第60話:決着:セオ
アイラとリッカスが放った独楽は、土俵へと着地した。共に、回転しながら、土俵を弧を描くように回っていく。
そして、両者の独楽がぶつかると思ったが。
「ああ」
「よしっ」
その前に、アイラの独楽が急に回転力を失い、止まってしまった。アイラの投げ方が悪かったのか、独楽の軸が急激にブレて、回転できなくなってしまったのだ。
一試合目はアイラの負けとなった。
アイラは酷く落ち込み、リッカスはガッツポーズをしていた。
……初心者のミスで勝ってもガッツポーズができるその精神には、呆れを通り越して感心を抱いてしまう。少しばかり見習うべきものがあるかもしれない。
「アイラ、次だよ、次」
俺はアイラの肩を叩く。
すると、アイラはすぐに闘志を取り戻した。
「さっきので感覚はそれなりに掴めたし、次こそ勝つわ!」
「そうそう、その意気!」
アイラはふすんっとやる気を入れ、義手で独楽を握りしめる。それから丹念に独楽に糸を巻き始めた。
そして二回戦目が始まる。
「では、二回戦目。行きますよ」
「はい!」
アイラとリッカスは互いに自身の独楽に魔力を込め、糸を引きながら独楽を土俵へ向かって放つ。
先ほどと同じく、アイラとリッカスが放った独楽は、土俵へと着地した。共に、回転しながら、土俵を弧を描くように回っていく。
そして二人の独楽が中央でぶつかる。
「ふっ!」
結果、アイラの独楽が大きく弾き飛ばされる。ギリギリ場外には出なかったものの、独楽の回転軸が大きくブレはじめてしまう。
先ほどよりはしっかりと回転していたが、それでも独楽の回転数が足らなかったのだ。
リッカスは、勝ち誇った笑みを浮かべてた。まだ勝ってもいないのにだ。
まったく、俺が作った独楽を侮るとは、やはりリッカスだな。
「なっ!!??」
「えっ!?」
「おいおい、マジかっ!」
「どうやって、あんな状態から真っすぐ回るんだっ!?」
回転軸がブレにブレまくっていたアイラの独楽が、突如として整った回転へと変化したのだ。
リッカスを始め、多くの観客がそれに驚く。唯一、独楽に仕込まれていた魔導回路を見抜いていたアイラだけは、驚いていない。
そしてアイラはそのまま義手でフィンガースナップをした。
すると、どうだろうか?
「魔法は禁止――ッッ!? いえ、魔導具ですかっ!!」
アイラの独楽は回転に合わせて、風を纏い始めたのだ。
それが独楽に仕込まれた魔導具の効果であることをリッカスは一瞬で見抜く。しかし、もう遅い。
風を纏ったアイラの独楽がリッカスの独楽に激突した。
そして、リッカスの独楽が吹き飛ばされ、場外へとでるかと思ったが、しかし寸での所でギリギリとどまってしまった。
しかも、リッカスの独楽に仕込まれた魔導回路が発動しているのか、大きく吹き飛ばされたにも関わらず独楽の回転は安定している。
それを見てリッカスは小さく胸を撫でおろしたが、
「もう、無理だよ」
「なぁっ!?」
土俵の中央で回転していたアイラの独楽が突如として、場外すれすれで回転したリッカスの独楽へ向かって走り出したのだ。
そして場外近くにあったリッカスの独楽は場外へと吹き飛ばされた。
「やったわ!!!」
二試合目はアイラの勝ちで終わった。これで一対一である。
「おおおお!!!!」
「初心者がリッカスを倒したぞ!!」
「スゲーーー!!」
「お姉ちゃん、凄い!!」
おっさんとやんちゃ少年たちが熱狂の叫びをあげ、アイラに駆け寄る。みんな、次々にアイラを褒めたたえ、アイラは困惑したよう、けれど嬉しそうに笑ってそれに応えた。
と、
「待ってください!! 流石に、今の挙動はおかしいでしょう!!」
リッカスがアイラに詰めよろうとする。俺が間に割って入った。
「何が?」
「ですから、先ほどの独楽の挙動ですよ! 独楽が自ら動きましたよ! いくらセオ様の魔導具が高性能だとしても、魔導具が自ら動いたりはしません! 私たちが魔力を込めて発動させたら、それっきりです!!」
リッカスは叫ぶ。
「あんな、タイミングよく、回転軸を正したり、風を纏い始めたり、走り出したり。魔法で操作しているとしか思えません!!」
「……なるほどね」
まぁ、リッカスのいわんとすることは分かる。
しかし、
「俺もアイラも魔法を使ってないよ。あれは魔導具の性能だよ。ね、アイラ?」
「ええ。私もセオ様も魔法を使っておりませんよ、リッカレストオレンド様」
「でもっ!!」
「なら、魔法で確かめてみれば? 俺たちが嘘を吐いているいるか、どうかさ」
食い下がるリッカスに、俺は提案する。
すると、観客のおっさんが手をあげる。
「なら、俺がその二人の言葉の真偽を確かめよう」
