第32話:一級フラグ建築士の資格を与える:Harvest festival 2

「セオ! 次はあれだ! あれ!」

「はいはい、分かったからっ!」


 りんご飴ならぬククリ飴にかぶりつきながら、俺の手を引っ張るオル。ちょっと前までギャン泣きしていたとは思えないほどだ。


「おばさん! これはなんだ!」

「輪投げよ」

「輪投げ!?」


 中年の女性が頷き、輪投げのわっかを持って実践をする。


「そこの線に立って、そのわっかを投げるのよ。それでこうやってここのひっかけるのよ。それで遠いほど得点が高いのよ。どう、分かったかしら?」

「分かったぞ!」

「高い得点だと、いいものが貰えるから頑張ってね。わっかは五つね」

「おう!」


 オルは中年の女性から輪投げのわっかを受け取る。


「セオ様もどうぞ」

「ありがとう、リンダ」


 中年の女性、リンダに礼をいいながら、俺もわっかを受け取った。


 すると、オルが俺にビシッと指を指す。


「おい、セオ! 勝負するぞ!」

「勝負?」

「そうだ! 俺が勝ったら……何するんだ?」

「は?」


 いや、お前が言ったのに……


「まぁ、いいや! 勝負だ、勝負!」

「はいはい、分かったよ」


 単に競い合いたいだけか。まぁ、付き合うのもやぶさかではない。先ほどから、こいつに振り回されてばっかりだしな。ぎゃふんと言わせよう。


 俺はニィッと笑って、オルの提案を受け取る。


「じゃあ、まず俺からだな!」


 そう叫んだオルはグッと線の前で構えると、わっかを投げた。


「ああ!!」

「ふっ」


 外した。遠くの得点が高い方を狙ったようだけど、狙い過ぎだな。オーバーしたのだ。


 オルが物凄く悔しがる。


「じゃあ、次は俺の番だね」


 悔しがるオルを鼻で笑った俺は、ダランと肩の力を抜きながら、わっかを構える。肩、肘、手首の順番に関節や動きの連動を意識しながら、わっかを投げる。


 一番得点が高い六点の所に入った。


「よし!」

「なんでだっ!!」


 オルが悔しがる。


 ふっ。残念だね。


 これでも俺はロイス父さんの稽古をそれなりに頑張っているのだ。というか、頑張らないと色々と怒られるし。


 だから、体の使い方とかもそれなりに理解しているし、そもそも今は近距離戦の稽古よりも遠距離戦、短剣の投擲とか弓とか、そういうのが稽古の中心だ。


 まだ、体ができていないから剣の稽古を多めにすると、変な癖がついてしまうとかなんとか。


 まぁ、どちらにしろ、俺が最高得点を狙えないわけがないのだ!


 そう思ったとき、


「ああ、ごめんなさい、セオ様。間違えました」

「え?」

「セオ様は大人と同じく、この枠でやってもらいます」


 リンダが俺が持っていたわっかを入れ替える。


「あ」


 そうだった。


 俺が輪投げを提案した際、外から来た観光客や街の子供たち以外、つまりこの街の大人たちが遊ぶ時を想定して、それ専用のわっかを作るのを提案したんだった。


「あばばばばばばば」

「ギャハハハハハっ! なんだよ、それ! ぶるぶるしてるぞ!! プハハハハ」


 そのわっかを持っている人の魔力を吸収して、自動で振動するわっかである。あと、投げると組み込まれた風魔法の魔道具が周囲に規則的な風を発生させて、わっかの軌道を変えるのだ。


 つまるところ、妨害に特化した魔道具のわっかである。


 その代わり、生活魔法程度なら使っていいことになっている。


 魔術は兎も角として、俺は生活魔法も属性ありだと全く使えないからな。身体強化でわっかの振動に耐えるのが精一杯である。


 オルが振動に耐える俺を見て、大爆笑する。


 ムカつく。


「い、いい、から、オル、さっさと、次、投げ、ろよ!」

「ぷっ、なんて言ってんだよ、セオ!」

「投げろっ、て言ってるんだ!」


 ぶるぶる震えるせいでまともにしゃべれない。


 チッ、クソ。先にこの振動をどうにかするしかないな。


 〝念動〟を応用して、わっかにわっかの振動とは逆の振動を与えるのはどうだろうか? 


