーライ」とバックしながら、誘導を行う。屋敷の周りは広いが、ところどころにアテナ母さんやアランの家庭菜園があったり、花壇があったり、異空薬草園に繋がる扉があったり、障害物が点在している。
それを避けながら、巨大雪だるまを移動させる。
「ここで一旦、休憩しましょうか」
「ヌ~」
ユキがゆっくりと巨大雪だるまを降ろした。
「ところでレモン。雪とか積もってるのに、洗濯物って外で乾くの? この寒さだし凍ったりしない? っというか、去年まで屋敷内で干してなかった?」
今の俺の格好はだるまだ。いくつも服を着こんでいる。そうしなければ凍えて死にそうである。
「あれ? セオ様、知らないんですか?」
「何を?」
「これですよ、これ」
レモンがポケットから小さな球体を取り出した。あ、〝陽光球〟じゃん。活性化してないので、光は出てないけど。
「これを洗濯物の近くに浮かせるんですよ」
「ああ、それなら乾くかも?」
〝陽光球〟から出る光って太陽の光だし。たぶん、乾くのだろう。
「でも、それでは巨大雪だるまが溶けてしまうでしょう? だから、移動させているんです」
「なるほどね」
レモンが洗濯物が乾かないと言っていたのは、〝陽光球〟を使うと巨大雪だるまが溶けてしまうから、使えないって意味だったのか。
普通に巨大雪だるまの影のせいで乾かせないって意味だと思ってた。
「ところでセオ様。どうして急に洗濯物を干す手伝いをしにきたのですか?」
「あ~」
俺は目を泳がせる。
「もしかして、何かやらかしましたか? 後始末をするの私なんですけど」
面倒くさいと言わんばかりの目を俺に向けてくる。仕事が増えるから嫌なのだろう。仕事はするが、基本、怠けたがりなのがレモンだ。サボる努力を忘れない娘なのだ。
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ。うん……」
「じゃあ、どういうわけなんですか?」
「……やらかす前に逃げてきたっていうか」
「は?」
俺はユキの頭を撫でながら、意味が分からないと首を傾げてるレモンを見上げる。
「ほら、昨日、アテナ母さんとロイス父さんが喧嘩してたじゃん」
「ええ」
「魔法や
「そうですね」
「それで、ブラウが魔法を使っちゃったんだよ」
「え?」
レモンの目が点になる。
「ブラウって、魔法の才能アリアリじゃん? “魔力感知”に優れていて前に俺の身体強化を真似しようとしたじゃん?」
「……それで真似してしまったと」
「まぁ、そんな感じ? それでライン兄さんとユリシア姉さんが面白がってブラウに魔法を見せてるんだよ。もちろん危なくないやつ」
「……どちらの魔法を真似っこしてもらえるか遊んでいるわけですか」
レモンは溜息を吐く。
「別にそれ自体は悪くない事ですが……嫌な予感がしますね」
「でしょ? なんか、直感的にこのままあそこにいるとアテナ母さんに怒られると思って逃げてきたんだ」
「……その直感はアテナ様に何十回も怒られたから培われたのでしょうね。ご兄弟の中で一番やらかしてますし」
「そんなやらかしてないって」
「本当ですか? つい先日もエアコンとやらを作っている最中に地下室を半壊させたじゃないですか」
「……修復の魔法が地下室にはかかってるからいいんだよ」
単純に火魔法で部屋の空気を暖かくするより、暖房みたいなのを作った方がいいんじゃない? と思って曖昧な記憶を頼りに冷房も暖房も出来るエアコンを作っていたのだが、低温部の配置をミスったのか魔導具の配線が悪かったのか、変に膨張した空気が行き場を失い周りを吹き飛ばしてしまったのだ。
熱力学はさっぱりなんだ。
とはいえ、失敗したまま終わるのも癪に触るので、あとで色々と思い出しながら実験でもして経験則を積み重ねていき、再来週までには作り終えようかと思っている。