「……ルネールなら、信用できますか」
ルネールと呼んだおっさんを見て、リッカスは頷いた。
アイラが俺に首を傾げて問いかけてくる。
「あの、セオ様。魔力の感じからして彼は妖人族だとは思うのだけど、どうしてリッカレストオレンド様が信用するのかしら? 先ほどの応援の様子から、彼もリッカレストオレンド様に負けて欲しいと思ったのだけれども」
「ああ、それはルネールが月霊族だからだよ」
「ッ!?」
アイラが息を飲む。
月霊族とは、月光の精霊を祖にもつ妖人族のことだ。
月光の精霊は、あらゆる嘘を見破り、真実の姿を写し出す力を持っている。その子孫である月霊族は、人の嘘を見抜く事ができる魔法を使えるのだ。
しかも、月霊族はその性質上、嘘を吐けない。
その力はとても強大だ。為政者がとても欲しがる力である。
だから、多くの争いに巻き込まれ、その数をめっきりと減らしていた。月光という、とても身近な自然であるがゆえに、昔は街一つ分ほどの人口がいたはずなのに。
そしてまた、昔のように悲劇を繰り返さないために、現存する月霊族は自らの正体を隠したり、居場所を特定されないように人里離れた場所で暮らしているという。
というのが、一般常識だ。
……
アイラはルネールに驚いた目を向けたが、すぐに首を横に振った。それから、
「ルネールさん。お願いします」
「ああ」
特別な存在を見るような目を向けられるのは、哀しいものだ。
それを知っているからこそ、アイラは普通の目をルネールに向けたのだ。
ルネールは小さく微笑み、それから俺とアイラに質問した。
「セオ様。アイラ嬢。二人は、先ほどので魔法を使ったか?」
「いや、使ってないよ」
「同じく、私も使っていません」
「……では、先ほどのあれは魔導具の力か?」
「そうだよ。俺が作った魔導具の性能だよ。ね」
「はい」
ルネールは俺をじっと見た。そして、リッカスを見やり、
「嘘は言っていない。先ほどのあれ、そこの独楽の魔導具の力らしい」
「ッ!!」
リッカスは愕然としたように、息を飲んだ。
しかし、ルネールの言葉はどんな黄金よりも信用ができる価値を持っている。リッカスは悔しそうに顔を歪めた。
「クッ。これだから、セオ様に参戦して欲しくなかったんですよ! こんな理不尽みたいな存在は嫌いです!! ッというか、本当にどうやってやったんですか!!」
「内緒」
「クソッたれっ!」
リッカスは盛大に地団太を踏み散らかす。
大人げないというか、ホント醜いというか。
心優しいアイラでさえ、少しだけ引いた目をリッカスに向けていた。
それからひとしきり、駄々をこねたリッカスはすっきりしたのか、懐から別の独楽を取り出し、膨大な魔力を込めながら、糸を巻き始めた。
アイラもそれを見て、独楽に魔力を込めつつ糸を巻く。
「アイラ、勝っちゃって!」
「はい、セオ様!」
俺の声援にアイラはグッと頷き、独楽を放つ態勢を取る。リッカスも同じく、独楽を放つ態勢をとった。
そして、三試合目が始まる。
「最後に笑うのは私です!」
「いえ、私だわ!!」
両者とも、気合にこもった言葉と共に独楽を放つ。
二人とも最初から全力だ。
アイラの独楽は風を纏い、リッカスの独楽は雷を纏っていた。どうやら、リッカスは先ほどの独楽では勝てないと考えたのか、雷を放つ独楽に変えたらしい。
そして両者がぶつかる。
風と雷が交わり、両者の独楽が同時に弾け飛ぶ。
それでも、両者の独楽の回転はブレる事はない。再び、中央に向かって走り、ぶつかり合う。
なんども、何度も。
文字通り、火花を散らしながら、ぶつかる独楽バトルに俺も含めて、観客全員が息を飲んだ。
そして決着は唐突に訪れた。
アイラが義手の人差し指を横に振った瞬間、アイラの独楽が纏っていた風が、更に増大したのだ。それはまるで独楽を中心に発生した小さな台風のようで。
「なッッ!?」
リッカスの独楽はその台風に勝つことはできず、場外に吹き飛ばされてしまった。
アイラが勝ったのだ。
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いつも読んで下さりありがとうございます。
面白い、また読みたいなど少しでも何か思いましたら応援や★、感想やレビューなどをお願いします。モチベーションや投稿継続に繋がります。よろしくお願いいたします。
追記(2023/11/11)
次の投稿は、諸事情により11/19とさせていただきます。申し訳ありません。
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