第25話:セオってせこいところがあるし、アホなところもある:Harvest festival
丸椅子に座った茶髪のおっさんと俺が、逆さまの大樽の上に置いた将棋盤を挟んで向かい合う。
その周りをブラウを抱っこしたレモンとオルドナンツ、そしておっさんたちが囲む。
「持ち時間はどうする?」
「俺はいつでも付き合えるが?」
「う~ん。俺はオルドナンツの案内をしなきゃいけいないし、持ち時間じゃなくて、一手二十秒はどう?」
「分かった。いいぜ!」
駒を並べながら、俺と茶髪のおっさんはルール―を決めていく。
すると、オルドナンツが俺の隣をぴょんぴょんと跳ねる。
「なぁなぁ、セオ! 全く見えないんだが! あと、どういう遊びなのか教えてくれよ!」
「あ~、オル。そこのエルフのお爺ちゃんが肩車してくれるよ。それと、将棋についても全部答えてくれるって」
ぶっちゃけ、勝負の邪魔になるので、オルドナンツはエルフの爺に任せる。まぁ、爺と呼んでいるが人族の寿命に換算すれば、エルフのお爺ちゃんもまだまだ若いのだが。
「おお、分かった! ありがとうな、エルフの爺さん! それで、どういう遊びなんだ!」
「あ、ちょっと。私によじ登らないでください! あ、私の自慢の髪が! このクソが――」
オルドナンツによじ登られ、サラサラの金髪がぐちゃぐちゃになる。
エルフの爺が無理やり肩まで登ったオルドナンツを払いのけようとするが、
「リッカレストオレンド様。オルドナンツ様はマキーナルト家の客人でございます。くれぐれもお気を付けください」
「うぐ」
レモンが釘を差し、エルフの爺は項垂れる。まぁ、エルフの爺も本気でオルドナンツを邪険に扱っているわけではないしな。
今だって、オルドナンツにぐしゃぐしゃにされた髪を整えながら、将棋のルールを教えているし。
基本、面倒見はいいのだ。この街の大人は。
「じゃあ、セオ様。裏か、表か?」
「じゃあ、表で」
「分かったぜ」
俺と茶髪のおっさんは互いに自分の金の駒二つを手のひらで転がし、盤上で投げる。
落ちた金の駒が盤上で跳ね、四つの駒の内、三つが裏となる。
「じゃあ、俺が先行だな。セオ様」
「はいはい。あ、誰かタイムキーパーをお願い」
「では、俺がやろう。ちょうど、さっき使っていた時計もあるしな」
禿頭のおっさんがタイムキーパーをすることとなり、茶髪のおっさんが歩を動かした。
将棋が始まった。
Φ
「なぁ、まだ続くのか?」
「しっ。今、いいところなんですから!」
「何がだよ。ぜんぜん面白くねぇぞ」
二十秒以内に差し続けること一時間近く。
ブラウを抱っこしていたレモンはライン兄さんたちの様子を見に行ったのか、既にこの場にはいなかった。
オルドナンツはつまらなさそうにエルフの爺の頭を叩く。
が、それらとは裏腹に、いつの間にか俺たちの周りには一時間前以上におっさんが集まってきた。
それだけでなく、十五歳とかそこらの子たちや、若い人たちなど、男女関係なく集まってきた。
「おいおい、ガッグ! そこは桂馬を動かすべきだぞ!」
「セオ様! なんで、今、銀を動かしたんだ!」
「ほら、言わんこっちゃない! 飛車が取られたじゃねぇか!」
「ガッグ! 香車をもっと使え!」
まぁ、おっさんたちがヤジを飛ばすのは変わりはない。
しかし、
「全く。将棋大会は明日だっていうのに……それにしても、やっぱりセオ様は凄いね」
「今のうちに、研究しないとな」
「今年こそいい結果を出して、リリカにいいところを見せるんだ!」
「やっぱり、セオ様は解説に回した方がいいんじゃね? あれじゃあ、今年も優勝されるぞ!」
「いやいや、今年はエウ様も参加するらしいから、分からんぞ!」
「まじで、エウ様も来るのか!?」
若い人たちも観戦しながら、思い思いに話していた。
そんな中、俺はかなり集中していた。
“
茶髪のおっさんも“思考加速”とか使えるのだろうが、使用を制限しているようだし、ここはフェアにいかなければならない。
それで、一手に掛けられる時間が二十秒というシビアな状況。
去年の将棋大会で、茶髪のおっさんと戦ったときは、かなり弱かったから、ぶっちゃけ二十秒制限でもさっさと勝てるだろうと思ったのに、案外に粘る。
やっぱり、二年も経てば定石とかも洗練されてくるよな、とは思いながら、俺は王の駒を動かす。
「ッ!」
「おいおい! あれじゃあ、王手掛けられるじゃねぇか!」
「流石のセオ様も流石に疲れて来たんじゃねぇか!」
「アンタたち、アホだね! あれは挑発だよ!」
「挑発だと!?」
「そうさね! でもあたしなら、挑発し返すよ!」
「なるほど! 確かに、そうするとセオ様の意表を突ける!」
外野がうるさい。
っていうか、ぺちゃくちゃと俺の戦略をネタ晴らししてくるのがうざったい。
まぁ、今回の誘いはそれすらも戦略に取り入れてはいるが。
果たして茶髪のおっさんが外野の言葉に惑わされて、罠にはまってくれるかどうかが鍵だが……
と、茶髪のおっさんが同じく王の駒を左斜め前に動かした。
「おお! ガッグも挑発し返したぞ!」
「これ、どうなるんだ!」
「うるさいね。黙りな! あたしも考えているんだから!」
よし!