今は分身体にその実験をしてもらっている最中だ。分身体様様である。
「ともかく、ブラウに危険はなさそうだったけど、僕たちが怒られる未来が見えたので逃げてきた」
俺は肩を竦めた。一応、二人にもこのままだとアテナ母さんに怒られるかもよ、とは言ったのだが、その怒られる理由は俺でもさっぱり分かっていないので、二人とも大丈夫だよ~と笑ってブラウに魔法を見せていた。
「レモン的にはどうして怒られると思う?」
「……分かりませんね。以前の身体強化の場合はブラウ様の肉体成長に影響がありそうだったので、アテナ様が注意していましたが、今回は違うのでしょう?」
「うん。二人とも遊びに使う変な魔法しかみせてないよ。だから、二人とも俺の考えすぎだって笑ってたし」
俺とレモンは首を傾げる。アテナ母さんが怒るだろうという直感はなんとなくあるのだが、その理由がさっぱりだからな。
まぁ、考えても仕方ない。
「まぁ、あとでお二人が怒られれば分かりますし、今は巨大雪だるまを運んでしまいましょう」
「そうだね。あ、ユキ、俺も手伝うよ」
「ヌヌ~」
さっき、ユキがどうやって巨大雪だるまの雪に干渉しているか解析したからな。それを模した魔術を今さっき作ったので、試したいのだ。
っということで、ユキの魔法と同調させながら俺も魔術陣を空中に作って魔術を発動させ、巨大雪だるまを運ぶ。
「ユキ、こんな感じで合ってる?」
「ヌンヌ~!」
「なるほどね。じゃあ、あと十個くらい魔術陣を浮かべるか」
ユキに精密操作が足りていないと言われたので、精度をあげるために魔術陣を十個増やす。
レモンが呆れた表情をする。
「……よくまぁ、ここまで複雑な演算処理をできますね」
「いや、そこまで難しくないよ? 事前に組んだ術式に沿ってユキの魔法を逐次
回路設計に似ている。そう、難しくないのだ。
「レモンだってできるでしょ?」
「魔法を見ただけですぐに魔術を作ったり使えたりはしませんよ。というか、訳も分からない呪文を並べないでください」
「いや、分かるでしょ」
「理解するのが面倒です」
あら、そう。
俺は肩を竦め、巨大雪だるまを運ぶ。
先ほどはユキ一人だったため、早く動かすことはできなかったが、俺が加わったのですぐに移動を終えられた。
屋敷の玄関近くに巨大雪だるまを降ろす。
「ユキ、セオ様。ありがとうございます」
「どういたしまして」
「ヌヌヌ~」
俺たちは洗濯物を干すため、屋敷の裏に戻ろうとした。
その時、玄関が開く。
「あ、セオ」
「レモンもいるじゃない」
「せお! れも!」
防寒着を着たライン兄さんとユリシア姉さん、ブラウだった。
「どうしたの? 魔法勝負は止めたの?」
「ブラウが外で遊びたい感じだったから」
「ふぅん」
ユリシア姉さんが巨大雪だるまを見やる。
「それより、これどうしたのよ。裏庭に置いてなかったかしら、これ」
「洗濯物を干すためこっちに一時的に移動させたんだよ」
「あら、そうなの」
と、ブラウがトテトテと巨大雪だるまの方へと歩き出す。そして巨大雪だるまの前に立つと、何度もバンザイし、踊りだす。
「め~た! め~た! うったった! おうぃ! っつえろあった!」
歌を謳っているのか、リズムに合わせて口を開き、踊るブラウ。
俺はライン兄さんとユリシア姉さんの方を見やる。二人は首を横に振った。レモンの方を見やる。レモンも首を横に振った。
うん、誰も教えていないらしい。というと、ブラウ独自の言語と歌か。
と、
「うてて、うば!」
「あ」
突然、ブラウから魔力が湧きあがったかと思うと、巨大雪だるまを包み込んだ。
そして、
「てて、あち! う~ばん!!」
『ゴォォォォォ!!』
巨大雪だるまに雪の手足が生え、立ち上がった。
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