第28話:無自覚にやらかすのは血です:Harvest festival
「……エドガーは何か問題でも起こしたのかしら?」
ヂュエル様の様子にアテナ母さんは眉間に
ヴィジットさんやクシフォスさんと談笑していたロイス父さんも、アテナ母さんの様子に気が付き、少し表情が固くなる。
ヂュエル様が慌てる。
「い、いえ。エドガーは学園でよくやっています。何かとクラスの中心にいますしここ最近は
「う、うむ。儂も特別講師としていくつか、講義を受け持っておるのだが、エドガーはよく勉学に励んでおるぞ。高等学園の講義も掛け持ちで受けているのに、よくやっておる」
おお、エドガー兄さんとヂュエル様ってそれなりに仲がいいのか。それにクラスの中心にいるらしいし、それなりに良好な関係を築けている感じだな。
学園に行く前に話したときは、マキーナルト家の長男としての責任とか、そういうのに囚われていたし、学園に行くのもそこまで乗る気じゃなかったから、心配だったけど、大丈夫そうかな?
良かった。良かった。
「何か隠している?」
と、思った瞬間、ロイス父さんが鋭く目を細める。
「な、何も隠しておらんぞ。のう? ヂュエル殿」
「う、はい。本当に何も……」
ロイス父さんが更に瞳を細める。
クラリスさんは兎も角、ヂュエル様はそれに耐えられなかったらしい。
「……問題を起こしました。かなり。片手じゃ足りません」
「あ、お主!」
ゲロったヂュエル様にクラリスさんが驚く。あと、学園は情報統制がかなりしっかりしているので、知らなかったのだろう。
ルーシー様やヴィジットさん、クシフォスさんが大きく目を見開いた。
そしてアテナ母さんが恐ろしい程の笑みを浮かべる。
「あ、お主! じゃないわよ、クラリス。大人のアナタが、何故ヂュエル様に隠し事を強要したのかしら? それと、エドガーが起こした問題も教えて頂戴? 学園に出入りしているらしいし、知っているのでしょう?」
「僕も知りたいな、クラリス。学園内でおさまる問題なら、僕たちはあまり口出ししないけど、親としてしなきゃならないことはあるだろうし」
「うっ」
ある程度緩やかに流れていた晩餐が、一気に冷たい空気になる。
ヴィジットさんとクシフォスさんが慌てる。
「ろ、ロイス殿。今は食事の席であるから、な?」
「そうです。アテナ様もご子息で心配なのも分かりますが、落ち着いてください」
おお、ナイスフォロー!。
そのフォローに流石にロイス父さんたちもマズイと思ったのか、咳払いをした。
「ヂュエル様。嫌な思いをさせて申し訳ないわね」
「い、いえ」
そうして、晩餐の空気は微妙になり、そのままお開きとなった。
Φ
「ヂュエル君も同席してもらって申し訳ない」
「い、いえ。大丈夫です」
晩餐がお開きになり、ほどなくしてロイス父さんとアテナ母さんにリビングに集められたのだ。
ちなみに、ヴィジットさんやクシフォスさんはここにはいない。昼間、ソフィアにお酒の品評会とか、なんかそんなのに呼ばれたらしく、夜のラート街へと消えた。
また、ライン兄さんとニューリグリア君、オルドナンツもここにはいない。面倒な話と思ったのか、ライン兄さんがニューリグリア君とオルドナンツをつれて自室へと戻ったのだ。
俺も、それに便乗したかったのだが、何故か、クラリスさんに呼び止められた。
つまるところ、ここにいるのは俺ユリシア姉さんとルーシー様、ヂュエル様とクラリスさん、そしてロイス父さんとアテナ母さんだ。
ただ、ルーシー様はあまり家庭の事情に首をツッコむ事はしないためか、ブラウと遊んでいる。
「それでクラリス? エドガーは何をしたのかしら? 何か、悪いことに巻き込まれたのかしら?」
「うむ……」
「うむうむ言っても分からないんだけど?」
「う、うむ……」
クラリスさんが冷や汗をかきながら、頷き、ロイス父さんとアテナ母さんの表情がどんどんと険しくなる。
言い淀むクラリスさんに痺れを切らしたのか、アテナ母さんがクラリスさんの肩を掴む。
「まさかだけど、あの子。学園を抜けだしたんじゃないでしょうね!?」
「そ、それはないぞ。お主ではないんだから」
「じゃあ、何なのよ!? あの子に何かあったか心配なのよ!」
「う、うむ……」
あれ? なんか、今、物凄く気になる言葉があったんだけど。アテナ母さん、学園を抜けだしたの?
