第41話:第二試合目:the Jealousy and the disappointment
「しょ、勝負あり」
冷や汗をかいていたヴィジットさんが慌てて、ライン兄さんが勝ったことを示す。俺はそれに応じる余裕もなく、今もなお吹き出る冷や汗と恐怖に震えていた。
正直、精神状態はあまり良くない。
そして顔色の悪い俺を見て、ライン兄さんは天使の笑顔を浮かべるのだ。
「勝った! セオに勝った!」
純粋に喜ぶライン兄さんはロイス父さんたちの方を見る。
「父さんたち、見てたっ? 僕、久しぶりにセオに勝ったよ!」
「そ、そうだね」
「え、ええ」
ロイス父さんとアテナ母さんが引きつった笑みを浮かべ、頷く。ヂュエルさんとルーシー様も同じような表情を浮かべていた。
が、よくよく見ると、その表情はライン兄さんだけでなく、俺にも向けられている気がした。
ぐったりとしながら、ロイス父さんたちの所に戻った俺は、二人に首を傾げた。
「あの、ルーシー様。ヂュエルさん。俺がどうかしましたか?」
「……い、いえ。少し驚いたと言いますか」
「ああ。多いとは聞いていたが、これほどとは……」
多い? 何が? というか、ルーシー様やヂュエルさんもだけど、ヴィジットさんやクシフォスさんも顔色が少し悪い。
「ライン兄さんのせいで、皆気分が悪いみたいだけど」
「え、僕のせい? まぁ、確かにセオはああいうのが苦手ってユリ姉との様子を見て分かったから、やったけど……」
「……」
ライン兄さん。やっぱり、あれがかなりの恐怖ものだと分かっていて、やってたんだ。俺の精神を揺さぶるために。
それにロイス父さんとアテナ母さんは褒めていいのか、注意するべきなのか迷った表情を浮かべる。
が、こほん、と咳払いして、俺を見た。
「セオ。皆さんがそう、顔色が悪いのはラインのせいもあるけど、アナタの魔力に当てられたんだよ」
「当てられた?」
俺の疑問にアテナ母さんが答える。
「ええ。アナタ。全魔力を放出したでしょ? 私と同じくらいの量と質のある魔力を放出すれば、気分が悪くなるものなのよ」
「……そういうもの?」
「ええ。特に魔力は精神状態の影響を受けたり、その逆もあるでしょう? アナタが恐慌状態で放った魔力は、かなり邪悪というか、精神的負担が大きかったのよ」
「邪悪って……まるで俺が魔王の手先みたいな言い方じゃん。どう考えても、俺、被害者だし、邪悪というならよっぽど、ライン兄さんの魔法が邪悪だと思うんだけど」
しらっとした目つきでライン兄さんを見れば、ライン兄さんは拗ねたように唇を尖がらせる。
「なんで、そんな悪くいうの、セオ。確かに少しやり過ぎたかもしれないけど、相手の嫌がる事やっただけじゃん。魔法使いの魔法勝負は、相手の嫌がるところを突いたもの勝ちって母さんも言ってたし、セオもいつも厭らしい感じに魔法を使うじゃん」
「まぁ、そうだけど……」
それを言われるとあまり反論ができない気がする。
それは俺だけでなく、普段から口すっぱく戦いで勝つための戦術として、相手の厭なところをつけ。裏をかけ。などと言っているロイス父さんたちも同じような様子だった。
だから、さっき褒めようか迷っていたのか。
そして猶更、ルーシー様たちが引いた様子を見せていた。
と、こほんとヴィジットさんが咳払いして、ロイス父さんを見る。
「ロイス殿。次はユリシア殿とヂュエル殿の試合かな?」
「ああ、そうだね」
ロイス父さんは頷きヂュエルさんを見る。また、俺たちの試合も見ず今までの騒ぎにも反応せずに、目を瞑り座禅を組んでずっと集中していたユリシア姉さんの肩を叩いた。
「ユリシア。ほら、試合だよ」
「………………分かったわ」
ユリシア姉さんはなんか、山奥の秘境で奥義を編み出した戦士のような表情をしていた。俺は思わず噴き出しそうになる。
が、その前にアテナ母さんに口を抑えられた。
そしてヂュエルさんとユリシア姉さんが対峙する。
ヂュエルさんは少し肉厚な
