第3話:赤ん坊って危ないことを結構楽しむから:末妹の冬

「あ~う! きゃっきゃ! しろすえ、ばんざ~!」

『ゴォォオ』

「「「「……」」」」


 突然手足が生えた巨大雪だるまは、ブラウの指示で万歳をした。だけど、俺たちはそれどころではない。突然のことに唖然としてしまう。


 そうこうしている間にも、ブラウは巨大雪だるまに手を伸ばす。


「しろすえ! うぃ!」

『ゴォウ』

「う~たかいたかい!」


 巨大雪だるまがブラウを持ち上げ、頭に乗せてしまった。


 ようやく我に返る。


「あ、ちょ、ブラウ! 降りてきて!」

「あぶないですよ!!」


 俺とレモンは慌てて屋敷ほどの高さがある巨大雪だるまの上に座ったブラウに声を掛けるが、興奮しているブラウには俺たちの声が届かないらしい。


「ちゅっぱつ!! めたつはらーと!」

『ゴゥォォォォォ!』


 ドスンドスンと巨大雪だるまがラート街の方へと歩き出してしまう。しかも、こっこは丘でラート街まではそれなりの勾配があるのだ。


「う~~きゃっきゃっきゃ!! はやい、つおい!!」


 巨大雪だるまはバランスを崩し、丘をコロコロと転がりだしたのだ。ただ転がっているのは胴体部分の雪の玉だけで、頭部分の雪の玉は何故か回転していない。


 たぶん、ブラウが魔法で操作しているのだろう。


 ともかく、マジでヤバイ!


「レモン! 雪だるまからブラウを引き離せるっ!?」

「無理ですっ! セオ様も分かっての通り、あれ、ブラウ様にちょっとでも影響を与えると、制御を乱して頭の部分まで回転してしまいます! ブラウ様に危険が及びます! そうでなくとも、あんな繊細な魔法。普通に暴発しますよ!」


 転がる巨大雪だるまを追いかけて、走り出す。ライン兄さんが俺に叫ぶ!


「じゃあ、セオがブラウの魔法の制御権を奪えばっ!!」

「なんかブラウの魔力量が急に跳ね上がったせいで触れないと無理! っというか、あれの魔法の原理がまだ理解できてない! ともかくまずは雪だるまが転がるのを止めないと! けど、丁寧に止めないとブラウに――」

「ああ、もう、面倒くさいわね!」

「あ、ユリシア姉さんっ!」


 丘を滑るように一気に加速したユリシア姉さんは、すぐに巨大雪だるまを追い越し、その前を滑る。


「ブラウに当てないように衝撃波で木っ端みじんにすれば、全て解決よ! ハァァァーー!!」


 ユリシア姉さんは反転し、大きく拳を引いて迫る来る巨大雪だるまに向かって拳を放とうとした。


「だ、駄目だって! 雪だるま壊したらブラウが悲しむじゃん!」

「ッ!」


 ユリシア姉さんは慌てて拳をひっこめ、転がってくる巨大雪だるまを躱すために横にとんだ。


「じゃあ、どうしろっていうのよ、セオ!! このままじゃ、街の城壁にぶつかっちゃうじゃない!」


 ユリシア姉さんの叫びに、俺はレモンを見た。


「レモン! 一瞬でいいから、ブラウに危害が及ばないように雪だるまを止められるっ!?」

「三秒ほどならっ!」

「余裕あるじゃん! ともかく、合図したらお願い! それとユリシア姉さんとライン兄さんは同時に雪だるまに向かって俺を投げて!」

「分かったわっ!」

「えっ!?」


 躊躇いなくうなずくユリシア姉さんと戸惑うライン兄さん。


 ごめんよ、ライン兄さん。話している暇はない。頑張って。


「今!」


 俺がそう叫んだ瞬間、


「ハァァッ!」

 

