第27話:豪華な夕食:Harvest festival

「え~、こほん」


 グラスを手にしたロイス父さんが縦長の食卓に座る俺たちを見渡す。


 席は向かい合って上座から順にヴィジットさんとクシフォスさん、ロイス父さんとアテナ母さん、クラリスさんとヂュエル様、ルーシー様とユリシア姉さん、俺とライン兄さん、オルドナンツとニューリグリア君だ。


 つまり、俺の両隣にはルーシー様とオルドナンツがいる。あんまり心が休まらない。ちなみに、ヂュエル様が隣にいるせいか、ユリシア姉さんが若干不機嫌だ。


 オルドナンツとニューリグリア君は軽く並べられた料理の数々に興味津々で、今すぐにでも食べ始めてしまいそうなほど、うずうずしていた。


 ロイス父さんはその様子に微笑ましそうに苦笑する。


「子供たちも我慢できないようですし、せっかくの料理が冷めてしまうので挨拶は短くすまさせていただきます」


 そしてロイス父さんは手にしたグラスを掲げる。


「此度は我が領のために来てくださりありがとうございます。では、乾杯!」

「「「「「乾杯」」」」」


 俺たちもジュースやお酒が入ったグラスを掲げ、ロイス父さんの音頭に続いた。


 そして、


「なぁ、セオ! これはなんだ!」

「ねぇ、ライン君! この丸いの、どんな料理書にも乗ってなかったけどっ?」


 色々と我慢していたオルドナンツとニューリグリア君が一気にまくしたて、目の前にあった料理を手に取る。


「ああ、それはピザだよ」


 それはピザだった。マキーナルト領で取れた香辛料と、霊虹鳥と大山猪のお肉を細かく刻んだのがチーズの上に乗っているのだ。


 凄いいい匂いがして、おいしそうである。


「ぴ、ざ? なんだそれは?」

「聞いたことがない名前だけど、もしかしてマキーナルト領だけの料理なの!?」

「い、いや~」


 俺とライン兄さんが苦笑いした。


 大山猪のソテーを食べていたユリシア姉さんがふふんっとドヤ顔しながら言う。


「せ……ツクルが考えた料理なのよ!」

「ツクル……あの、ツクルでしょうか?」

「なんと」


 ルーシー様とヂュエル様が驚いた様に目を見張る。霊虹鳥の卵を使った半熟卵のグラタンに舌鼓を打っていたヴィジットさんとクシフォスさんも驚いたように目を見張る。


 ロイス父さんとアテナ母さんが俺の名前を滑らしそうになったユリシア姉さんを軽く睨みながら、苦笑する。


「皆様もご存じの通り、我がマキーナルト家はツクル様を支援していますので、こうやって料理のレシピなどを降ろしてもらっているのです。それに、家の料理人であるアランも協力していますし」


 前世では仕事三昧で自炊していたが、いわば男飯。それに、当時はネットでレシピを調べてそれを見ながら、調理していたので、具体的なレシピはあんまり覚えていない。

 

 だから、そこらへんはアランに丸投げしているのだ。


「そのピザは、ツクル様のアイデアを元にアランが考案した霊虹鳥と大山猪の山賊ピザなんです」


 アテナ母さんがそう説明すると、ヴィジットさんとクシフォスさん、ヂュエル様が更に大きく目を見開く。


「ッ、霊虹鳥と大山猪ですと!?」

「王族ですら滅多に食べられない高級品じゃないですか!?」


 え、霊虹鳥と大山猪ってそんな高級品なの!?


 そう思ったのと同時にニューリグリア君が手にしていたピザをお皿に置いてしまう。オルドナンツは気にせず、ウマウマと言いながらピザを頬張っている。


「ねぇ、ライン君。これって僕が食べてもいいものなの?」

「え、なんで!?」

「だって、そんな高級品……」

「いやいや、大丈夫だって! こんなの、僕たちもよく食べてるし、それに今食べてるそれってユリ姉が今日の朝に運動代わりに狩ってきたものだから! なんなら、明日、僕が食べきれないほど狩ってくるし!」


