第24話:セオの発想もおっさんのそれと大して変わりない:Harvest festival

 アテナ母さんにルーシー様の事を頼まれあたと。


 ルーシー様たちが長旅の末、到着したというのもあり、それぞれの部屋で休息をとってもらった。


 夕食なども無難なものになった。


 どうやら、ルーシー様たちが来たことを歓迎する晩餐は、明日らしい。


 そして、何事もなく俺たちはその日を終えた。


 

 Φ



 そして翌日の昼。


 ロイス父さんやアテナ母さんを始めとして、ラート街の有力者たち。あとは、ルーシー様たちを含めた有力貴族たちによって収穫祭の開会式が行われた。


 去年とかは、夜にお酒やらどんちゃん騒ぎをしながら開会式だったのだが、まぁ流石に今年はそういうわけにはいかなかったらしい。


 その後、ロイス父さんたちはルーシー様たちや他の貴族たちと一緒に会談したり、ラート街の案内などをしていた。


 ユリシア姉さんはマキーナルト家長女として連れていかれたが、俺たちはそういった面倒からは解放された。


 代わりに、


「おい、セオ! あれはなんだ! あれは!」

「痛い、手を引っ張るな!!」


 ルーシー様たちに同行しなかったオルドナンツたちの面倒を見ていた。


 俺たちはラート街に来ていた。


「あ~う!」

「ブラウ様。お酒は駄目ですよ」


 ブラウはおっさんたちが樽から直接お酒を飲んでいる光景に興味を示し、レモンが見ちゃだめですよ、と目をふさぐ。


 そしてレモンが酔っぱらったおっさんたちに、「教育に悪いですよ」と殺気をぶつけていた。


 おっさんたちが縮こまっていた。


「ねぇ、ライン君! あの人の肩にいるのって、もしかして翡翠鳥!! 翡翠鳥を使役しているの!?」

「ああ、あれは使役じゃないよ。あの人、宝石細工の人で、知らない間にいついたんだって」

「え、そんなことあるの!? 臆病で、人里離れた森に生きているんだよ! それがなんで!?」

「さぁ?」


 そしてニューリグリア君のまくしたてるような質問にライン兄さんが答えていた。


 にしても、やっぱりいつもよりも人が多いな。


 行き交う人たちを見て、俺がそう思っていると、


「おい、セオ!」

「ぅるさいな。耳元で叫ばなくても聞こえているよ」


 しびれを切らしたオルドナンツが俺の耳元で叫ぶ。


 相変わらず鬱陶しい。


「なぁなぁ、セオ! ほら、あのおっさんたち、何してんだよ!」

「あ~」


 オルドナンツが俺の手をグイグイ引っ張り、指を差す。


「ちげぇ! そこは歩を動かすんだよ!」

「何言ってんだ、アホ! まずは銀を動かしてだな!」


 その方向には酒が入っていたであろうひっくり返したからの大樽に将棋盤を置き、将棋を差ししているおっさん二人と、それをが取り囲んでヤジを飛ばしているおっさんたちがいた。