 いつの間にか、仮面を頭に斜めにつけたレモンが九本の狐の尾を生やし、一瞬で駆けた。


 そして転がる雪だるまの前で立ち止まり片手をかざすと、雪だるまや舞い上がった雪など、周囲全ての物体の動きが止まる。


 同時にユリシア姉さんが俺を担ぎあげる。


「ライン、風魔法で補助しなさい!」

「え、ああ、もう! 分かったよ!」

「行くわよ、セオ!」

「お願い!」


 身体強化したユリシア姉さんは大きく俺を振りかぶり、投げる。同時にライン兄さんによる風魔法で、俺は加速した。


 その間に、俺はブラウが今使っている魔法の解析を行う。


 どうもシームレスに魔法の行使が行われているせいで、解析が難しいのだ。けど、雪だるまに触れる直前で魔法の原理が理解できた。


 ………………アテナ母さんに相談案件だ、これ。


 思った以上にヤバい魔法をブラウが使っていた事が分かり、心の中でめっちゃ冷や汗をながしながら、俺は雪だるまに触れると同時に無数の魔術陣を浮かべる。


 そして。


「レモン、もう大丈夫だよ」

「……ふぅ」


 俺は巨大雪だるまの制御権を奪った。


「うぃ? しろすえ? しろすえ? てて! あち! う~ぱん!!」


 ブラウは動こうとしない巨大雪だるまに何度も魔力を与えて命令を出すが、俺が制御権を奪っているためやっぱり巨大雪だるまは動かない。


 そして巨大雪だるまが動かないことにしびれをきらしたのか、


「しろすえ、う~て! う~て! う~て、うて、う……て……うぅぅぅぅわぁああああ~~ん!!!!」


 それはもう、大きな声で泣き始めてしまった。レモンが素早く巨大雪だるまの上に昇り、泣きじゃくるブラウを抱きかかえた。


「泣いちゃいましたね」

「まぁ、玩具を取り上げられたようなものだからね。ごめんね、ブラウ」

「うぅぅぅぅ!!」


 手足をバタバタさせ、暴れながら泣くブラウ。俺とレモンはブラウをあやしながら困ったように眉を八の字にした。


 ユリシア姉さんとライン兄さんもブラウをあやすが、泣き止まない。


「セオ、どうしよう。泣き止まないわ」


 ブラウを泣き止まそうと変顔していたユリシア姉さんが困った顔をする。ライン兄さんが言う


「たぶん、泣き止まないよ、これ。疲れて寝るまで待たないと駄目かな。ブラウは結構頑固だし」

「そうですね。屋敷に戻りましょうか」

「あ、ちょっと待って。俺はこれを街に置いてくるから、三人は先に戻ってて」


 俺は巨大雪だるまの頭の上に乗る。


「街に置くってどういうつもりですか?」

「いや、壊したらブラウが悲しむけど、流石に屋敷の前にはおいておけないじゃん。ブラウがまた魔法を発動させちゃうかもしれないし。だから、ソフィアたちとかに頼んで街に置かせてもらう」

「なるほど、分かりました。では、先に戻っています」


 泣きじゃくるブラウを抱え、レモンたちは屋敷へと戻る。俺はそれを見届け、巨大雪だるま、ブラウが言うには『しろすえ』……いや、たぶん『しろすけ』を街へと移動させたのだった。



 Φ



「ただま~~……ってどうしたの、二人とも」


 街の人たちに事情を話して、中央広場に『しろすけ』を置かせて貰ったため、俺は屋敷へと帰った。


 ユリシア姉さんとライン兄さんが正座させられていた。二人は涙目で俺を見る。


「か、母さんが……」

「反省しろって……」


 なるほど、アテナ母さんに怒られたわけね。


「で、そのアテナ母さんは?」

「いま、ブラウに封印とかを施してるって」

「ああ、なるほどね」


 二人に頑張れ~と言い、俺は二階へとあがる。


「アテナ母さん、いる?」

「あ、セオ。おかえりなさい」

「ただいま」


 ブラウの部屋に、アテナ母さんはいた。少し疲れた様子でもあった。


「どう? ブラウの様子は」

「さっきようやく眠ったところよ。今は、魔力の一部を封印しているところ」

「まぁ、魔力制御があやふやな内にあの魔力量はね……」


 俺は先ほどのブラウの魔力量を思い出す。俺やアテナ母さんには匹敵しないものの、ブラウの魔力量はライン兄さんたちを大幅に上回っていた。


 雪だるまを操りだす前までは、ライン兄さんたちの十分の一にも満たない魔力量だったのにも関わらず。


「で、何で魔力量があんな一気に跳ね上がったの?」

「セオも経験があるはずよ」

「経験?」

「“解析者”が目覚めたとき、魔力量が跳ねあがらなかったでしょ」

「あ、そういえば……って、ブラウ! 特異能力ユニークスキルに目覚めたのっ!?」


 幼い子供はまだ魂魄と肉体が安定していない。そんな時に強力な能力スキルに覚醒したら、魂魄のバランスが崩れて肉体に大きな影響を与えてしまう。


 実際、俺が“解析者”に目覚めた時はそんな危険性があった。


特異能力ユニークスキルではないし、セオの時の様な危険性はないから、安心して。ちょっと強力な能力スキルよ」

「なるほどね」


 アテナ母さんがそういうなら危険性はないのだろう。


 俺はほっと胸を撫でおろしたのだった。


 



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最弱種族の少年が最強の力で竜を打ち倒し英雄となる物語です。

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