第36話:セオは何気なく使っていますが、かなりの高等技術です:the Jealousy and the disappointment

 翌日の明朝。


「う~。眠い」

「セオ。僕も眠くなるから言わないでよ」


 稽古服に着替えた俺とライン兄さんは眠そうに瞼をこすっていた。


 収穫祭の最中なのだから、朝稽古ぐらいなくていいのにと思うが、ロイス父さん的には一週間に一度も朝稽古をしないなど、ありえないらしい。


 兎も角、ヂュエルさんがアテナ母さんに魔法の稽古を頼んだこともあり、ならばとルーシー様やヴィジットさん、クシフォスさんも朝稽古に参加することとなった。


 オルとニューリグリア君も参加するにはするが、体が出来ていない事もあり本格的な稽古はしない。見学みたいなものだ。


 っというか、その二人はまだ寝ているので後々合流するだろう。


「ねぇ、抜け出せない?」

「父さん張りきってるし、無理じゃない?」

「でも、めっちゃ眠いんだよな……なんで、こんな朝早くに起きないといけないんだか」

「分かる。僕だって、寝たの遅かったのに」


 昨日は楽しかったから。


 ぴょんぴょんレースの後、将棋大会に行ったのだが、三年目になるためか、将棋のレベルがかなり洗練されており、解説していて楽しかった。


 しかも、土地神のような存在であるエウまで参加してきたので、それはそれは大盛り上がり。俺は選手として出場は禁止されていたが、前年度チャンピョンとして、今年の優勝者と対決する事も即席で行われ、うん、本当に満足した。


 が、将棋は一局一局がそれなりに時間がかかる。いくつか、特別なルールを設けて短縮しているが、それでも時間がかかる事にはかわりない。


 将棋大会は深夜まで開かれたのだ。


 また、ライン兄さんはライン兄さんでニューリグリア君と収穫祭を回ったり、マキーナルト領の人たちに魔物の生態やらアダド森林の植生など詳しく尋ねていたら深夜を回っていたらしい。


 そして何より、帰ってきてからの説教。


 流石に深夜まで帰って来ないことに、しかも連絡を一切よこさなかった事にアテナ母さんもロイス父さんもブチ切れ、それは凄い説教をされた。


 俺たちの位置自体は常に把握していたらしく、危険がないことは分かっていたらしいが、それでも凄く心配するんだそう。

 

 まぁ、それもそうか。


 なので、かなり寝不足なのだ。朝稽古終わったら、寝る。絶対に寝る。今日はずっと寝る。


 どんよりとした雰囲気で家の裏手にある朝稽古場へと向かう。


 すると、前から誰か走ってくるのが見えた。ユリシア姉さんだった。


「アンタたち、遅いのよ! ほら、早く行くわよ! みんな待たせてるんだから」

「え~、そんな急に走れない」

「担いでってよ、ユリ姉」

「ッ! ……分かったわよ」


 俺たちと違ってユリシア姉さんはよっぽど朝稽古したかったらしい。


 少し迷った後、ユリシア姉さんは俺たちを両脇に抱え、走り出す。


 あ~、凄く楽ちん。しかも、ユリシア姉さんの走りがかなり安定していて、心地よい振動に眠くなってくる。


 ウトウトと舟をこぎそうになった時、ユリシア姉さんが止まった。


「着いたわよ。さっさと降りなさい」

「……ありがと」

「……ん、ユリ姉」


 ロイス父さんやアテナ母さん、ルーシー様やヂュエルさん、ヴィジットさんにクシフォスさん。


 オルとニューリグリア君は稽古場の端に置かれたレジャーシートの上でウトウトしていた。


 ともかく、なんか、皆に微妙な目でみられ、俺とライン兄さんは恥ずかしくなる。あと、ロイス父さんとアテナ母さんが怒りを通り越した呆れ、みたいな表情なってて、怖い。


 そしてそれからロイス父さんは咳ばらいをして、俺、ライン兄さん、ユリシア姉さん、ヂュエルさん、ルーシー様を見やった。


「今日はヂュエル様の要望もあり、魔法を中心とした稽古をします。内容としては、準備運動、剣の素振り、魔力操作訓練、各々好きな魔法の鍛錬、そして最後に魔法を交えた実践を行ってもらいます」