対してユリシア姉さんは魂魄と魔力を武具として具現化する
“黒天剣”はとてもシンプルな構造だ。というか、叩き潰す事を主に置いた剣とは少し違い、両刃ながら、それは刀の如く薄く、斬ることに特化していると伺える。
しかも、太陽の光すら反射せず、にもかかわらずぬるりと輝いているように見えるその様はまるで異様だ。
ルーシー様たちがそれに驚いた様に、目を見開く。
「ッ! あれはっ!」
「ロイス殿。“魔装”ではっ!?」
「“魔装”なんて、英雄ほどの者しかっ!」
「アハハハ……」
あれ、“魔装”ってそんなに凄い
街の守護兵団の一部も身に着けてるし、冒険者たちも何割か……
「セオ、セオ。だから、この街を基準に考えちゃダメだって。セオって案外、身近な部分を参考にする癖があるよ」
「あ、なるほど。世間一般的には凄いって感じなのか。でも、あれくらいの性能。魔法の“武器創造”でも再現できるしな……」
「ほら、また自分たちので参考にしてる。たぶん、普通の“武器創造”だとあそこまでの性能だせないんだよ」
「そんなもの?」
「父さんたちの反応を見るに、たぶん」
自分たちが持ってる常識が常識でないとは分かっているが、しかし世間一般の常識がどの程度のものか分からないせいか、ライン兄さんははっきりとしない様子で頷く。
……そうなんだよな。なんか、自分たちの感覚が常識じゃないって頭では分かってても、世間一般の常識をあんまり体験してないから、実感しにくいんだよな。
そういう意味では、エドガー兄さんみたいに王都の学校に行くのも確かな意義があるんだよな。
……というか、今気が付いたけど、ヂュエルさんだけユリシア姉さんの“黒天剣”を見ても驚いてないな。
「アンタは驚かないのね」
「エドガーが出来てたからな。ユリシア殿もできると思っていたのだ」
「なるほどね」
ユリシア姉さんがニィッと楽しそうに笑った。それはまるで、ヂュエルさんを対戦相手として認めたかのようだった。
ヴィジットさんが、「両者、構え!」という。二人の間にただならぬ緊張感が漂う。
そして、
「はじめっ!」
ヴィジットさんが試合の開始の合図をしても、それは変わらない。
ヴィジットさんは正眼に
二人とも一切動かない。
ロイス父さんがその様子を見てポツリと、「一応、魔法を主とした試合なんだけど分かってるかな……」と呟く。
と、その時、二人が一瞬で動いた。
正直、身体強化で動体視力を強化していなければ、直接目で追うことができなかっただろう。
そう思うほどに、ユリシア姉さんもヂュエルさんも動きが速かった。
キンッ。
金属同士がぶつかる音が響き、二人はつばぜり合いをしていた。見た感じ、ユリシア姉さんが少し押しているようにも見えるが、それでもヂュエルさんは動じずにしっかりとユリシア姉さんを見定めている。
そして二人は小手調べと言わんばかりに剣戟を始める。
それにはロイス父さんが唸る。
「ヂュエルくん。あの歳の子にしてはかなりの腕を持ってるとは思ったけど、ここまでか。少し後手に回っているけど、芯がしっかりしてブレてないね」
「ええ。まさしく、騎士の剣ね。ああいう剣が前にいると後衛としてはとても戦いやすいわね、アナタ?」
「うっ」
ロイス父さんがアテナ母さんから視線を逸らす。
ああ、そういえば、ロイス父さんの剣ってユリシア姉さんに似ている……いや、逆か。ユリシア姉さんの剣がロイス父さんに似てるんだよな。
派手というか、滅茶苦茶動き回ってブンブンと剣を振っているイメージというか。
どっちにしろ、どっしり感よりも、ガンガン攻めるぜって感じ。
魔法使いのアテナ母さんはそんなロイス父さんを前衛に持って苦労したんだろう。たぶん。
そんな事を考えていたら、剣戟をしていたユリシア姉さんとヂュエルさんに動きがあった。
ユリシア姉さんが背中から〝魔力の手〟を生やしたのだ。
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