 おっさんしかいねぇじゃねぇか。


 いや、中には爺さんや見た目だけは若いエルフや妖人族などがいた。


 まぁ、どちらにせよ、


「うるせぇよ、お前ら! これは俺の勝負だぞ! 黙れや!」

「なんだと! 俺はお前にグラス一杯賭けてんだぞ! いいから、俺の指示に従えや!」

「あん、何だと!!」 

「お、ヤんのか!」

「いいぞ、やれやれ! やっちまえ!」


 醜い。


「おいおい、セオ! 喧嘩し始めちゃったぞ! いいのか!」

「アホとバカしかいなんだし、いいよ」


 どうせ喧嘩は守護兵団の人たちが止めるし、まぁ収穫祭の時ぐらいはハメ外してもいいだろ、と思って投げやりに答えたら、オルドナンツがアホだった。


「なぁ、セオ! どっちがアホで、どっちがバカなんだ!!?」


 大声で、喧嘩しているおっさんたちを指さして、大声で言った。なお、純粋な少年の顔を見る限り、悪気はない。っつか、五歳だしな。


 が、喧嘩していたおっさんたちが一斉にこっちを見た。


「ああん!! 誰がアホで、ぐうたらなごくつぶしだって!!」

「俺らだって働いてんだぞ! つい昨日だって、セオ様の思いつきに付き合あわされて、曲げわっぱなんてもん作らされたんだからな!」

「あ、それはありがとう」

「ありがとうだと?」


 ぐうたらでごくつぶしは、たぶん奥さんたちに言われてんだろ。と思ったが、口には出さないでおく。


 おっさんたちが俺の答えに首を傾げ、ようやく俺たちに気が付く。


「って、セオ様たちじゃねぇか。あっちにはライン様がいるし」

「ホントだ。セオ様じゃん。ってか、うげぇ。鬼狐もいる――」

「私が何か?」

「い、いえ……」


 レモンが睨めば、狼獣人のおっさんがダラダラと冷や汗をかく。隣のエルフのおっさんが、慌てて話を逸らす。


「そ、そいういえば、セオ様。その隣のガキ――こほん。子供は誰ですか? 見ない顔ですけど……」

「あん、俺か? 俺はオルドナンツ・オーバックだ! オルって呼んでくれ! エルフのおっさん!」

「お、おっさん……これでも私、まだ百歳なんですが……」

「百歳だと!! じゃあ、爺さんじゃねぇか!」

「じ、爺……」


 エルフのおっさん――改め、エルフの爺が、しょげる。まぁ、オルドナンツみたいな裏表一切ないやつに爺って言われると確かにきつい。


 ついでに、狼獣人のおっさんや人族のおっさんたちが、エルフの爺を「おじいちゃん、腰大丈夫ですかぁ~?」などと煽っているのも利いているのだろ。


 ってか、また、口論になり、手が出そうになり始めていたのが。


 しかし、オルドナンツはそんな事一切に気にすることなく、無邪気に尋ねる。


「んで、おっさんたち! さっきは何やってたんだ!」


 その無邪気というか、子供特有の空気の読まさなさにおっさんたちも戸惑い、口論をやめる。


 茶髪のおっさんが答える。


「ええっと、将棋っていう遊びだ」

「しょうぎ? ……そういえば、親父がなんかそんな遊びがあるって言ってたな。面白いのかっ?」

「面白いと思うぞ。まぁ、坊主にはまだ早いと思うがな。将棋は頭のいいやつしかできない遊びなんだ」


 ……お、おい、この茶髪のおっさん。子供相手にドヤ顔してるぞ。オルドナンツが子供だから、あっち行ってろ的な表情だぞ。


 俺とレモンが引いた様子を見せる。レモンの腕の中にいるブラウは「あう?」と首を傾げていた。


 と、


「頭のいい? でも、さっき、セオがおっさんたちの事、みんなアホとバカって言ってたぞ!」

「あ」

「んだとッッ!!」


 茶髪のおっさんを筆頭に、全員が俺を睨む。


「おい、セオ様! いくら将棋の発案者で、去年の将棋大会で優勝したからって、随分というじゃねぇか!」

「そうだ! 最近、セオ様、調子に乗ってるぞ! 収穫祭でスマートボールとか射的とか、輪投げとか、色々と提案したそうだが、俺たち大人を舐めていると痛い目見るぞ!」

「そうだそうだ!」

「たまには俺らに花を持たせろ!」

「あと、来週の集団魔法稽古で手加減してくれ! 次、負けたらカミさんにどやされる!」


 ……こいつら、子供相手にプライドがないのかな?


 ってか、一応だけど、領主の息子なんだけど。ロイス父さんたちの子供なんだけど。後ろにメイドのレモンがいるんだけど。


 まぁ、忌憚なく接することができているのだから、悪いことばかりではないが。


 と、オルドナンツがそんな駄目なおっさんたちを純粋な目で見上げる。


「なぁ、結局、おっさんたちはアホなのか? あのしょうぎ? でセオに負けたのか?」

「ッ! 上等じゃねぇか! その喧嘩、買ったぞ! セオ様。俺と勝負しろ!」

「えぇ……」


 面倒。嫌。


 ありありと、俺の表情が歪む。 


 まぁ、なので断ろうと思ったのだが。


「セオ様。そのような顔をするものではありませんよ」

「レモンもそんな悪い顔するもんじゃないと思うよ」

「なんの事ですか? それよりも将棋、しないんですか?」


 ニヤニヤと笑うレモン。楽しそうだな、こいつ。尻尾が面白いと言わんばかりに揺れているし。


 だが、レモンがいくら面白がろうと、俺は将棋なんかしない。


「なぁ、セオ! お前、あのおっさんに勝てるのか? 流石に、子供のお前じゃ大人に勝てないのか」

「……勝てるよ」


 ……おっさんたちやレモンに煽られたのはどうでもいい。


 が、オルドナンツ。


 こいつの純粋なアホさにはムカつく。


 っつか、ここでいっぺん俺がおっさんたちに将棋で勝てるところを見せないと、あとで一生何か言われそうだ。


 それが面倒。


 なので、


「俺が勝ったら、逆立ちで街一周してくれるならいいよ?」

「よし、乗ったぜ! なら、俺たちが勝ったら、セオ様には俺たちが望む分だけマドレーヌを作ってもらうぞ!」

「マドレーヌ? 何で?」


 一昨年に収穫祭の時、いくつかの料理やお菓子を披露した。で、マドレーヌも確かその中にあったのだが……


「セオ様が作ったやつが一番、美味いからって嫁さんがいつも作ってもらえって言ってんだよ!」

「そうだ、そうだ! 純度の高い砂糖がどこでも手に入ると思うなよ!」

「今年も、色々とお菓子提案したそうだが、カミさんたちが作ってもらえってせっついてくんだよ!」

「だが、用もねぇのにセオ様にお願いできねぇだろ!」

「なにそれ」


 俺は驚く。確かに俺のうろ覚えの記憶から、形にするためにアランとアテナ母さんの伝手をたどって街の女性に試食とかを頼んだけど……


 色々と面倒なことになってそうだな。


「まぁ、いいや。いいよ。その条件でいこう」

「よし! これで毎晩、寝るときに愚痴られずに済むぜ!」


 ……俺に勝てなかったら、また愚痴られるだけだと思うんだけど。


 いや、まぁ、いつか機会作って、作ろうとは思うが。






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