 ロイス父さんはヴィジットさんとクシフォスさんを見た。


「また、ヴィジット殿は弓の名手として、クシフォス殿は近衛騎士として一流の腕を持つため、この実践の際にはこのお二方にも参加してもらいます」


 ロイス父さんは軽くヴィジットさんたちに頭を下げた。


「では、まず、準備運動から始めましょう」


 動的ストレッチとランニングが始まった。



 Φ



 剣の素振りまで終え、次は魔力操作訓練となった。


 講師はアテナ母さんだ。


 俺たちは地べたに座りながら、アテナ母さんを見上げる。そしてそんな俺たちをロイス父さんたちが見守るように見ていた。


「では、質問よ。魔法を扱う上で最も必要なのは何だと思うかしら?」

「はい!」

「ライン、アナタは知ってるからだめよ」

「え~」


 さっさと稽古を終わらせて寝たいためか、積極的に参加するライン兄さん。アテナ母さんはスルリと無視して、ヂュエルさんとルーシー様を見やる。


 二人は各々答える。


「……才能、属性適性でしょうか?」

「魔力量かと」


 二人の答えにアテナ母さんは頷いた。それから、それぞれに質問する。


「ルーシー様はどうして属性適性だと思ったのかしら?」

「それは、貴族が貴族たる所以ですからです。属性に対して多くの、そして高い適性を持つからこそ、強力な魔法を使え、その威力で魔物を倒す。だから、一番必要なのは属性適性です」

「なるほど。ヂュエル様は?」

「俺もルーシー殿と同意見です。ただ、いくら属性適性があろうと、魔力量がなければ上級魔法や聖級魔法を放つ事はできません。それに属性適性が多少低くとも、魔力量でゴリ押すこともできます」

「……なるほど」


 アテナ母さんは二人の答えにしっかりと頷き、それから俺を手招きした。


「え~、何?」

「いいから来なさい」

「は~い」


 正直、眠いのであまり動きたくないのだが……


 そう思いながら俺は立ち上がり、アテナ母さんの前まで歩く。すると、アテナ母さんが今度は少し離れた所を指さした。


「セオ、ちょっとそこに立ちなさい」

「え~」

「セオ」

「分かったよ」


 なんで、最初に手招いたんだよ。最初から、指定の位置に立たせればいいじゃん。そうぶつくさと心の中で呟きながら、俺は少し離れた所に立つ。


 そしてアテナ母さんは俺を無視して、ヂュエルさんとルーシー様の方を向く。


「今、お二人は強力な魔法を使う点で、最も魔法に必要なものを答えたわよね?」

「ええ、はい」

「確かに」


 アテナ母さんは俺に片方の手のひらを向ける。


「セオ、消していいわよ」


 そしてそういったアテナ母さんは俺に向かって、手のひらから巨大な蒼い炎の鳥を放った。


「何を!?」

「なっ!?」

「アテナ殿!?」

「何をして!?」

「ちょっ!?」


 ヂュエルさん、ルーシー様、ヴィジットさん、クシフォスさん、俺がアテナ母さんの突然の行動に驚愕する。


 そして俺はアテナ母さんが放った聖級火炎魔法、〝蒼獄鳥〟に殺されないように、必死になって〝魔法殺し〟を放つ。


 〝蒼獄鳥〟が霧散した。


 それにマキーナルト一家を除いた全員が驚愕する。声も出ないほど、唖然としていた。


 ただ、俺はそれを気にするどころではない。


 アテナ母さんに叫ぶ。


「ねぇ、殺す気なの!? いきなり聖級魔法なんて打ち込んで、自分の息子、殺す気なの!?」

「あら、そんなわけないじゃない。セオなら、対処できると思ったから放ったのよ。それにもし駄目でも寸でのところで解除できるわよ」

「そうじゃないの! 心が! 寝不足で疲れた心に大きな負担がかかったの!」

「あら、良かったじゃない。眠気が醒めたでしょ?」

「ッッ!!」


 全く、この母親はっ! もっと労りが欲しい!


 地団太を踏む俺をよそに、アテナ母さんは驚愕で唖然としているヂュエルさんとルーシー様を見やった。


「ヂュエル様、ルーシー様。上位の魔物は普通の魔物よりも魔法が効きづらいのを知っているわよね?」

「は、はい」

「膨大な魔力を持っているからだと」


 唖然としながらも、アテナ母さんの言葉にしっかり反応するヂュエルさんたち。アテナ母さんは小さく首を横に振った。


「それが違うのよ。正確には彼らはさっきセオが使った〝魔法殺し〟という無属性魔法を無意識に纏っているからなの。そして〝魔法殺し〟によって魔法を消されないようにするためには、緻密な魔法構成と強度……つまり、繊細な魔力操作が必要なのよ。それがなければ、どんなに強力な魔法でも直ぐに消すことができるわ」


 初めて知ったのだろう。


 ヂュエルさんもルーシー様も、目を丸くしていた。








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いつも読んで下さりありがとうございます。

面白い、また読みたいなど少しでも何か思いましたら応援や★、感想やレビューなどをお願いします。モチベーションや投稿継続に繋がります。よろしくお願いいたします。


また、誠に勝手ではございますが、来週から更新を週1に変更させてていただきます。理由はいくつかありますが、大きな理由としては私生活が忙しくなったからです。もしかしたら、前触れもなく更新が滞る可能性もあります。


次回の更新は日曜日となります。

よろしくお願いします。

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