第38話:脳筋:the Jealousy and the disappointment

「……あの、アテナ様。一つよろしいでしょうか?」

「何かしら?」


 ルーシー様がアテナ母さんに恐る恐る尋ねた。


「セオ様は、アテナ様と同じことができるのですか?」

「同じことって、これの事?」

「はい」


 アテナ母さんが首を傾げながら〝魔力糸〟で蝶々を編めば、ルーシー様が頷く。アテナ母さんは顎に手を当て、それから俺を見た。


「セオ。できるわよね?」

「まぁ」


 俺は頷き、アテナ母さんと同じように〝魔力糸〟で蝶々を編む。それだけでなく、小さな花なども編み、蝶々がまるで飛びながら小さな花に止まるような感じにする。


 アテナ母さんがそうしろ、と言わんばかりの目で見てきたため。


 そしてルーシー様は大きく目を見開き、自分に失望したような表情をする。


「ッ、そこまでの……」

「いや、あの、ルーシー様。俺は小さい頃から練習してただけですし、ルーシー様なら直ぐにできるようになると思いますよ」


 ルーシー様の様子に少し恐ろしさを感じた俺は、慌ててフォローする。実際、そうだし。俺に魔力操作のセンスは全くなく、練習しただけだし。


 ただ、俺の言葉が伝わらなかったのか、ルーシー様は暗い表情のまま。


 すると、アテナ母さんが柏手を打つ。


「はい。魔力操作の練習はそこまで」


 透き通る声でアテナ母さんがそう言えば、ヂュエルさんなど、〝描光〟で魔力操作の練習をしていた面々がこちらを見る。


 それからアテナ母さんは各自に魔力操作の課題などを伝え、またその解決方法のヒントを与えていた。もちろん、ルーシー様にも。


 そして次に、魔法の訓練に入った。


 と、言っても、俺は使える魔法は無属性魔法だけなので、訓練には参加せず、逆に教える立場となり、俺はユリシア姉さんを教えていた。


「ねぇ、セオ! 真っすぐ行かないんだけど!」

「だから、さっきから言ってるけど、手のひらから魔力を真っすぐ飛ばすイメージをするんだよ」

「してるわよ! けど、変な方向に行くのよ!」


 ユリシア姉さんが地団太を踏む。


 ユリシア姉さんは魔法の才能がないわけではない。身体強化も得意だし、〝魔衝波〟など、魔力の扱いを必要とする技も習得している。


 が、属性変換した後、それを射出するのが苦手なのだ。詳しくいえば、ノーコン。狙った場所に魔法が飛ばないのだ。


 今だって、火魔法の〝火球〟をアテナ母さんが土魔法で用意したまとに当てようとして、真後ろに飛んだんだし。どうやって真後ろに飛ぶのか、理解ができない。


「……ユリシア姉さん。魔法は放った後も、自分と繋がってる感じにイメージするんだよ。軌道がズレたなら、その都度修正するの」

「できないわよ!」

「ええ」


 キレ気味のユリシア姉さん。まぁ、キレたい気持ちは分かる。


 ぶっちゃけ、アテナ母さんたちが色々と手を尽くしたのだが、何故かユリシア姉さんは魔法の射出や遠隔コントロールが下手なのだ。絶望的に。


 俺は顎に手を当てて、考える。


「じゃあ、ユリシア姉さん。これはできるよね?」


 俺はそう言いながら、魔力の短剣を作り出す。ただ単純に短剣型の放出、操作、圧縮した魔力を実体化するだけなので、流石にユリシア姉さんでもできるはず。


 だから、ユリシア姉さんは少し怒ったような表情をしながら、頷く。


「できるに決まってるでしょ。戦士で必須の技術よ」

「だよね。じゃあ、これをあそこの的に当ててよ」


 そう言いながら、俺は魔力の短剣を的に投擲する。まだまだ体が出来ていない俺は投擲とかの訓練が多めなので、投げた魔力の短剣はキッチリまとの中心に当たる。


 ユリシア姉さんは舐めてるのかしら? と言わんばかりにキッと両目を吊り上がらせる。魔力の短剣を作り出し、的に向かって投擲した。

 