そういえば、トーンお祖父ちゃんとレミファお祖母ちゃんが何か言っていたような……
そう思っていたら、ヂュエル様がぶんぶんとクラリスさんの肩を揺さぶるアテナ母さんをなだめる。
「あ、アテナ様。落ち着いてください! アイツに何かあったのではなく、アイツが問題を起こしたのです!」
「ヂュエル君。その問題を教えてくれるかな?」
「ええっと……」
ロイス父さんに尋ねられ、ヂュエル様は少し言い淀む。
しかし、大きく溜息を吐いた後、言い難そう言った。
「……痴情のもつれです」
「え?」
「うん?」
アテナ母さんとロイス父さんが首を傾げた。俺とブラウの相手をしながらも聞き耳を立てていたルーシー様も同様だ。
クラリスさんは、あ~といった表情をして、ユリシア姉さんはうへぇと顔を歪めていたが。
「痴情の……」
「もつれ?」
「……はい。そうです」
ヂュエル様は気まずそうに顔を歪めた。
……なるほど、なるほど。
確かに、実の両親にアナタの息子が学園で痴情のもつれによる問題を沢山起こしましたとは言いづらいだろう。
うん、言いづらい……
………………
あれ? 痴情のもつれ?
なんか、やばい気が……
「ちょっと、俺、お花を詰みに――」
嫌な予感がして、俺は慌ててこの場を離脱しようとした。
しかし、
「待つのだ、セオ! 元はといえば、お主も原因の一端なのだぞ!」
「し、知らない! 俺、何も知らないから! ちょ、離して!」
「離さぬものか! あやつがそこのスカポンタンどもの血を引いていたとはいえ、お主にも原因があるのだ!」
「あ、ちょっと!」
どこから取り出したのか。逃げ出そうとした俺をクラリスさんが鎖で拘束する。
「スカポンタン?」
「私たちが?」
そしてロイス父さんとアテナ母さんが、クラリスさんの言葉にキョトンと首を傾げた。
それにクラリスさんがキレた!
「そうだ! エドガーが何人もの令嬢に対して無自覚に告白して、襲われた所を見たとき、お主らの事を真っ先の思い出したのだぞ!」
「な、何で……」
「私たちが……」
「何でもくそもあるかっ!」
クラリスさんが怒鳴る。
「ロイス! 儂は全て覚えておるぞ! リリアンナ第三王女! ヒーリ第一王女! フィラックス公爵令嬢! お主が国を巻き込んだ大騒動を引き起こしたのはこの三人か!? ただ、これは国! ギルド関連で言えば、聖金の冒険者パーティーである『金狼の要』や『明嵐の夢』を崩壊させた発端は、お主が何の考えもなしにホイホイとパーティーの女性と買い物に行った事だったと思うが!? あれで、貴重な聖金パーティーの戦力を失った自由ギルドにどれだけ怒られたと思う!?」
「うっ」
「うっ! ではないわ! これらだって、ほんの一握りでしかないのだぞ!」
ロイス父さんがバツの悪そうな表情をする。いつの間にか、ロイス父さんが正座していた。
「逃げるでない! アテナ!」
「あっ、ちょっと!」
そして、ピューピューと吹けない口笛を吹きながら、その場を離脱しようとしたアテナ母さんをクラリスさんが鎖を放って、拘束した。
「ちょっとではないぞ! 男性だけでなく、女性までその気にさせたこの無自覚スカポンタンッ! 何度、恋仲だったり、婚約していたり、結婚していた男女がお主を取り合って揉めたかっ! 何なのか!? そういう趣味なのかえ!? 酷い趣味をしておるの!?」
「ち、違うわよ! そんな訳ないじゃない! それに私はロイスと違って、直ぐに気を付けたじゃない!」
「何が気を付けただ! ロイスへの恋心を自覚して、自分がしてきたことをロイスにされて、ようやく気が付いたの間違えだろうて! 儂、お主にはかなり説教したはずなのだが、お主、『そんなこと、ありえないじゃない~』とか言って、あらあらうふふと流しおったからにっ! 大体、気を付けてもそのあとも何度も問題起こしただろうて!!」
「うっ」
アテナ母さんもいつの間にかロイス父さんに並ぶように正座していた。
「儂がどんなに後処理に奔走したか!? お主らが平穏に過ごせているのは、儂が全てそれらを上手い具合に解決したからだろうて!!」
「「……すみません。ホント、あの時は若かったんです。今はホント、そんな事が無いように気を付けているんです。なので、子供たちの前では……はい」」
ロイス父さんとアテナ母さんがシュンと落ち込む。
……あの、帰っていいですかね。これ。
ぶっちゃけ、ユリシア姉さんもアホだと思ったのか、ルーシー様とブラウを連れて自室に戻っちゃったし。
ヂュエル様はヂュエル様で、色々とキャパオーバーな情報を知って、呆然としてるし。
と、思った瞬間。
「セオ! お主もだからの!」
あ、逃げられない。
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