 ……よし、それなりに振動がおさまったな。まだわっかを握っている手がプルプルと震えるけど、我慢、我慢。


「よし!」


 そうしている内にオルがわっかを投げ、二番目に得点が高い四点の場所にわっかを入れた。


「次はセオの番だぞ!」

「分かってるって」


 振動を抑えながら、俺は構える。先ほどと同じように肩から順番に連動して投げる。


 よし、まっすぐ飛ん――


「あっ、クソ!」

「よっしゃ! 外したぜ!」


 一番高い六点に入る直前で、わっかの周囲に風が発生し、わっかの軌道を変えたのだ。


 チッ。


 この魔道具。俺が提案したが、構造自体は難しく無かったので、設計とか詳しい部分は関わってないのだ。


 なので、風の発生規則もその大きさもまだ分かっていないのだ。


「じゃあ、次は俺だな!」


 オルがわっかを投げる。二番目に高い四点の所にまた入る。どうやら、一番は諦め、二番のを狙うことにしたらしい。意外と堅実だな。こいつ。


 俺もわっかを投げるが、またしても一番のわっかに入る直前で風魔法が発生し、わっかの軌道が逸れてしまった。


「チッ」


 俺は舌打ちする。


 けど……


「解析もできた。次は修正できるな」


 もともと、基本的な構造や仕組みは想定していたので、“魔力感知”などで具体的な魔力の流れを把握し、詳しい仕組みも理解できた。


 このわっかの魔道具は皮膚から放出される魔力を吸収することで振動しているのだが、それとは別に内部に風魔法一回分の魔力が込められた魔晶石が埋め込まれているらしい。


 それで、振動し始めてから振動が終わる――つまり、人から離れて一定時間過ぎると、自動的に内部に組み込まれて魔晶石に回路が繋がり、風魔法が発生するらしい。


 その一定時間は投げられたわっかが固定の回転数を超えたときらしく、わっかが回るのと同時に内部の回路も回って指定した回転数に達したとき風魔法を発生させる回路が成立するのだ。


 仕組みは分かった。


 また、発生する風魔法の規模やそのベクトルもだ。


 なら、後は投げ方を変えるだけ。


「よし、このまま勝ってやるぜ!」


 オルがわっかを投げる。すると、一番高い六点の所にわっかがはいった。

 

「お、おおっ!?」


 オルが大きく目を見開く。どうやら、本人も想定外だったらしい。


 チッ。なんか、運に恵まれたやつめ。


 そう思いながら、俺は震える魔道具のわっかを構える。


「ふぅ~~~~」


 大きく深呼吸をする。


 先ほど以上に集中し、タイミングと体の動きを調整。発生する風の規模とベクトルを前提に、わっかの回転の仕方と投げる位置を調整。


「シッ」


 そして投げた。


 ……


「よっしゃあ!!」

「はぁ、なんでだよ! 完璧に外れてたじゃねぇか!!」


 あらぬ方向へと飛んだわっかは、しかし突如発生した風魔法により軌道を修正。一番高い六点の所に入る。


 “研究室ラボ君”の演算能力をちょっと使ったけど、うん、まぁ、いいでしょ。


 オルが悔しがりながら、リンダさんに抗議する。


「おばさん、今の反則だろ!」

「いや、反則じゃないわよ」

「嘘だ!」

「嘘ではないわ」


 おばさんの言葉にオルが頬を膨らませる。俺は煽る。


「ほら、オル! 最後の投げなよ。あ、でも次も俺、六点に入れるから、オルも六点に入れないと勝てないかもね?」

「ぐぐぐぐっ」


 俺の得点は十二点。オルは十四点。


 ぶっちゃけいえば、オルが四点に入れれば俺の勝ち目はなくなる。引き分けだ。


 けど、オルが引き分けを許すわけもないし、そもそもキチンと計算できてるかも怪しいところ。


 こう危機感を煽れば、絶対に六点を狙ってくる。リンダさんが呆れた目を俺に向けてくるが、知らん。勝負は勝負。一切手加減しないのだ!


「入れてやるよ! 入れれば勝てるんだろ!!」


 オルが入れた先ほどの六点はあくまでまぐれ。緊張感やプレッシャーをかけている今、オルが六点に入れられる確率は少ない。

 

 勝った!!


 俺がドヤッている中、オルは顔を歪めながら、集中する。ぐぬぬと歯を食いしばっている。


 力を入れすぎているな。あれでは、投げられるものも投げられない。


 俺の勝利の可能性が更に増した!


 と、思ったとき、


「ふぅ~~~~」


 オルが深呼吸を吐いた。先ほどの俺みたいに。


 そして何かを思い出すように目を瞑った瞬間、


「シッ」


 綺麗な体の動かし方。まっすぐと飛ぶわっか。


「あ」

「よっしゃああああ!!!!」


 オルのわっかが六点の所に入った。


 俺の勝ち目がなくなった。


 膝から崩れ落ちる俺と俺を煽るように高笑いするオル。


 リンダさんが呆れた表情になっていた。







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