第26話:才は才でも小才という場合もあるし、頭の良さも一言で区切られない:Harvest festival

「それで、セオ。何か言うことは?」

「……う」


 クソ。これも全部、あいつらのせいなのに。


 ロイス父さんの執務室で、正座させられている俺は、悔しそうに顔を歪めた。


 将棋の勝負に勝った俺はおっさんたちを逆立ちで街一周させた。


 のだが、逆立ちで一周している最中に、ルーシー様たちと彼女たちを案内していたロイス父さんたちに会ってしまったらしい。


 んで、合流したレモンやオルドナンツたちと一緒に屋敷に帰れば、ロイス父さんに説教されていたのだった。


「セオ?」

「お、俺は悪くないと思います!」


 ビキリ。ロイス父さんがこめかみに青筋を浮かべる。


 ひぃっ! と声を上げそうになるが、俺は勇気を振り絞る。俺には一切非がない事を述べる。


「お、俺はガッグたちに勝負を申し込まれただけだし、罰ゲームだってあいつらが提案したんです! 俺は悪くありません! 悪いのは俺に負けて逆立ちで街一周したガッグ達だと思います!」


 嘘偽りはない。本当にな――


「罰ゲームはセオが提案したって聞いたんだけど?」


 プイッ。俺は慌ててロイス父さんから顔を背ける。


「お、俺じゃないよ。ガッグ達だよ」

「セオ。僕の顔を見て、言ってよ」

「…………」


 怖い。


「セオ。僕が怒っているのはさ、罰ゲームでガッグ達を街一周させた事ではないんだよ?」

「じゃあ、俺が怒られる理由はないね。オルドナンツの所に行――」

「逃がさないよ、セオ」

「ひぃっ!」


 ピョイッと正座を解除して、逃げようとしたが、逃げられず。ロイス父さんにがっしりと頭を掴まれる。


 そして両手でこめかみ部分を抑えられる。


「セオ。僕、事前に予定を知らせていたよね」

「な、何のっ?」

「僕たちの予定を」

「わ、忘れてたよ!」

「嘘だね」

「ぎゃっ!! 痛い、痛い!! 暴力反対ッッ!!!!」


 こめかみをぐりぐりとさせられる。


 マジで痛い!! 俺は魔力を吹き上げて暴れるが、ロイス父さんはびくともせず。


 死ぬ! 死んでしまう!!


「分かったから! 知ってました! 知ってましたよ!」

「だよね。それでワザと、僕たちに出会うようにあの時間帯にガッグ達を街一周させたよね?」

「はい、しました!! どうせゴリラ並みの身体能力を持つガッグ達なんて、逆立ちで街一周余裕だから、ロイス父さんの怒られるっていう本当の罰ゲームをさせようと!! 言った! ほら、言ったから! お願いだからそれ、やめて!! マジで痛いから!! 死ぬから!」

「こんなんで死なないよ」

「うぎゃっっっ!!??」


 涙が溢れる。


 クソッ! やっぱり、これも全部ガッグ達のせいだ! あいつらのアホな雰囲気のせいで、俺までアホな事をしてしまった!! 


 普段の俺なら、こんな分かりやすい失敗なんかしないのに!!


 明日の将棋大会で、報復しなければ!!


「全く反省していないようだね」

「してる! してるってばっ!! ほら、俺の顔! 俺の顔、見てよ! 反省している顔じゃん!!」

「……はぁ」

「た、助かった」


 ロイス父さんが深いため息を吐いた。それと同時にこめかみぐりぐりが解除された。


 俺は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、這いずってロイス父さんから離れる。またこめかみぐりぐりさせられたらたまったものではない。