 ライン兄さんがロイス父さんとアテナ母さんの方をバッと見る。


「ニューリグリア君。この街のみんなもよく食べてるし、ここでは高級品ではないから気にしなくて大丈夫だよ」

「ええ、だから、いっぱい食べてね」


 ロイス父さんとアテナ母さんがニコニコと微笑む。


 そしてクラリスさんが呆れた表情をしながら、ライン兄さんやロイス父さんの言葉に唖然としていたヴィジットさんとクシフォスさんに言う。


「ヴィジット殿、クシフォス殿。気にせん方がいい。そういうもんだと割り切った方がよい」

「なるほど……」

「そのようですね……」


 ヴィジットさんとクシフォスさんは眉間に皺を寄せつつ、納得したように頷いた。


「お、新しい料理ですかな」


 そんな中、アランやレモン、またルーシー様やヴィジットさんたちの使用人が野菜を使った色々な料理を持ってくる。


 そして、ヂュエル様がアランを見て目を見張る。


「先ほどは聞き間違えかと思ったが、まさか本当に料理を作っていたのかっ?」

「あん? 俺?」

「ああ、そうです! 大山砕きのアラン様で間違いないですな!」

「あ、ああ。確かにそうだが……なんだ? 嫌いなものでもあったか?」


 料理を配膳しながら、アランがヂュエル様に首を傾げる。ヂュエル様がブンブンと顔を横に振った。


「滅相もない! 美味しかった! だが、ロイス様と同じく英雄であらせられるアナタがこのような事をしてることに……」

「ああ、そのことか」


 アランは納得したように頷いた。


 確かに、そういえば、アランってロイス父さんたちと同じパーティーで、一緒に死之行進デスマーチに立ち向かったんだよな。


 影が薄いからすっかり忘れていたけど。


 くりぬいたトマトにチーズとローストビーフが入って軽く焼かれた料理に目を輝かせるオルドナンツを落ち着かせながら、俺は料理人の恰好をしているアランを見やる。


 すると、モッツァレラチーズとトマトを乗せたクッキーを口にしていたクラリスさんがニヤリとアランを見ながら、ヂュエル様に言う。


「ヂュエル殿。こやつは冒険者以前に料理人なのだ。あと、農民でもある」

「な!? まさか!?」

「そのまさかであるぞ。それに百年らいの付き合いの儂から言わせると、こやつはただの口うるさいおっさんだしの。英雄なんて一番似合わない存在だぞ」

「はぁっ!? うるせぇよ! お前だってただのぐうたら女じゃねぇか!」

「む、何を言うっ!」


 ……そういえば、アランも長命種だから長生きしてるんだよな。っていうか、アランとクラリスさんって百年も付き合いがあるのか。始めて聞いたわ。


 それは俺だけでなく、ライン兄さんやユリシア姉さんはもちろん、ルーシー様やヂュエル様なども目を見開く。


「お二方はそんなに長い付き合いなのですか!?」

「始めて聞いた……」

「む、そういえば、公にしたことはなかったかの? ロイス達とパーティーを組む前はこやつと二人で旅をしておったのだ」

「実際にはこいつが俺の飯をたかってついてきただけだがな。それと、お貴族様たち。俺は一応、ロイスの部下扱いだが、言葉遣いは許してくれ」

「え、ええ。彼の英雄様の一人ですし、もちろん」


 ルーシー様が代表で頷き、ヴィジットさんたちもそれに続く。ヂュエル様は新たな事実に少し打ちのめされていた。


 ユリシア姉さんがいい気味よ、と鼻で笑っていた。


 ……大丈夫かな、ユリシア姉さん。俺の経験上、そこで鼻で笑ったりすると、面倒ごとが起こる気がするんだけど。


 まぁ、いいや。


 そして、アランとクラリスさんのやり取りもあってか、空気がそれなりに緩くなり、大人組はワインを飲んでいた事もあってか、話が弾む。


 だから、俺たちも形式などを気にすることなく、気兼ねなくやり取りをする。


「あ、セオ! 最後のそれ! 俺が食おうとしてたのに!」

「うるさい! いいじゃん、オル! お前、いっぱい食ってるじゃん」

「お前だって、いつもこんな美味いもん食えるんだろ!」


 俺が最後の一枚であるローストビーフを自分の皿に載せようとして、オルドナンツがフォークで妨害してきた。


 と、その時、


「オルドナンツ。少しは我慢しなさい!」

「冷たっ!」


 ルーシー様が氷魔法でフォークを持っていたオルドナンツの手を軽く凍らせて動きを止める。


「申し訳ありません、セオドラー様。オルドナンツが」

「い、いえ……」


 俺は苦笑いする。ルーシー様の後ろでロイス父さんとアテナ母さんが睨んできて怖いからだ。


 と、薄くスライスしたパンの上に焼いた大山猪の肉をふんだんに載せ、頬張っていたユリシア姉さんがルーシー様に笑いかける。


「ルーシーは魔法が上手なのね」

「いえ、私の魔法はまだまだです」

「そうなの? 無詠唱だし、エドガーよりも魔法を使えるじゃない! ルーシーは魔法が上手なのよ!」


 ルーシー様が一瞬暗い表情をした。


「……ありがとうございます、ユリシア様」

「ユリシアでいいって言ったのに。もう」

「いえ、そういう訳にはいかないので」


 ユリシア姉さんが少し距離のあるルーシー様に唇を尖がらせた。


 と、その時、アテナ母さんがヂュエル様の方を見やった。


「そういえば、ヂュエル様は中等学園に通われているのよね」

「ああ、はい。此度はミロ王子殿下の命もあり、ここにいますが。それで、私に何か聞きたいことでも?」

「ええ。確かエドガーと同じクラスよね。あの子、学園ではどんな感じかしら? クラスメイトとして思ったことを教えてほしいのよ」

「ッ」


 アテナ母さんが「あらあら、うふふ」と微笑みながら、そう尋ねた瞬間、ヂュエル様の表情が引きつった。


 あと、クラリスさんの表情も引きつった。







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