思い通りに誘導できたため、心の中でガッツポーズをしながらも、俺は駒を直ぐには動かさない。
ここはあえて考えているフリをして、二十秒限界まで粘る。
「よし」
茶髪のおっさんが、小声で呟く。俺の意表を突いたと思ったのだろう。
だが、間違いだ!
「残り一秒」
タイムキーパーの禿頭のおっさんがそういったとき、俺は持ち駒の歩を手に取り、差す。
そして少しして、周りがざわめき出す。
「……おいおい、これってまさか!」
「……ああ、たぶん、そうだ!」
「って、ことは、やばくねぇか!」
「詰んだんじゃねぇか!?」
「いや、まだ、セオ様がミスれば!」
「普段ぼやっとしてても抜け目ないあのセオ様がミスるか!?」
「いや、それでいて抜けてるじゃねぇか、セオ様!」
王手ではないし、まだ、詰んだわけではない。というか、歩で王手をかけて詰ませるのは打ち歩詰めで反則だしな。
だが、今の盤面と俺の持ち駒。
茶髪のおっさんがどんなに頑張っても、詰将棋のように結局、俺の差し方さえミスらなければ王を取れる。
茶髪のおっさんが、愕然とする。
「外野の言葉を聞いて、俺を挑発し返したのが悪かったね」
「ッ、まさか! それすらも、利用して!」
「好き放題俺の戦略をしゃべるんだよ。少しは利用させてもらわないと」
「ッッ!!」
茶髪のおっさんが更に愕然とする。外野も驚く。
「おいおいマジかよ!」
「俺らすらも、セオ様に嵌められたのか!?」
「ッ! これは、駄目だね! 明日の将棋大会のルール変更をしないと!」
「確かに、これはよくねぇぞ! 純粋な将棋の勝負じゃねぇ!」
ああ。明日はこの手使えなくなるのか。結界で隔離とかになるのかな。
そう思いながら、俺は茶髪のおっさんにニヤッと笑った。
「それで、そろそろ二十秒経つけど、打たないの?」
「……負けだ。俺の負けだ」
「フハハハハ!! 俺の勝ちだぞ! 俺の勝ちだ!」
俺はガッツポーズした。やっぱり、勝負は愉しいよな。争いは好きじゃないけど、ゲームの勝負は愉しい!
「オル! 見てたよね! 子供の俺だって大人に勝てる――」
そしてエルフの爺に肩車されているオルドナンツを見やって、
「あれ?」
いなかった。オルドナンツがエルフの爺の肩にいなかった。
「あの、セオ様。あのクソが――こほん。オルドナンツとやら、つまらなくてレモン様の所に行きましたよ」
「え?」
「本当ですよ。それと、レモン様からの伝言ですけど、『いつまでもアホやってないで、オルドナンツ様の案内をしてください』、だそうです。」
「はぁッ!?」
え、レモン、俺を挑発してたじゃん。勝負を受けるように促してたじゃん。
それでこの仕打ち?
なんか、無性にムカついてきた。
なので、俺は茶髪のおっさんと、周りのおっさんたちを見やる。
「ねぇ、ガッグ? それと皆?」
「なんだよ」
「賭けの内容、覚えてるよね?」
「「「「「あ」」」」」
俺は苛立ちをぶつけるように、叫ぶ。
「ほら、逆立ちで街一周してきな! 負けたんだから、さぁ、早く!」
「あ、ちょっと! 流石に今日、逆立ち一周はマズくねぇ――」
「いいから、一周! 俺はそれを笑いながら眺めるから!」
「クソッたれが!」
おっさんたちは逆立ちで街一周をスタートした。
そして俺はニヤリと笑う。
「本当の罰ゲームを楽しんでね!」
そう、逆立ちで街を一周させる事が罰ゲームなのではない。その道中での出来事がガッグたちにとっての本当の罰ゲームなのだ!
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