 無属性魔法の〝無障〟で結界も張って、ロイス父さんからの攻撃を警戒する。


「……はぁ」


 すると、ロイス父さんはもう一度深いため息を吐いた。


「セオ。今日はこれくらいにするけど、次やったら地下工房没収だからね」

「わ、分かったよ」


 流石に工房没収は困る。色々と困る。


「それと、明日の将棋大会の出場は禁止ね」

「えっ!?」

「何か問題でもあるのかな?」

「い、いえ……」


 クソ。ガッグ達に報復できないじゃないか。どうすれば……


「はぁ。こういうところは、誰に似たんだか」

「あら、私じゃないわよ」

「アテナ」

「あ、アテナ母さん」


 アテナ母さんが呆れた表情で俺を見やる。


「セオ。アナタの声、屋敷中に響いていたわよ」

「え」

「ああ、それと、もうすぐ晩御飯だから、着替えてきなさい。今の恰好で出るのは駄目よ」


 そういったアテナ母さんは俺を執務室から追い出した。どうやら、アテナ母さんはロイス父さんに用があったらしい。


 何の用か少し気になりはするが、まぁいいや。俺は廊下をトボトボと歩く。ついでに、“宝物袋”から取り出したタオルで涙とかで汚れた顔をふき取る。


「ああ、痛かった」


 ロイス父さんにされたこめかみぐりぐりんのせいで、まだ頭がズキズキする。痛い頭を抑えながら、階段を登っていたら、


「アンタ、アホじゃないの?」

「あ、ユリシア姉さん。それにルーシー様も」


 二階から呆れた表情をしたユリシア姉さんと少し苦笑いをしているルーシー様が降りてきた。


 二人で、二階で何をしていたのだろう?


「ルーシーを部屋に招いただけよ」

「ナチュラルに心を読まないでよ」

「アンタは顔に出やすいだけよ」

「そうかな?」

「そうよ。アンタ、間抜けなんだから」

「はぁっ!?」


 イラッとする。流石に俺は間抜けではない。


 と、思ったのだが、


「父さんにあんだけ怒られて、まだ自分は間抜けじゃないとでも思ってるの?」

「うぐっ」

「ルーシー。さっきも言ったけど、セオはアホなのよ」

「そ、そうでしょうか? 話を聞けば将棋で大人に勝ったらしいですし、その、アホというわけではないのでは……」


 ルーシー様が必死にフォローしてくれる。


 ……前は出会い方が悪かっただけで、ルーシー様っていい人なのでは?


 そう思ったらユリシア姉さんが鼻で笑った。


「ルーシー。ガッグたちに様は要らないわよ。それと、セオは確実にアホよ。まぁ、確かに、頭はいいのよ」

「そりゃあ、ユリシア姉さんよりもいいと思うよ。昨日だって、マリーさんの課題終わらなくて俺に泣きつい――」

「ふんっ!」

「痛っ!」


 ユリシア姉さんに間髪入れずに頭を叩かれた。ロイス父さんのこめかみぐりぐりの痛みが引いていないのもあって、それなりに痛い。


 俺が頭を抑えていると、ユリシア姉さんはそんな俺を鼻で笑った。


「ほら、こういうところよ。セオはアホなのよ」

「……なるほど」

 

 ルーシー様が納得いったように頷いた。


 う、頷かないで欲しかったんだけど……


「それにセオって、常識がないのよ」

「少なくともユリシア姉さんよりは常識――」

「また、叩かれたいの?」

「いえ、滅相も」


 俺はブンブンと顔を横に振る。


「フフ」


 すると、ルーシー様が僅かに頬をほころばせた。


「ルーシー、そんなにセオが可笑しかったの?」

「なんで、俺が可笑しい前提なのっ?」

「っるっさい!!」

「二度目は喰らわないよ!」

「ッ!」


 俺は〝無障〟を発動して、ユリシア姉さんのはたきをガードした。


 すると、頬をほころばせていたルーシー様が息を飲む。


「どうかしたの? ルーシー?」

「い、いえ。セオドラー様が無詠唱で魔法を行使していましたので、ちょっとびっくりしただけです」


 あ、そういえば、普通、無詠唱で魔法を行使するのって難しいだったけ? 


 アテナ母さんとか、街の半数以上が無詠唱で魔法を行使しているから忘れてたんだけど。


「生誕祭の時も思いましたが、セオドラー様は魔法の才能に溢れているのですね」

「まぁ、確かにセオって魔力も多いし、父さんたちも褒めるくらい魔力の扱いが上手いらしいけど、魔法の才能はあんまりないわよ?」

「どういうことですか、ユリシア様?」


 ルーシー様がキョトンと首を傾げる。


「だって、セオ。無属性以外の適性がほぼ皆無なのよ。ね、セオ」

「まぁ、そうだね。生活魔法程度でもかなり苦労するし。とはいえ、無属性魔法だけでも十分な気もするけど」


 ぶっちゃけ、普段は魔術を使ってるからあんまり気にしないけど、あれも人前じゃあんまり使えないしな。


 そう思ったとき、


「そう、なのですか……」

 

 ルーシー様が怪訝な表情で俺を見ながら、頷いた。


 うん? そんな表情をされることが今の会話であったか?


 今度は俺の表情が怪訝となるが、


「セオ! もう着替えたのかしらっ?」

「あ、やべ。ルーシー様。失礼します」


 アテナ母さんの声が響き、俺はルーシー様に軽く頭を下げて自室へと急いで戻った。






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