「シッ」

「おお」


 すれば、ユリシア姉さんが投げた魔力の短剣は俺とは比べ物にならないほどの威力を持って的に突き刺さる。


 うん、やっぱり、できるよね。


「じゃあ、これに火を纏わせられる?」

「それもできるわよ。魔法武器の応用じゃない」


 そう言って、ユリシア姉さんは魔力の短剣の刀身に火を纏わせる。やっぱり、これもできるか。


「じゃあ、さっきみたいに投げて」

「分かったわよ。……シッ!」

「おお、やっぱりできるよね」

「当り前じゃない! あんな動かない的に当てるなんて簡単よ!」


 火を纏った魔力の短剣が的に突き刺さり、俺は頷く。ユリシア姉さんが少し怒ったように鼻を鳴らした。


 そして俺は首を傾げる。


「じゃあ、なんで魔法はあの的に当たらないの?」

「うぐっ! だ、だって、魔法は違うじゃない!」

「一応、魔力の短剣とかも、無属性魔法に入るけど」

「それでも違うじゃない。こっちは投げてるけど、〝火球〟とかは、こう、何もないところから飛ばす感じじゃない! 投げなきゃ、狙った通りに飛ばないわよ!」

「なるほど」


 たぶん、ここなのだ。ユリシア姉さんはなまじ運動能力が高すぎるから、体内や体に接する魔力の操作なども体を動かす事として認識しているんだと思う。

 

 ただ、その認識があまりにも強すぎるから、体を直接使わずに行う魔法の射出などが苦手。イメージがしにくいのかな?


 でも、裏を返せば投げる動作を入れれば狙った場所に魔法を放てる気はするんだよな。


 そこまで考えていると、ヂュエルさんを指導していたロイス父さんが俺の方を見て、言った。


「セオ! ユリシアは戦士だから、両手が武器でふさがってる場合が多いんだよ! だから、その時に使える魔法を習得してほしいんだよ」

「ああ、なるほど」


 確かに、ロイス父さんのいう事も一理ある。


 どうするべきかな……。ここ最近、ユリシア姉さんは魔法の訓練はこんな感じだし、どうにかしてあげたいんだけど……


 俺がそう考えていると、ユリシア姉さんがボソリと阿呆な呟く。


「両手が武器にふさがるって、なんで手は二つしかないのかしら! 四つも、五つもあればもっと武器が持てて、魔法なんか使わなくても圧倒できるのに!」

「それだよ!!」

「きゃあ!? 何よ、急に大きな声出して!」


 ユリシア姉さんが驚く。俺はそれをさくっと無視して、魔力を放出して、操作、実体化をしてある形を作る。


「何よ、それ、気持ち悪い」

「気持ち悪いって、今、ユリシア姉さんが言ったんだよ」


 ユリシア姉さんは俺の手のひらから魔力の腕が生えたのを見て、おぞましい物を見るかのように顔をしかめた。


 酷いな……と俺は唇を尖がらせる。


「ねぇ、ユリシア姉さん。こんな感じに魔力の手とか、腕とか作れる? それを体に繋げる感じで」

「ええ……やってみるけど……」


 ユリシア姉さんは少し戸惑ったように頷き、何度か迷いながら右肩らへんから一本魔力の腕を生やした。


 ……なんか、気持ち悪いわ。


「ねぇ、セオ! 今、気持ち悪いって思ったでしょ!」

「そりゃあ、なんか、あれだよ! いくら魔力と分かってても、人から三本目の腕が生えてるのってあれじゃん!」

「うるさいわよ! じゃあ、これ、消すわよ!」

「ああ、ちょっと」


 俺は慌ててユリシア姉さんを制止する。


「その前に、もう一度〝火球〟を作って!」

「……分かったわよ」


 そう言いながら、ユリシア姉さんは空中に〝火球〟を生み出す。


「じゃあ、それを魔力の手で掴める?」

「まぁ、掴めるわよ。感覚ないから、熱くもないし」

「おお、やっぱり!」


 ユリシア姉さんの右肩から生えた手が〝火球〟を握る。俺は嬉しそうに頷き、ユリシア姉さんに言った。


「じゃあ、投げてよ!」

「投げるって、この手で?」

「そう、魔力の手で。ユリシア姉さん。魔力の扱い自体はそれなりにできるんだから、自分の体の動きも再現できない?」

「やってみるわよ」


 ユリシア姉さんはむむむと唸り、右肩から生やした魔力の手をゆっくりと動かした。そして、後ろへと振りかぶり、〝火球〟を投げる。


 すると、〝火球〟が真っすぐ飛び、まとに掠る。


「ッ! セオ、これって!」

「うん! これなら両手を塞がずに魔法が使えるよ!」


 根本的な解決にはなってないけど、これなら疑似的に魔法を放っている感じだ。


 そして俺たちのその様子を見て、ロイス父さんが少し呆れたのだった。






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